「足立 紳 後ろ向きで進む」第50回

 

結婚22年。妻には殴られ罵られ、2人の子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々──それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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5月1日(水)

昨日に続き、豊後大野市ロケハン後、別府に移動。夜、別府ブルーバード劇場の照さん、実紀さん、スタッフと食事。別府駅前のステーキ屋さんに連れて行っていただいた。照さんは93歳とは思えない健啖家。大きなステーキをペロっと召し上がっておられ、まるで瀬戸内寂聴のようである。

 

照さんたちと別れたあと、宿泊しているホテルのロビーで少し会議をして、夜の11時から焼き肉を食いに行った。とても美味い店があると聞いて、次に別府に来るのは撮影のときで、そのときは絶対に行っている余裕はないだろうから、どうしても食べたくなり連れて行ってもらったのだ。ステーキのあとの焼き肉というのもこの先の人生で何度あるか分からないというのもあるし。すると行った甲斐がありまくりだった。人生いちばんの焼き肉を個人的には更新した。

 

※妻より

お元気な照さん、いつも気遣ってくれる実紀さんと久しぶりに会えて大変うれしかったです。お2人と別れたあと、またまた皆様で別府をロケハンして、その後ホテルのロビーで再度打合せ。作品の時間のこと、色々なご提案、予算内にはめるためにはどうすればよいか、皆さん積極的に発言して下さる。24時も過ぎたあたり、小腹を減らせたスタッフたちと一杯だけ行く? となり、一杯どころかご近所の焼肉屋で何杯も……。改めてスタッフ皆さまの体力に驚く。

 

↑ステーキ屋も焼肉屋も食べること、しゃべることに集中しすぎて写真撮り忘れてます……。これだけ……(By.妻)

 

5月2日(木)

朝から別府ロケハン。鉄輪温泉や地獄めぐりなど色々見て、昼食は名物のとり天をいただいたがこれも大変美味しかった。そして一緒に出て来た牛カツが大変どころではなく美味しかった。

 

食後、近くのショッピングモールの足湯につかって打ち合わせ。足湯につかりながらの打ち合わせというものは非常になごやかに進むことが分かった。大きな会社は会議室に足湯を作れば傑作がどんどんできあがるかもしれない。

↑散々歩いて、食べた後の、足湯に浸かりながらの打ち合わせは終始穏やかな雰囲気で良かったです。厳しいことを話さねばならない時も足湯効果? で乗り切れました(By.妻)

 

19時50大分空港発の飛行機で東京に戻る。22時過ぎ、自宅に戻り祖父母宅から帰宅していた娘息子に会う。3日会わなかっただけだが、2人ともなぜか非常に脳調が悪い……。

 

5月3日(金)

朝から仕事。息子、午後に1人で鳥取の私の実家へ。鳥取の友達に会いたい気持ちがメインだが、1人で飛行機に乗るのはまだまだ不安そう。妻と羽田に行く道中、ハイジャックの映画の話や、墜落の映画の話を延々話していたそうだ。

 

「それは話すことで気が紛れるの? 話していて不安が倍増しない?」と妻が聞くと、「話を聞いてもらえたら満足だから話させて」との事で結局ずっとハイジャックと墜落の話を聞き、妻まで心の調子まで悪くなってしまったとのこと。

 

羽田に着き、子ども1人で乗る手続きをし、搭乗ゲートまで送ると、優しそうな添乗員さんが付き添ってくれてたので見送ったとのこと。息子はとても不安そうだったらしいが、周囲の目もあるからか、ふざけながら気丈にバイバイをしたそうだ。1人で行けるなんてすごい! どうか楽しんできてねと祈るばかり。

 

5月4日(土)

朝から溜まりまくっていた仕事に没頭。

 

5月5日(日)

朝、オンライン打合せ。その後、仕事。

 

お昼に娘、妻と食事。娘が学校のことやバイトのことなどノンストップでしゃべりたおす。いろいろと溜まっていたのだろう。最近、親が家をあけることが多かったから吐き出せなかったのかもしれない。

 

