Computexで講演するエヌビディアのジェンスン・フアンCEO。 SOPA Images/Getty Images

TECH INSIDER 2024年6月28日掲載の記事より転載

・ベイン・アンド・カンパニーの最新調査によると、アメリカの企業の大多数が生成AIツールを導入している。

・だがほとんどの企業は、これらのツールのどこから価値が生まれるのかを理解していない。

・専門知識を持つ人材の欠如は、企業が広範にAIを導入する際の最大の障害となっている。

企業は、異例の速さで生成AIを導入している。そうなると次は、この大規模投資からいかにして利益を得るかという問題が出てくる。

コンサルティング会社、ベイン・アンド・カンパニー(Bain&Company)が企業を対象に行った最新調査の重要な結果は、その点にある。

この調査は、売上高が500万ドル(約8億円)以上のアメリカ企業200社を対象に実施された。半数はハイテク企業で、残りは小売・消費財、製造、ヘルスケア、金融サービスの企業だった。主な調査結果は以下の通り。

・85%の企業が、AIの導入を優先事項の上位5位までに挙げた。12%がAI技術を最優先事項に挙げ、優先事項ではないとしたのは1%だけだった。

・言語生成とソフトウェアコーディングは、あらゆる業種の企業で最も一般的なAIアプリケーションとなっている。

・これらの企業は、生成AIに年間平均500万ドル(約8億円)を費やしている。

・調査対象企業の5分の1は、生成AIに年間5000万ドル(約80億円)以上を費やしている。

・売上高が50億ドル(約8000億円)以上の企業の生成AIへの年間平均支出は1310万ドル(約20億円)だった。

・年間売上高が5億ドル(約800億円)以下の企業は、生成AIに年間平均160万ドル(約2億5000万円)を費やしていた。

投資に値するのか

ほとんどの企業はベインに対し、生成AIは期待通りか、期待を上回っていると答えた。しかし、大規模なAI投資に値するビジネスケースははっきりしていないとも述べている。

これは、エヌビディア(NVIDIA)やマイクロソフト(Microsoft)、OpenAI、グーグル(Google)といった大手AI企業がまだ答えを出していない重要な問題だ。これらの大手IT企業は、将来的にAIが多用されることに賭けているが、ブームが継続するには、顧客がこれらの新たなサービスに価値を見出す必要がある。

早い段階から生成AIの導入が急速に進んでいたにもかかわらず、ベインが調査した企業のうち、生成AIをどのように利用し、いかにして価値を付加するかについて明確なビジョンを持っていたのはわずか11%だった。それはビジョンや人材の問題かもしれないし、ツール自体の問題かもしれない。

とはいえ、ほとんどの企業は試したAI技術が期待通りだったと答え、期待外れだったという答えはかなり少なかった。

主な懸念事項

ベインの調査によると、生成AIのアウトプットの品質に関する懸念は、データプライバシーやセキュリティの懸念と結びついており、企業がAI技術の導入を加速させる上での障壁となっている。

また、社内で専門知識を有する人材が不足していることもある。ベインが2023年に実施した同様の調査と比較すると、専門知識に関する懸念が高まっている一方で、パフォーマンスとセキュリティに関する懸念は薄れている。

ベインの未公開株式部門で生成AIの取り組みを率いるジーン・ラパポート(Gene Rapoport)によると、企業のCEOたちはAIツールの導入について、もっと主体性を持つ必要があるという。その理由として、ほとんどの企業が生成AIによって売上が増加し、従業員の生産性と効率が向上することを期待しているが、それをいかにして実現させるかについて完全に理解している企業は非常に少ないということを挙げている。

コスト削減の推進

AIツール開発の最前線にいる人は、基盤となる技術の力やこれまでの技術的ブレークスルーを理由に、それほど懸念していないようだ。

「新しい技術に投資すると、見返りが期待できるという自然なサイクルがある」と、AI投資家でワシントン大学名誉教授のオーレン・エチオーニ(Oren Etzioni)は述べている。

「投資利益率(ROI)の向上については、非常に楽観的に考えている」

彼は、ROIを向上させるには2つの方法があり、それを実践すべきだと強調した。1つは売上に対する明らかな貢献、もう1つはコストの低下だ。

「分野として、コンピュータ科学者はコストの削減に非常に長けている。(AI導入の)開始から19カ月が経過したが、クエリあたりのコストは大幅に低下しており、トレーニングの効率も向上している」

エヌビディアのジェンスン・フアン(Jensen Huang)CEOは、10月に台湾で開催されたComputexの基調講演で、AIモデルのパフォーマンスが向上するよりもコンピューティングコストが急速に増加する「コンピューテーション・インフレーション」を非難し、「この状況を続けるべきではない」と早急な解決を訴えた。

Photo: SOPA Images/Getty Images