革新的な免疫療法が脳腫瘍との戦いに新たな希望を見出されている
がんの治療には、腫瘍を外科手術で除去したり、抗がん剤を投与したり、放射線を照射したりする治療法がよく使われています。また、体に備わる免疫を使ってがん細胞を攻撃する「免疫療法」も近年注目されています。脳にできる悪性腫瘍の一種「膠芽腫(こうがしゅ)」の免疫療法について、ニュースサイトのIntelligencerが解説しています。
Immunotherapy Is Transforming Cancer Treatment and Oncology
膠芽腫は「グリオブラストーマ」とも呼ばれ、脳の神経系を構成するグリア細胞が腫瘍となったもので、最も頻度が高い悪性脳腫瘍として知られています。膠芽腫は年齢を問わず発症する可能性があり、その腫瘍は発作、言語障害、体のまひなどを引き起こし、診断から死亡まで平均で1年ほどといわれています。
膠芽腫の治療は「最大限安全な切除」、すなわち神経機能を維持しながら腫瘍を可能な限り多く外科手術で除去するという治療法が取られてきました。しかし、膠芽腫は脳に浸潤する能力が非常に高く、腫瘍の大部分を取り除いても再び増殖してしまうことがほとんどだそうです。
マサチューセッツ総合病院の研究者マルセラ・マウス博士とブライアン・チョイ医師は、患者自身のT細胞を遺伝子操作し、それを直接脳脊髄液に注入するという新しい治療法の臨床実験を行いました。
T細胞は細菌やウイルス、寄生虫などの病原体をやっつける免疫細胞ですが、通常はがん細胞に効果をもちません。そこで、マウス博士らは患者の血液からT細胞を抽出し、そのDNAをがん細胞に反応する「CAR-T細胞」に設計しました。
CAR-T細胞は膠芽腫のがん細胞表面にある特定のタンパク質に反応するように設計されています。「CAR-T細胞でがん細胞を攻撃する」というアイデア自体は以前から研究されており、マウス博士も何年も実験と調査を重ねていました。
臨床試験の結果、臨床試験の被験者だった74歳の男性は、再発性膠芽腫を患っていたにもかかわらず、数日で腫瘍がほぼ完全に消滅していたとのこと。マサチューセッツ総合がんセンターのダニエル・ハーバー所長は「その瞬間、がんの理解と治療ツールに革命が起きました」とコメントしています。
ただし、マウス博士らが研究する免疫療法には「高コスト」「複雑なプロセス」「一度に限られた患者しか治療できない」「長期的な効果が明らかではない」という問題があります。また、臨床試験の被験者は完治したというわけではなく、腫瘍が消えてから数カ月が経つと再発したり、薬の副作用で消化管穿孔が引き起こされたりするケースが確認されているとのこと。
それでも、マウス博士らは、CAR-T細胞を用いた免疫療法が膠芽腫以外のがんにも応用できる可能性があると期待していると述べました。マウス博士らの開発する治療法は特に、これまで治療が困難だったがんに対する新たな希望としても注目されています。