夜、鳥取の祖父母から電話。息子は鳥取の友達とは元気に遊んでいるが、夜になると大変寂しがっているとのこと。鳥取に行きたいと何度も言っていたから行かせたが、ロケハンから戻った翌日に鳥取出発だったから、こちらもほとんど親と会わずに行ったからかもしれない。

 

娘も息子もタイプとしては親に不平不満をガンガン吐き散らかすタイプだから、会わない時間が長くなると脳調が崩れるのだ。これを人に話すと甘やかしているのではないかと言われることもあるが、単にそういうタイプなだけだと私は思っている。そのタイプとうまく折り合えるかは分からないが。

 

5月6日(月)

昼過ぎ、妻とともに羽田まで息子をお迎えに行く。息子の乗った米子発の飛行機はどうにか飛んだが、鳥取発の飛行機は強風のため運航停止になっていた。息子ははにかみながら、添乗員さんに付き添われて出てきた。

 

帰りの電車の中、鳥取の様子などを聞くも、いつも通りあまり話さない。「普通」「楽しかった」のみ。でも、楽しかったのだろうとは思う。

 

夜、色々疲れたため、マッサージへ。マッサージが終わると妻から長文LINEが入っていた。寝る前、息子の慟哭が激しかったとのこと。「僕はとても寂しかったんだ。じいちゃんばあちゃんちにも行けたし、鳥取の友達の家にも2泊できたけど、とても寂しかったんだ!」と大泣きに泣き散らしたとのこと。やはり今回は色々とスケジュールが上手くなかったと反省。

 

※妻より

色々反省しました。息子が鳥取の友達に会いたがっていることと、GWに都内で1人で暇な時間を過ごすよりは鳥取にいたほうが良いだろなと思い、自分の事務仕事も溜まっているしな、という自己中判断で、息子の1人鳥取行きに賛成しましたが、息子の行きたいという気持ちと、でも寂しいという気持ちの狭間を的確に察知できていませんでした。第六感で、「今回は寂しがりそうだからGWは家でゆっくり過ごしてもよいかな」とも思ったのですが、そのカンに従わず鳥取行きを決断してしまったのは、「今親もメチャクチャ忙しいから」という言い訳を掲げて、息子に寄り添って考えていなかった、息子をちゃんと観察ができていなかったからです。こういう言い訳をこの場に書くことによって自分の気持ちを楽にしているだけですが。

 

5月7日(火)

息子、昨晩大荒れだったせいかなかなか起きれず。朝はグズグズになり学校に行けず。大荒れでなくとも少し前から朝がかなり弱くなってきていて、これは起立性障害も少しあるかなとも思う。

 

こういうときは親が家にいてもしょうがないので、テレビのリモコンとゲームを隠して妻も私も家を出る。息子にはゲームやYouTubeなどの映像なしでゆっくりと休んでほしいと思うのだが、ゲームやYouTubeを心行くまでやらせてあげてもいいと書いてある本や意見もあるから迷うとこだが、あくまでも私や妻の場合、音や映像があると脳が休まらないので、息子もそこにあてはめてしまうところはある。まあ、正解なんてないのも頭では分かっているのだが……。

 

それにしてもふと思ってしまうのは、息子が育てやすい子ならば、もっと自分のことに時間を使えて映画を観たり本を読んだりのインプットができるのにな……ということだ。それだけでなくなにかの経験などにも時間を使える。やってみたいことは山ほどあるからだ。

 

だが、息子がこういうタイプでなければ私は恐ろしく不寛容な人間になっていたに違いないとも思う。例えば他人に対して「使えない」などという言葉を平気で使う人間になっていたかもしれないし、だらしないと言われる子に対してそのまんまだらしないと思ったり、その親にも育て方が悪いのではないかと思うような人間になっていただろう。自分のこともずっとだらしなくていいかげんな人間だと思っていたかもしれない。

 

そういう意味では、息子のようなタイプ(まあ娘もだが)と親子になり多くの時間を過ごせることには感謝したい。面倒くさいことばかり日記には書いているような気もするが、やつらはとびきりにかわいい。

