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 イタリアのアマルフィ海岸のようだとして注目を集める和歌山の景勝地・雑賀崎。この港町に多数の野犬がうろついていて、地元住民からは不安の声が聞かれます。

「数がすごい。怖い」10年以上前からまちをうろつく野犬

 和歌山市西部に位置する雑賀崎。斜面に住宅が密集する景観から「日本のアマルフィ」とも呼ばれる港町です。しかしこの場所で今、住民らが頭を悩ませる問題が起きています。それが、野犬です。

 「突然襲ってくるっていう可能性もないとはいえへんやん」
 「数がすごいです。怖いです」
 「子どもたちが外で遊んでいるときに、危ないなと思うのでなんとかしてほしいなと思います」

 道路を歩く黒色や白色の犬。1mほどの野犬が何頭も姿を現します。

 (記者リポート)「いました。白い犬がいますね。あそこにもいます…あっ、もう1匹いました」「我々との距離は10mくらいですが、あまり警戒していなさそうです。あっ、近づいてきた」

 慣れているのか近くを車が通っていてもお構いなし。車道の車を囲うように犬が歩いています。地元住民によりますと、野犬は少なくとも10年以上前から目撃されていて、現在、雑賀崎では40〜50頭ほどが生息しているとみられます。

 けが人は今のところ出ていないということですが、野犬をめぐっては、生ごみを荒らされたり、住宅の敷地内にフンをされたりするなどの被害がたびたび発生しているというのです。ごみ置き場を木の板で囲うなどの対策はしていますが、効果は限定的だといいます。

夕方になると毎日必ず1分以上“遠吠え”

 さらに、夕方になると毎日必ず起きる現象があるということで、取材班が野犬を観察。すると、午後5時、屋外スピーカーから防災行政無線の放送が流れ始めると同時に一斉に激しく吠え出しました。辺り一帯に野犬の鳴き声が響きます。毎日この放送が終わるまで、1分以上吠え続ける犬たち。日によっては、夜中にも激しい鳴き声が続くといいます。

 「もう3頭も4頭もワンワンワンって夜の遅い時間も(吠える)」
 「夜も寝られへんねんて」

 そして夜になると周辺はまた別の“顔”に変わっていきます。午後8時、この時間帯、車で走ってみると…

 (記者リポート)「いましたいました。走ってる、いっぱいいます。あっ、3匹4匹います…4匹じゃない、もっといる」

 日中は多くても3頭ほどで行動しているように見えましたが、人通りが少なくなったからなのか大きな群れになっていました。街灯の少ない山道で真ん中に座り込んでいるため、車と接触するおそれも。取材班に気付くと、暗闇に目を光らせ激しく吠えてきます。

「飼い犬が捨てられたものから増えたと…」市は保護活動のためパトロール

 そもそもなぜ野犬はこの地域に住み着くようになったのか、和歌山市に聞きました。

 (和歌山市動物愛護管理センター 北辰悟センター長)「もともと野犬は、飼い犬が捨てられたものから増えたと言われています。(雑賀崎は)地形的にも急峻な崖になっています。人が近づくこともできないということから、あそこで生息しているのではないでしょうかね」

 こうした状況に市も黙っているわけではありません。野犬の保護活動のためほぼ毎日パトロールをしています。取材班が同行した日は、気温30℃を超える天気でしたが、車のエンジン音を聞くと逃げてしまうため、歩いて巡回していきます。

 (北辰悟センター長)「(Q野犬はいそう?)きょうはちょっとね…これだけ気温が上がると、犬もあまり出てこないですね」


 漁港で探していると、一頭の白い犬を発見。囲い込もうと職員も一斉に走り出しますが、職員を見つけた瞬間、猛スピードで走りだし、あっという間に姿を消してしまいました。

 (北辰悟センター長)「犬も分かっていますから。…向こうに逃げた?」

 その後は、人が立ち入りにくい山の斜面や茂みもくまなく探していきます。

 (北辰悟センター長)「絶壁です。こういったところに逃げるのでなかなか保護しにくいですね」

 結局、この日は2時間ほどで2頭の野犬を見つけましたが、保護することはできませんでした。市では檻の設置もしていますが、警戒心が強く、多くても月に3、4頭ほどしか入らないといいます。

専門家「犬が群れで自由にしているという状態は問題」

 野犬の保護に苦戦する和歌山市ですが、動物愛護や動物福祉に詳しい専門家は、法的な観点からも野犬保護の重要性を指摘します。

 (帝京科学大学 佐伯潤教授)「犬の場合は、狂犬病予防法という法律が適用されます。特に(狂犬病の)感染が維持されやすかったり流行しやすいのが犬ということになるので、犬は特に法律で厳しく管理されているなかでは、犬が群れで自由にしているという状態は問題なんです」

 一方で、犬はこの法律によって、本来誰かが必ず飼育していなけばならず、不妊去勢手術などをしたとしても猫のように再び地域に放すことができないといいます。

 (佐伯潤教授)「野良猫は地域猫活動があったりとか、去勢や避妊をしてまた(地域に)戻すということがあるんです。猫では一定そういうことも行われていますけれども、犬では法律上の観点からもそこは難しいです」

警戒心が強い成犬の引き取り手はなかなか決まらず

 6月23日、和歌山市動物愛護管理センターでは、野犬などの新たな飼い主を見つけようと犬や猫の譲渡会が開かれていました。

 (訪れた人)「かわいいな」
 (職員)「野犬の子どもでして」
 (訪れた人)「何歳くらい?」
 (職員)「まだ数か月」

 和歌山市は月に2回譲渡会を行っていて、この日は、パトロールで保護した子犬1匹に新たな飼い主が決まりました。しかし、成犬になった野犬は人への警戒心が強く、今年度、市の譲渡会で引き取り手が決まった野犬は、子犬が6匹なのに対し、成犬はまだ1頭だといいます。

 (北辰悟センター長)「なかなか成犬が決まりにくいというのが現状。(問題解決には)飼ったからには責任をもって最後まで飼っていただくと、これが一番大事だなと」

 人間が無責任に捨てたことが始まりとされる野犬。けが人が出る前に、少しでも減らす方法はないのでしょうか?