コンテンツ配信プラットフォームのサブスタック(Substack)に興味を持つ新興ブランド創業者が増えている。

ニュースレターを発行しているD2C創業者はほんの一握りだが、その一部は実際に注目を集めはじめている。特に人気が高いのは、ジュエリー新興ブランドのドーシー(Dorsey)創業者であるメグ・ストラチャン氏の「今日の着用アイテム(What I Put on Today)」や、ノンアルコール食前酒のブランドであるギア(Ghia)創業者のメラニー・マサリン氏の「ナイトシェード(Night Shade)」などだ。現在ストラチャン氏は1万5000人以上、マサリン氏は5000人以上の購読者を抱えている。

また「フィードミー(Feed Me)」や「ビジネスの社会学(The Sociology of Business)」といった人気ニュースレターのおかげで、サブスタック上ではビジネスに関する会話がより多く飛び交っている。いまやこの楽しみのために参加する起業家もいる。

サブスタックを開始するブランド創業者が増えている理由



サブスタックをはじめる、あるいは検討している創業者が増えている要因を考えてみると、創業者が現在抱えているいくつかの喫緊の課題の核心に行き着く。創業者たちは自分のブランドを成長させたり、創造的な表現の場を持ったりする必要があると感じており、サブスタックはそのための手段のひとつになっているのだ。また創業者の多くがサブスタックを気に入っている理由として、混乱している消費者情勢のなかでより多くの人々と話し、人々が購入しているものに関する情報を集めることができる点をあげている。

「サブスタックはソーシャルメディアではないとか、初期のタンブラー(Tumblr)を彷彿とさせるとか、つながりの質やレベルがはるかに深いとか、そういった投稿を毎日目にしている」とサブスタックで「ファーストロデオ(First Rodeo)」を執筆しているアゾラ・ゾイ・パクナド氏は話す。

サブスタックを最近はじめた創業者の多くは、インスタグラムやTikTokのようなほかのアプリですでに多くのフォロワーを抱えている。しかし彼らがとりわけサブスタックを立ち上げたきっかけは、フォロワー(および顧客)からの質問により多く答えるためだったという。

「私のフォロワーに個別にリンクを送るのは大変で、続けることができなかった」と3万3000人を超えるインスタグラムのフォロワーから日々のコーディネートについて頻繁に質問を受けるドーシーのストラチャン氏は答えた。

またギアのマサリン氏は「インスタグラムでギアについて多くの質問を受けるが、その答えはいつも小さなスライドには収まらない」と話す。

クリエイティブな場を求めている創業者たち



インスタグラムで2万7000人以上のフォロワーを抱えているマサリン氏は自身のソーシャルアカウントとサブスタックを使って、旅行や料理から古着探しまでギア以外のさまざまな趣味についても語っている。しかし同氏はその仕事の性質上、創業者であることについて多くの質問を受けるという。

そのため同氏はギア関連の話題に限定してサブスタックで投稿することもあり、その内容は1週間の計画の立て方から、ギアが最新のフレーバーであるベリーをどのようにして生み出したかにまで至る。

同氏の場合、サブスタックのようなサイドプロジェクトをスタートしたきっかけはほとんど個人的な理由だ。しかしそれが自身をより良い創業者にするとも信じている。「私は非常にクリエイティブな人間なのでこのようなプロジェクトが必要であり、自身を奮い立たせる燃料になるのだ」。

パクナド氏は「ファーストロデオ」で自身の最初の起業から学んだ教訓を掘り下げているが、創業者にとっての課題は「起業がどんどん複雑でストレスフルなものになるにつれて、時に自分の全人生がそれに巻き込まれてしまう」ことだと語った。またそういうときに、「『それはさておき、ビジネス以外の自分自身はどうなんだ?』と考えてみるのはとても魅力的に感じることがある」と同氏は続けた。

個人フォロワーの存在がビジネスを成長させる?



