福岡国際センターで開催された「QBEE 2024」

活気を取り戻した展示会

九州最大のプロ向け放送・業務用機器展「九州放送機器展 QBEE」が、7月17日、18日の2日間、福岡国際センターにて開催された。昨年も取材しているが、今年は出展社も大幅に増え、2階の展示スペースも半分以上が埋まるという盛況ぶりだった。

QBEEの特徴は、中国のBIRTV、ヨーロッパのIBCのちょっと前ということで、まだ発売されていない製品や発表もされていない製品が、ユーザーの反応を見るためにこっそり展示されていたりすることである。

32bitフロート録音で知られるZOOMも新製品を展示していたが、公式発表前ということで……

もちろんそれ以外にも、普段は見ることもできないようなバックヤード装置などもじっくり見られることで、放送だけでなく設備系の事業者にも貴重な展示会となっている。

今回は展示されている数々のソリューションのうち、AV Watch読者の興味ありそうな製品をピックアップしてお伝えする。

HDMIでキー信号も伝送!? ローランドの新機能

ローランドブースでは、8月下旬発売の「V-80HD」をメインで展示していた。2021年に発売されたストリーミングビデオスイッチャー「V-160HD」の入力数を半分にした小型モデルだが、AVミキサー「VR-120HD」や「VR-6HD」で好評だったポン出し用のパッドも備えた意欲作だ。

各種スイッチャーが自由に触れるローランドブース

8月下旬発売予定のV-80HD

これももちろんニュースではあるのだが、今回注目したいのはV-80HDにフィーチャーされた新機能「Graphics Presenter」だ。

アニメーション付きグラフィックスが簡単に作れる「Graphics Presenter」

配信をリッチに見せたい場合、映像のクオリティはもちろんだが、文字情報の充実も欠かせない要素だ。これまで多くのユーザーはPowerPointなどを使って、対戦表や得点ボードといったものを作ってきたが、ライブでどんどん作って合成するには使い勝手の面で限度がある。また背景を切り抜いて合成するには別途マスクが必要だが、大変なので黒バックにルミナンスキーで対応したり、グリーンバックでクロマキー合成するケースも多かっただろう。

こうした課題を解決するのが、今年8月下旬から無償提供が予定されているソフトウェア「Graphics Presenter」だ。全く新しいデザインを自分で作ることはできないが、プリセットされたアニメーション付きのパターンに文字や数字を入力するだけで、簡単に見栄えの良いグラフィックを生成できる。

注目は、その信号の伝送方法だ。「Graphics Presenter」はPC上で動くソフトウェアなので、作ったグラフィックはPCのHDMI端子を使って出力できる。その1本のHDMIに、フィル(表面)信号とキー(マスク)信号が同時に出力されている。

スイッチャー側でこの入力を受け、DSKなどエクスターナルキー機能があるキーヤーにアサインすると、フィル・キーを使ったグラフィックス合成が可能になる。

独自の「Roland Fill+Keyモード」で合成する

数年前になるが、フィル信号に4:2:2、キー信号に0:2:2を割り当て、トータル4:4:4で伝送するという技術デモを見たことがある。これも恐らく似たような原理なのだろう。

夏に発売となるV-80HDはすでに対応済みだが、既発売のモデルもアップデートで対応できるようになる。対応モデルは、V-1600HD、V-8HD、VR-120HD、VR-6HD。ここ2~3年の発売で、エクスターナルキー付きモデルが対象となるイメージだ。

ローランドのスイッチャーは、発売後にもアップデートでどんどん機能が追加されるのが特徴だが、この夏のアップデートはかなり大きな反響を呼びそうだ。

ボーズ得意のラインアレイスピーカーをリニューアル

コンシューマでも人気の高いボーズだが、小規模なPAスピーカーも古くから展開しており、名機「BOSE 802」などは筆者が学生の頃から憧れの人気モデルだった。

802もそうだが、元々ボーズは口径が小さいスピーカーを沢山並べて音圧を出すという独特の方法でシェアを広げてきた。レンジを分けて大中小のスピーカーでバランスを取るより、特性の良いフルレンジを沢山使ったほうが、メリットが大きいと考えたわけだ。またスピーカーが細かく分散していることで、ハウリングにも強いという特徴もある。

今回展示されていたのは、「L1 Pro」というラインアレイ型のポータブルPAスピーカー。以前からL1というシリーズはあったが、2021年に新たにProモデルをラインナップ。プロから業務用製品なのでなかなか実物を見る機会がなかったが、ようやくゆっくり音を聴くことができた。

サブウーファ一体型ラインアレイスピーカー「L1 Pro8」

ラインアレイの特徴は、一般のスピーカーと違い音が上下に拡散せず、前方にまっすぐ放射されるため、床や天井の反響の影響を受けにくいことが上げられる。また各ユニットは交互に左右に角度が付けられているので、上から見ると前方180度に音が拡散する。