 

昼過ぎ帰宅すると、その息子はケロッとしており、夕方からの塾には行けた。塾でも「1人で鳥取行けたのは良かったが、この1週間がいかに寂しかったか」を作文に書いたと連絡が来る。やはり今回のスケジュールは親のミスだった。

 

※妻より

息子が泣いて叫んで私に伝えたのと同じように、塾の先生にも「僕は寂しかった」と言えて良かったな、と思いました。

 

5月8日(水)

朝から自宅にて別府短編映画の衣装合わせと打合せ。今回は自前の衣装でやっていただくため、役者さんが沢山の衣装を持って来てくれる。その後、我が家にてリハーサルも行う。

 

5月9日(木)

6月に上海国際映画祭に行くため有明にビザ申請に行く。1つ記入項目を間違えたようで、妻がスマホを駆使して、必死の形相で作業している。私は睡眠不足がたたり、ビザセンターで爆睡。起きるとすべてが終わっていた。「テメエは本当にクソの役にも立たねえな、このポンコツ野郎!」のお言葉だけいただく。

 

せっかく有明にきたのだから、なにか美味しいものを食べよう! と言って散策するも、15時という時間だったため、どこもランチは終わっていた。朝からなにも食べておらず限界だったので池袋まで戻り、初めて行く中国東北部の中華料理屋へ。ここは通しで営業しているのだ。なにを食べても美味しかった。大急ぎで帰宅。

 

17時半帰宅すると腹を減らした子ども2人が待ち構えていたので、とりあえず肉を焼いた。

 

5月10日(金)

朝から仕事。14時から自宅にて地元の雑誌『とっとりNOW』の取材。遠路わざわざ鳥取から来ていただく。ありがたい。これまで故郷とは友達付き合いしかなかったが、今後は積極的に関わっていく所存だ。

 

5月11日(土)

朝、山口県周南市に向けて出発。周南「絆」映画祭春祭りで『雑魚どもよ、大志を抱け』を明日、上映していただくのだ。それに先駆けて本日は「こども昭和カラオケ選手権」の審査員も仰せつかった。

 

小中学生たちが舞台で一生懸命歌う昭和歌謡を聞いていると、なぜかそれだけで涙が出そうになる。『ラッパと娘』や『東京ブギウギ』も飛び出して楽しい歌合戦だった。夜は周南「絆」映画祭実行委員長の大橋さんたちと美味しいお肉を食べに行った。

 

5月12日(日)

今日は『雑魚どもよ、大志を抱け!』の上映会。上映会の前に、いつも寄るぬいぐるみ屋でお土産のぬいぐるみを買う。ここはへんてこなぬいぐるみを売っていてとても面白いのだ。ついつい買い過ぎてしまう。

↑左が今回買ったもの、右は前回買ったもの。もはや子どもたちは喜んでおらず、夫だけが嬉々としてぬいぐるみを飾ってます。邪魔で仕方がない(By.妻)

 

上映会は満席となった。ありがたい。質問も沢山でて盛況だった。今年の秋に本祭があるのだがそのときも是非来たい。映画祭の委員会も若者が増えて活気が増していた。普段は学校の先生をしていらっしゃる宮本さんや実行委員長の大橋さんともたくさん話ができて良かった。

 

5月14日(火)

夕方新宿で打合せ。打ち合わせの喫茶店で食した大きなかき氷が美味しかった。

 

5月15日(水)

9時からオンラインで別府短編映画の美打ち。昼から息子の担任と個人面談。6年生になった息子は「俺、英語も音楽も授業出ることにしたんだよ、すげえだろ」と言っていたので喜んでいたのだが、かわりに国語と社会と理科の授業に出なくなりましたと先生から言われて軽く落ち込む。

 

苦手な授業は廊下でウロウロしていたのだが、今は廊下にカーテンで仕切られた物置があり、そこが息子の居場所になっているとのこと。見せてもらうと、なるほど秘密基地風味な場所だ。落ち着くのだろう。だが、やはり中学になったらどうなるのかと少し心配にはなってしまう。

