by NIAID

南アフリカとウガンダで行われた大規模な臨床試験により、新しいPrEP(暴露前予防)薬「レナカパビル」を半年に1回注射することで、ヒト免疫不全化ウイルス(HIV)感染を100%予防できることが示されました。このレナカパビルとその臨床試験について、ケープタウン大学感染症・分子医学研究所デズモンド・ツツHIVセンターの副所長であるリンダ・ゲイル・ベッカー教授が解説しています。

HIV breakthrough: drug trial shows injection twice a year is 100% effective against infection

https://theconversation.com/hiv-breakthrough-drug-trial-shows-injection-twice-a-year-is-100-effective-against-infection-233295

HIVは、後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすレトロウイルスです。HIVは免疫システムを担うT細胞やマクロファージに感染して破壊してしまうため、細胞性免疫が失われてしまいます。

2023年だけで、全世界で130万人が新たにHIVに感染したそうで、このままでは2030年までにエイズを撲滅するという目標は達成できないそうです。一方で、PrEP薬は確実に予防できるというわけではなく、さらに毎日服用しなければ効果が期待できないという点でハードルが高くなっています。

ウイルスが増殖するためには、細胞に感染した後にウイルスの遺伝情報を細胞内の染色体に注入する必要があります。この時、遺伝情報はカプシドと呼ばれるタンパク質の殻に包まれます。製薬会社のギリアド・サイエンシズが開発するレナカパビルは従来のPrEPとは異なる作用機序を持ち、このカプシドの産生を阻害することで、HIVの増殖を抑えるという効果を持ちます。

レナカパビルの服用は経口服用あるいは皮下注射で行われます。皮下注射であれば、6カ月に1回でも十分な効果が得られるとされており、従来のPrEP薬よりもハードルが低いのが利点です。



ケープタウン大学感染症・分子医学研究所のデズモンド・ツツHIVセンターが行った臨床試験はウガンダの3カ所と南アフリカの25カ所で、16歳から25歳の女性の被験者5000人を対象に行われました。研究チームによると、アフリカ東部および南部では若い女性が特にHIV感染の矢面に立たされており、社会的な理由からPrEP薬を毎日服用することは困難とされているとのこと。



by Prachatai

臨床試験の結果、レナカパビル服用群の2134人のうち、HIVに感染した人はおらず、100%の有効性が確認されたとのこと。これに対して、ツルバダ服用群1068人のうち16人が、デシコビ服用群2136人のうち39人がHIVに感染したことが判明しました。

年2回投与のHIV予防薬「レナカパビル」が第III相臨床試験でHIV予防で100%の有効性を示す - GIGAZINE



ベッカー教授は「私たちは、この新薬がWHOと各国のガイドラインに採用されることを期待しています。また、この薬を現実世界の状況にどのように取り入れていくかをよりよく理解するために、より多くの研究でこの薬がテストされ始めることを期待しています」とコメントしています。



なお、今回の臨床試験では被験者が女性のみでしたが、男性を被験者とする試験も進行中だとのこと。さらに感染経路となる性行為のスタイルによって効果が異なるかも調査する必要があるため、研究チームはさらなる試験が求められるとしています。