各ユニットは右と左に角度が付けられて配置される

底部は電源部とアンプ、簡易ミキサー、サブウーファが一体となっており、上部のラインアレイを取り外して別々に持ち運ぶことができる。

電源、アンプ、簡易ミキサーなどと一体化したサブウーファ部

アレイ部は分解して持ち運べる

もっとも小型のL1 Pro8は、8個のドライバを内蔵する。同様にL1 Pro16は16個、L1 Pro32は32個だ。なおL1 Pro32のサブウーファは、SUB1、SUB2の2モデルとの組み合わせがある。価格はそれぞれ、14万8千円、20万円、33万円、38万円。

中央がL1 Pro16、Pro8(左)とサイズ感はほぼ同じ

L1 Pro32と組み合わせで最大となるサブウーファ「SUB2」

実際にL1 Pro16を聞いてみると、細い棒が鳴っているとは思えないリッチでパワフルなサウンドだ。サブウーファもあるので、昔のボーズスピーカーにありがちな、抜けはいいが若干腰高といった傾向もなく、今風のサウンドになっている。イベントなどでステージ奥のど真ん中にこれが立っていても、まさかそこから音が出ているとは思わないだろう。

Pro8はアレイ部60W、サブウーファ240Wだが、Pro16はアレイ部250W、サブウーファ1000Wある。ライブハウス程度は当然として、イベントホールぐらいはカバーできるはずだ。

ワイヤレスでもPoEでも使える「FlexTally Pro」

タリーとは、マルチカメラによる中継や収録の際に、今スイッチャーでどのカメラが選ばれているのか、次に選ばれているのはどれかを出演者やカメラマンに伝えるための装置だ。

ライブ配信システムのLiveShellで知られるCEREVOは、以前からワイヤレスで使用できるFlexTallyを製品化してきたが、ワイヤレスの伝送スタイルの見直しと、PoE対応となった「FlexTally Pro」をこの秋に発売する。昨年のInterBEEでは試作機の展示だったが、今回は動作実機という形で展示されていた。

新たなにPoE対応となった「FlexTally Pro」

ワイヤレス運用する場合は背面にバッテリーを装着する

従来製品は、大元となるコントローラに4つのタリーがワイヤレスで繋がる格好だった。だがコントローラは客席後ろのスイッチャー卓の近くに置くことになるため、ライブなどでお客さんが沢山入ると電波が届かないといったトラブルが聞かれるようになった。

そこでProではワイヤレス伝送方式を見直し、ステージ近くにあるはずのどれか1つのタリーまでイーサケーブルで接続し、そこから他のタリーがワイヤレスで繋がるように変更。客席内の電波干渉を避けることが可能になった。

またコントローラ側も、以前はスイッチャーからのタリー信号をGPIOで受ける際、15ピン端子で接続していたが、それだと最大8カメラ分しか制御できなかった。今回は端子を25ピンに変更したことで、最大128カメラ分が制御できるようになった。

GPIOの入力を大幅に拡張した新コントローラ

またタリー側も、単に色で光るだけでなく、ドットマトリックスディスプレイとなったことで、カメラ番号を表示したり、真ん中の部分だけ小さく光らせるといったことも可能になった。設定はブラウザ上のWEBアプリで提供される。

コントローラ1台とタリーランプ4つがセットになったベーシックキットの価格は、19万8千円。

最大20チャンネル同時使用が可能なワイヤレスマイクシステム

オーディオテクニカは、2.4GHz帯の中で最大20チャンネルの同時使用が可能とするワイヤレスマイクシステム「System 20 Pro」を今年8月に発売する。

従来10チャンネルが伝送できるSystem 10 Proというラインナップがあったが、それをさらに強化したシリーズとなる。System 20 Proはレシーバー1台で4本のマイクを受信できるが、これを5台接続することで合計20チャンネルを実現する。レシーバはハーフラックサイズで、ラックマウントにも対応する。

System 20 Proのレシーバ。これを5台連結すると20チャンネル仕様となる

それぞれが自動的に空いている周波数帯域を探して接続するが、同社提供の管理ツール「Wireless Manager」での管理にも対応する。ただし20チャンネル使用するには、かなり電波状況が良好であることが条件となるため、お客さんが大量に入るライブなどでは使えるチャンネルはかなり減るという。

アンテナ部は引き抜いて、延長ケーブルで接続することもできる。なおレイテンシーを最小にするスタンダードモードを使用した場合は、最大10チャンネルとなる。

今は大人数アイドルも多いが、全員が本物のマイクを使えるわけではない。ワイヤレスマイクはデジタル伝送方式になって同時利用チャンネル数も増えたが、専用周波数帯を使った場合でも10本以上のマイクを同時に使用するのは困難だった。

System 20 Proは2.4GHz帯を使用するため、無線局の免許申請が不要なのもポイント。多チャンネルが使えるが、実際に問題なく使用できるかは現場の電波環境が大きく影響するため、運用本数は少なめに見積もってプランニングしたほうが良さそうだ。