 

その後、妻が息子を連れて児童心療内科での療育30分。人の気持ち、表情が分かりづらいことを再度伺い、そこをケアしていこうと言う話になったとのこと。

 

20日から撮影で8日間夫婦で家を空けることになるので、息子の意志を確認したところ、はっきり言わないがどうやら撮影について行きたいとのことなので、悩んだが今回は撮影に同行させることにする。どうなることやらまったく予想がつかない。娘も行きたいとのことだが5月21日から中間テストのためテスト終わりの5月26日に合流することになった。

 

5月16日(木)

9時から有明、16時から門前仲町と意外な場所での衣装合わせを2連発。その後シナリオ作家協会のシナリオ講座。シナリオ作家協会は人形町にあるので歩いて行った。

 

5月17日(金)

朝から自宅にて別府短編映画の劇中劇の撮影。本日がクランクインだ。劇中劇の撮影は午前中で終わったので昼からリハーサルを我が家にて。『喜劇愛妻物語』に続いて、今回の別府短編映画でも我が家で撮影をするのだ。

 

5月18日(土)

娘と息子と『猿の惑星/キングダム』(監督:ウェス・ボール)を観に行く。夕方、事務仕事をしていた妻も合流して2日後に誕生日を控えた娘の誕生日ディナーでいつものステーキ屋に行く(2日後には撮影で大分県に旅立たねばならず前倒しで誕生会をやったのだ)。

 

娘は新しいスマホを欲しがっており、なにか部活に入れば(最近娘は部活をやめてしまった)それを買ってやると私が言うと、娘は「マジで!?」と喜ぶも、妻が「そういうのは勝手に決めないでよ。まずは相談してよ!」と怒る。確かに値段の高いものだし、スマホを買ってあげるかわりに部活に入れというような交換条件が妻は大嫌いなのだ。だが、私は娘の運動神経をもったいないと思うのだ。スポーツは見るのもやるのも大好きなのに、なにか人間関係のもつれがあると娘はやめてしまうので、スマホで釣りたかったのだ。

 

結局、私の考えに妻が反対し、娘が妻をケチ呼ばわりして(ケチはケチなのだ)もろもろ妻の逆鱗に触れて、ディナーには一気に暗雲がたちこめ険悪なものになってしまった。家族の険悪な雰囲気が苦手な息子の脳調も悪くなる。なんとか場を取りなそうとしたがすべてが遅すぎた。

 

※妻より

娘が新しい部活に入るなら、もろ手を挙げて応援致しますが(私も娘は運動に向いていると思います)、15万円近くするiPhoneを買ってあげるから部活に入ったら?と親が提案することに賛成できないと言ったら、2人して「ケチケチ」の連呼が始まったので「ケチとかそういうことじゃない、考え方が合わないだけ」と言っても話がかみ合わず……。せっかくのステーキの味が全然わからないものになりました。息子も途中で食欲がなくなったので、同じ気持ちだったのかもしれません。せっかくの誕生日ディナーが残念でした。

 

5月19日(日)

娘、バイト。息子、保育園友達と自宅にてゲーム。私と妻は明日から大分県のため準備に追われる。

 

※妻より

夜何度か息子に「明日行けそう?」と聞くも、小さい声で「分からない……」との事。見通しが立たない事が大の苦手な息子は、明日からの大分の撮影が不安で仕方ないのだと思います。大人が沢山いること、父と母が仕事なので息子の相手ができないことなどは分かっているようです。明日の早朝、あのフリーズが始まってしまったらどうしよう、そして今回衣装も担当しているので忘れ物があったらどうしよう、と不安爆発で全く眠れなくなりました……隣で夫は鼾をガーガーかいてました。

 

5月20日(月)

朝5時。息子もなんとか起きる。娘に挨拶をして、いざ出発。

 

撮影現場に子どもを連れて行くことには私は大賛成なのだが、自分の息子となると考えてしまう部分もあった。他のスタッフも気を使うかもしれないし、なれない場が苦手な息子の脳調がどうなってしまうのか予想がつかない。いや、つく。予想通りになればスタッフに迷惑をかけてしまうかもしれない。

