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これまでなかった分子レベルの保存。

精鋭科学チームが、5万2000年前のマンモスから採取した小さな分子から完璧に保存されたゲノム構造を発見しました。乾燥したマンモスの皮膚は非常に良い状態で保存されており、マンモスの染色体は無傷だったとのこと。この発見により、マンモスを前例のない形で観察することができたそうです。

Photo: Love Dalén, Stockholm University

地球最後のマンモスは4000年前に絶滅。どれくらいの時期だったかというと、エジプトでピラミッドの一部がすでに建設されていたころ。今回科学チームが調査したのは、5万2000年前と3万9000年前のマンモスのサンプル。時期的には、現代でいう私たち人類が、まだネアンデルタール人と共存していたころです。

マンモスの遺骸は、かつてマンモスたちが生息していたステップ全域で発見されてきています。遺骸は永久凍土の中で保存されることが多いのですが、解凍と再凍結の過程で動物の軟組織の微細構造が損傷してしまいがちです。しかし、ときには保存状態が驚くほど良いこともあります。例えば2022年には、ユーコン準州の金鉱で完璧な状態で保存されたマンモスの子が発見されました。しかし、今回の発見についてはまったく異なるスケールでした。分子レベルだったのです。チームの研究は『Cell』誌に掲載されています。

ライス大学、ベイラー医科大学、MITとハーバード大学のブロード研究所所属で、コンピューター学者・遺伝学者であるErez Lieberman Aiden氏は、記者会見で述べています。

「私たちは周囲を見回し、掘り下げ、最終的に拡大して見たところ、新しい種類の化石の存在に気づきました」

© Photo by Love Dalén, Stockholm University

なぜ染色体がこれほど長期間生き残れたのか?

チームが調査した5万2000年前のこの遺骸は、ミリメートル単位で毛が残っており、これはマンモスが瞬間冷凍されたことを示唆しています。チームによると、この保存状態からネアンデルタール人が絶滅する約1万年前に凍結したことがわかるとのこと。毛が無傷で残っているということは、一度凍結されて以来、一度も解凍されていないことを意味します。そのため、この遺骸の毛、毛包、無傷の細胞、そして細胞の領域内に折りたたまれた染色体をも保持していたのです。研究チームは特定の遺伝子発現の管理をする遺伝的ループを、実際に見ることができたそうです。

「このサンプルはフリーズドライされ、いわばビーフジャーキーのようになっていたのです」とAiden氏は説明しています。ビーフジャーキーは結晶化することなく「ガラス転移」になった肉。この状態は耐久性があります。凍結乾燥(フリーズドライ)されたマンモスの皮膚は、微視的レベルで分子の交通渋滞のようになり、染色体が拡散できなくなったことで古代分子のタイムカプセルとなったというわけです。チームはこの瞬間冷凍された遺伝物質を「クロモグラス」と名付けました。

マンモスの染色体の3Dアニメーション
Gif: Vinicius Contessoto, Antonio Oliveira Jr., José Onuchic


科学チームは、この遺骸の質の高さにより、絶滅種で初めてのゲノムアセンブリが可能になったと説明しています。マンモスの染色体はゾウと同じ28本。ちなみに人間は23本です。チームはマンモスの染色体を3Dで再構築しました。素人の私たちにはごにゃごにゃした紐のように見えますが、研究者たちにとって、これは氷河期の巨大なマンモスたちの設計図となった微細構造を驚くほど正確に垣間見ることができるものなのです。

ベイラー医科大学のCynthia Pérez Estrada氏は記者会見で語っています。

「このマンモスのゲノムで捉えることができる変異は、種間比較での新しい扉を開いてくれます。三次元空間におけるクロマチン構造の足跡を持つだけでも信じられないことなんです」

「ビーフジャーキー」のおかげで分子構造は無傷

チームは、「クロモグラス」の分子構造がどうしたら破壊されるかあらゆる方法を試しました。実験では乾燥したマンモスジャーキーの代わりに、脱水した牛のスモークソーセージで実験をしました。実質的に分子レベルで同じ構造を持っているからです。

研究者たちは「クロモグラス」ビーフソーセージを水、酸、液体窒素に浸し、電子レンジで加熱し、野球ボールと木槌で叩き、車で轢き、言葉で侮辱もしてみて(記者会見では「感情的に傷つけた」と冗談で言われていました)、散弾銃の弾丸で撃ちました。物質が断片化したにもかかわらず、その染色体構造は微視的なレベルで無傷のまま残ったそうです。

© Aviva Aiden, Thomas Griggs, Erez Aiden


「これらは保存された染色体の最初の例ですが、今後数年でさらに多くの例が見つかるだろうと予想しています」と、ライス大学とベイラー医科大学のゲノミクス研究者Olga Dudchenko氏は記者会見で述べています。

こうして今回の新発見は、古代の遺骸の中から前例のない保存状態の分子の存在を明らかにしました。これよりも古いDNAは以前にも発見されていますが(実は今回のこの論文の著者の数人は、100万年前のマンモスの牙から当時最古のDNAを発見したチームのメンバーでもありました)、今回記述された遺骸によって、マンモスの遺伝子がどのように発現し、ゲノムがどのように構成されていたかを研究することが可能になりました。

現在、最古のシーケンスされたDNAの記録は、グリーンランド北部から回収された環境DNA。そして科学チームはそのDNAを使って前期更新世の古代環境を再構築することに成功しています。

AIが生命の系統樹の解明を支援

現在、絶滅したマンモスに最も近い親戚はアジアゾウです。科学者たちは、マンモスの染色体を使って、ゾウの遺伝学をより良く理解することができるようになります。同時にゾウの遺伝学が、科学者たちのマンモスに対する理解を深めることも可能です。科学者たちはAIモデルに遺伝子コードの断片を読み込ませ、マンモスのどこにタンパク質が結合していた可能性が高いか、あるいはゲノムがどのように折りたたまれていた可能性が高いかなどをAIに尋ねることもできます。

Aiden氏は米Gizmodoに語っています。

「マンモスに関するわずかなデータでも、AIに入力すると膨大な情報が得られます。AIの大きな力は、すべての種からからの洞察を取り込み、統合してかなり良い推測を提供するという能力にあります」

アジアゾウ以外にも、AIツールは生命の系統樹におけるマンモスのゲノムの位置づけを理解する手助けをしてくれます。

新しい技術、独創的な方法、そして幸運の組み合わせにより、これまで聞いたこともないスケールで古代世界が明らかになりつつあります。分子レベルで巨大なマンモスを理解することは、古代の過去の理解を助けるだけでなく、将来に向けて現存する動物の保護にも役立つことでしょう。

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