アルツハイマー病などのさまざまな認知症疾患の原因の1つとして、脳内に「タウタンパク質」と呼ばれる物質が蓄積することが挙げられています。このタウタンパク質はグリアリンパ系といういわば「脳の廃棄物除去システム」によって除去されるのですが、老化が進むとこのグリアリンパ系が機能しなくなり、認知障害を引き起こすことがわかっています。ロチェスター大学医療センターの研究チームが、老化で機能しなくなったグリアリンパ系を改善する治療法を発表しました。

Restoration of cervical lymphatic vessel function in aging rescues cerebrospinal fluid drainage | Nature Aging

https://www.nature.com/articles/s43587-024-00691-3



Cleaning up the aging brain: Scientists restore brain's trash disposal system | ScienceDaily

https://www.sciencedaily.com/releases/2024/08/240815124156.htm

グリアリンパ系は、脳脊髄液(CSF)を使用してニューロンや他の脳細胞が通常の活動中に生成するタウタンパク質を洗い流すというもの。健康で若い脳では、このシステムは有毒なタウタンパク質を効果的に除去することができますが、加齢とともにその機能が低下し、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患のリスクが高まるといわれています。



研究チームは、高度なイメージング技術と粒子追跡技術を組み合わせて、脳から排出される脳脊髄液の経路を詳細に観察しました。特に、頸部のリンパ管を通る経路に注目し、リンパ管の拍動を観察・記録することに成功しました。

リンパ管は「リンパ分節」と呼ばれる機能単位で構成されており、これらが連なってリンパ管を形成しています。研究者たちは、マウスの加齢に伴ってこのリンパ分節の収縮頻度が低下し、弁の機能が低下することを発見しました。その結果、老齢マウスの脳からの脳脊髄液の流れは、若いマウスと比べて63%も遅くなっていました。

この問題を解決するため、研究チームは「プロスタグランジンF2α」という薬品に注目しました。この薬品は平滑筋の収縮を促進するもので、陣痛誘発などに使用されます。リンパ分節が平滑筋細胞で構成されていることから、研究者たちはプロスタグランジンF2αを老齢マウスの頸部リンパ管に投与しました。

その結果、リンパ分節の収縮頻度が上がり、脳からの脳脊髄液の流れが若いマウスと同程度にまで回復しました。これは、加齢による影響を逆転させ、脳の廃棄物除去プロセスを復活させることができたことを示しています。



研究チームは、この研究成果がアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に対する新たな治療アプローチの可能性を示唆しており、特に臨床ですでに使用されている薬物を利用できる点は、将来の治療戦略として非常に有望だと述べています。

また、研究チームは今回の発見をヒトに適用するための研究が進められることを期待しており、この手法を他の治療方法と組み合わせることで、アルツハイマー病をはじめとするタウタンパク質の蓄積が原因となる疾患への効果的な治療法の開発につながる可能性があると主張しました。