動物に物事を理解する知能はあるのか、それとも本能で動いているだけなのかは見解が分かれることが多いですが、馬は鏡に映った像を自分だとわかる自己認識能力があるなど、想像以上に賢いことがわかっています。イギリスのノッティンガム・トレント大学とセントラル・ランカシャー大学の専門家たちは、馬にカードを使ったタスクをプレイさせる実験により、「馬はこれまで考えられていたよりもさらに賢い」という研究結果を示しています。

Whoa, No-Go: Evidence consistent with model-based strategy use in horses during an inhibitory task - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168159124001874

Whoa, No-Go: Evidence consistent with model-based strategy use in horses during an inhibitory task - CLOK - Central Lancashire Online Knowledge

https://clok.uclan.ac.uk/52113/



Horses much more intelligent than we thought, study suggests | Nottingham Trent University

https://www.ntu.ac.uk/about-us/news/news-articles/2024/08/horses-much-more-intelligent-than-we-thought,-study-suggests

馬は騎馬や馬車として移動に用いられた例や、競走馬としての活躍など、人間の生活に密接な動物の一種です。しかし、競走馬はレースに参加している自覚がないだけではなく、同時に走る馬よりも速く走ろうという欲求もないと専門家が指摘しているように、馬はあまり知能が高くないと考えられることがあります。

競走馬が「自分がレースしている」ことを認識している可能性は低い - GIGAZINE



一方で、2021年にピサ大学の研究チームが動物の「鏡に映った像を自分自身と認識する能力」の有無を調べる「ミラーテスト」を馬に対して実験した結果、馬にはある程度の自己認識能力があることを示しました。ミラーテストをクリアしたことによる自己認識能力が、知能や認知能力にどこまで関係しているかは意見が分かれる点ですが、ミラーテストの研究結果を受けて専門家は「馬は私たちが考えているよりも賢いかもしれません」と述べています。

馬が想像以上に賢いことが「ミラーテスト」から明らかに - GIGAZINE



2024年7月にノッティンガム・トレント大学の応用動物行動科学者であるルイーズ ・エヴァンス氏らが発表した論文では、馬がどのように学習するのか理解するために、ライトとカードを使った実験を行いました。実験のために、同大学で飼育管理されている11歳〜22歳の20頭の馬がランダムに選択され、うち7頭が雌、13頭は去勢済みの雄が選ばれました。参加する馬は日課や運動時間、睡眠時間などに影響が及ばないように配慮されています。

実験ではまず、馬が報酬をもらうために鼻でカードに触れるというタスクを覚えさせました。次に、ライトが点灯している時にカードを触っても報酬はもらえず、ライトが消灯している時にカードを触った場合のみ報酬を獲得できるルールを追加。最後に、ライトが点灯している時にカードを触った場合に、ペナルティとして報酬がもらえないだけではなく、10秒間タスクを行えないようにしました。



結果として、ライトを導入した第2段階までは、ライトの有無や点灯・消灯に関係なく、馬たちは無差別にカードに触れ、条件により報酬を受け取りました。ライトが消灯している時にカードに触れたことで報酬を得た馬も、たまたまそのタイミングで動いていたのみで、タスクを正しく実行できていなかったと研究者らは指摘しています。

一方で、最終段階としてタスクの失敗に伴うペナルティを追加した後は、参加したすべての馬のミスが大幅に減少したと研究者らは報告しています。最終的に、馬たちは報酬をもらうために「ライトの点灯・消灯を気にして、消灯の時にカードを触る」というゲームを正しくプレイすることができていたそうです。

主任研究者のキャリー・イジチ氏は、「最初、馬はカードを何度も触り続けるだけでした。おそらくこの段階では、タスクについて大した注意を払うことなく、最小限の精神的努力で報酬が得られることに馬が気付いたのです。しかし、ミスに対するペナルティを導入すると、馬は即座にゲームを理解し、適切にプレイできるようになりました。馬はあまり賢くないと考えられることが多いですが、今回の研究は、実際には私たちの考えているよりも馬が認知的に進んでいることを示しています」と語っています。

イジチ氏によると、タイミングを見極めてカードを触るようなゲームをする場合、人間では前頭前野を用いて思考をすると考えられていますが、馬の前頭前野は非常に未発達であるとのこと。そのため、馬はタスクをうまくこなすことができたとしても、人間と同じようにプレイしているかは不明で、イジチ氏は「動物の知性や知覚力について、人間と同じような形で推測すべきではないということも、今回の研究結果が教えてくれます」と研究の意義について述べました。



エヴァンス氏は研究の結果を受けて、「ペナルティの追加によって馬のパフォーマンスが向上するだろうと予想していましたが、結果は想像以上に顕著でした。動物は通常、同じ作業を繰り返して徐々に新しい知識を獲得していきますが、今回実験に参加した馬たちはペナルティが導入されてすぐに改善しました。これは、馬が想像以上に賢く、初めからルールを認識していたことを示唆しています」と分析しています。