インフルエンサーをフォローすることが当たり前になるなかで、自身の個人フォロワーを増やすことがビジネスの成長にもつながるとより明確に信じている創業者もいる。

ヘアケアブランドのクラウンアフェア(Crown Affair)創業者であるダイアナ・コーエン氏は、「私はマーケターとして、多くの人は基本的にブランドをフォローしたいとは思っていないことをもともと理解していた」と話す。そして同氏は自分はインフルエンサーではないと即答する。それでもそれぞれで3万人以上のフォロワーを抱えるインスタグラムやTikTokなどのチャンネルや、最近ではニュースレター「テイクユアタイム(Take Your Time)」を執筆しているサブスタックで、自身の個人フォロワーを増やすことにもっとも注力している。

コーエン氏はソーシャルメディア上でクラウンアフェアに関連するヘアケアのヒントやファッション、あるいはムードボードなどの話題について話すのが好きだ。そしてこれらの話題をさらに深く掘り下げるためにサブスタックを利用している。同氏の最新のサブスタック投稿はTikTokフォロワーの増やし方についてで、これは創業者仲間から頻繁に質問される話題だという。

時間は必要だが、消費者との距離は縮まる



おそらく多くの創業者にとって、サブスタックの開始を躊躇させる最大障壁はそのための時間の捻出だろう。

ドーシーのストラチャン氏は2023年のはじめにサブスタックを立ち上げたが、週に4時間から6時間をそれに費やしていると見積もっている。同氏は「真の政教分離原則(real separation of church and state)」を信じているため、ビジネスに支障をきたさないように記事を書くのは週末に限定している。

同氏はサブスタックをはじめた当初はリンクを共有したり新しい人と出会ったりする場所を作ること以外の目標はなかったという。しかし何千人もの購読者を獲得したために、このことは明らかに彼らの琴線に触れているようだ。

「創業者としてエクセルのスプレッドシートの確認や財務的な仕事に多くの時間を費やしていると、消費者からは遠く離れてしまう」。

ストラチャン氏はサブスタックのおかげでより多くの人と話すことができるようになったと喜んでいる。同氏のニュースレターは「ファッションが私たちの日常生活にどのように溶け込んでいるかを伝える実録的なサブスタック」と説明されている。たとえば「オールドラルフローレン(Old Ralph Lauren)」に関する投稿のコメント欄では、読者は質の高い古着がどこで手に入るのか、あるいは時代を超越した服とはどのようなものかなどについて話している。

こうした事例は人々が何を買うのか、そしてなぜ買うのかについて貴重な洞察を与えてくれるため、ビジネスに役立つとストラチャン氏は語る。「今は当然ながら、物価がいかに高いかということに関しての壮大な話題が進行中である」。

ソーシャルメディアは現実世界や人々と繋がるための手段



同様にクラウンアフェアのコーエン氏も、現在同氏がソーシャルメディア上から観察しているひとつの傾向は「人々はハイとローの組み合わせを求めている」ことだと語る。その一例として、同氏はラグジュアリー化粧品小売店のセフォラ(Sephora)に設置されているクラウンアフェアの陳列棚を訪れた際に撮った自分の写真をインスタグラムに投稿したことを挙げた。

その写真では同氏はシンプルな白いTシャツを着ていた。「8人から個別にDMが来て、『このTシャツはどこのものか?』と尋ねてきた」とコーエン氏は振り返る。「たしか20ドル(約3210円)のユニクロのシャツだった。そういうものが売れるのだ」。

ストラチャン氏はこうしたエピソードが重要だと述べた。これらは調査で簡単に収集できるものではないからだ。

同氏は創業者として「現実世界から切り離されたくない」と語り、「インスタグラムやサブスタックで私にとって本当に役に立っているのは、顧客と話すこと、そして会ったことのない人たちとの繋がりを感じられることだ」と続けた。

[原文:DTC Briefing: Looking for a creative outlet, more founders are turning to Substack]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)