 

「人は人に迷惑をかけて当たり前」などとキレイごとを言っているくせに、自分の息子となると途端にそう思えなくなるのが私のダメなところだ。できるだけ迷惑かけてほしくないと思ってしまう。連れて行くことを事前に何人かのスタッフやキャストには伝えていたが、息子の特性などもはっきり伝えるべきだったと出発の日に後悔したりする。が、とにかく息子が「ついて行きたい」と自分の意志を表明することは珍しかったので、その意志が一番大切だと思った。

 

08:20成田発、10:55大分着。息子は大人たちから話かけてもらってご機嫌でやっている。この日はスタッフ、キャスト全員で夕方までロケハンと現場リハをした。

 

夜、豊後大野市の市役所の方、別府短編プロジェクトの方と会食。魚も肉も野菜も美味しく、テンション上がる。息子もテンションがあがり、私が朝ドラ中はエゴサばかりしていたようなことを嬉々として人に話していた。宿でWiFiにつながらずゲームができないことで脳調が悪くなりそうだったがすんでのところで我慢できた。えらい!

 

5月21日(火)

本日から大分篇の撮影開始。しょっぱなから鍾乳洞の撮影で、今回の撮影の中でももっとも難しいと思っていた場所から。いろいろと仕掛けもあるし移動も多い。そして息子の動向も気にしながらだがやはり撮影は楽しい。途中、武 正晴監督が差し入れを持って撮影に来てくださった。小豆島、飛騨の山奥、そして豊後大野と思えばかなり来づらい場所での撮影にも毎回顔を出してくださるのでうれしい。ナイターを22時過ぎまでやってこの日は終了。

↑鍾乳洞の中はとても涼しく、地下水の水風呂は大変冷たい……俳優部、スタッフの皆さま、長時間本当に有難うございました…(By.妻)

 

5月22日(水)

2日目。朝、三重町駅から撮影。エキストラが多くて時間が押してしまう。この日も移動多し。今回はロードムービーなのでとにかく移動が多いのだ。

 

この日は唯一ナイター撮影がなく、撮影後の夕方に本日は豊後大野市の市役所で記者会見。主人公の佐野弘樹さん、そして天野はなさんのお2人はオーディションで出会った素晴らしく面白い俳優さんだ。そして剛力彩芽さんとは初めてお仕事をさせていただくがとても気さくで優しい方だ。他にも出演者の方はいらっしゃるのでまたの発表をお待ちください。

 

息子は出演者の方にも懐き過ぎて距離感がおかしなことになっているように見える。プロデューサーでもあり、今回は衣装部的な動きもしている妻が都度都度息子を出演者の方から離したりしているのが目に入る。

 

※妻より

息子が好きな人にべったりと離れなくなってしまったため、引っぺがすのに一苦労でした。言い方や言うタイミングを間違えると、途端に脳調が悪化してもっと大変なことになるのでとても気をもみましたが、全ての皆さまが本当に程よく息子に接して下さって大変助かりました。

 

5月23日(木)

怒涛の11現場移動。バタバタバタバタと移動して準備して片付けして車で別府の現場へ。武監督も別府の現場にも来てくれる。

 

この日は唯一の別府宿泊の日。撮影終了23時。温泉がありがたい。息子にも疲れがたまってきている様子がうかがえる。ご機嫌ななめだ。

 

5月24日(金)

この日はブルーバード劇場で撮影。朝から集まってくださったエキストラの皆さまに感謝。館主の照さんにも出演していただいた。

 

別府短編映画プロジェクトの釘宮プロデューサーおすすめのカレーの弁当がめちゃくちゃ美味しかった。そして、沢山の差し入れをいただき、別府名物のクリームパン、アンパン、カレーパン、今川焼、銘菓ざびえる、全て食らう。

 

ブルーバード撮影終了後、急いで豊後大野市に戻り、宿泊先の三国屋旅館で撮影。我々がバタバタしていると、おかみさんが握りたてのお握りやお新香を出してくださった。これもめちゃくちゃ美味しくて思わず3個一気食い。

 

5月25日(土)

再度三国屋旅館から、明尊寺で撮影。7分ほどの長回しの歩くシーン。日はカンカン照りだし蒸し暑い。皆さん疲労がたまってきているが今日から宿にもなるロッジ清川へ移動してナイター撮影。22時半ころ撮影終了。

 

各スタッフ片付けが終わった人から、ロッジ内のサウナへ。ロッジの方々のご配慮で、本来なら22時までのサウナを本日はスタッフが就寝するまで薪をくべてくれると言う。皆さん、早々に片付けていそいそとサウナへ。隣にある地下水の水風呂か、流れている川の水風呂に入るのだが両方とも最高だ。連日遅くまでの撮影で皆さん疲れも溜まっているというのに、夜中までサウナと水風呂にガンガンはいってとっても元気だ。私も東京から来てくれた出演者の横江君と岡野くんとたっぷり入った。

 

5月26日(日)

本日は終日ロッジ清川内での撮影。終了後に豊後大野市の方々と交流会もあるのでガンガン巻こうかと思っていたがこの日も22時くらいまでかかってしまった。そして本日からユキ役の加藤紗希さんと、娘が東京から参戦。

 

息子はロッジにいる犬と出会えたことがうれしくて、終始犬と一緒に川遊びをしていた。

 

23時ごろから、豊後大野市の方々と別府短編プロジェクトの皆さんが打ち上げの場を設けてくれて、皆さんで乾杯! まぁまぁタイトななか、酒を飲んだり、つまんだり、ケーキを食べたり……そして今晩もまた、スタッフのご厚意により、夜中までサウナ&地下水OR川遊び。

 

この日もキャストスタッフたちは深夜までサウナと川の水風呂で騒いだ。感覚的に30代までのはしゃぎ方に参加して私は身も心も若返ったような気になった。サウナは水着着用の混浴だから性別関係なくみんなで入ってはしゃいだ。まさか娘と一緒にサウナに入る日が来るとは思わなった。深夜3時に気絶。

 

5月27日(月)

撮影最終日。朝からロッジ清川内の撮影後、移動。この日も4か所ほど移動して最後は走るバスの車内で撮影。15時くらいにどうにか大分篇がクランクアップした。

 

キャストスタッフの皆さんは楽しんでくださっただろうか。監督というのはある意味では接客業のような一面もあると私は思っているから、面白い作品を作ると同時にキャストスタッフの方々には現場を楽しんでいただきたいなあという気持ちがある。

 

そして息子はよく頑張ったなと思う。録音の臼井さんから「K君はまったく迷惑をかけなかった」との言葉をいただきホッとした。息子は臼井さんにもかなり懐いていていたのだ。懐くと距離が急激に近くなるので親としては冷や冷やしながらその様子を見ていた。娘も妻に言われるままにいろいろ手伝っていたようだ。

 

※妻より

衣装の整理や、お弁当&飲み物の配布など手伝ってもらいました。コミュ障の娘も娘なりによく頑張ってくれたと思います。

 

本日このまま東京に戻るスタッフと別府に1泊していくスタッフに別れる。我々家族は別府に1泊。夜は双葉荘で若手スタッフや別府短編プロジェクトの森田さん、釘宮さん、吉野さんらと地獄蒸しを食らい、深夜1時前に解散。まさに怒涛。

 

5月28日(火)

朝10:55分の飛行機で帰宅。猫と金魚と亀は息子の同級生のママ友がしっかりと面倒見てくださっていたのでとても元気。妻と『関心領域』(監督:ジョナサン・グレイザー)を観に行くも、撮影明けで見る映画ではなくあえなく撃沈。

 

※妻より

事務仕事も溜まりまくっているし、今日は家で作業したいと再三言ったにもかかわらず、「今日しか行く日がない!一人だと寝ちゃうからついて来て!」といつもの執拗な拝み倒し(こちらがYESと言うまで止まらない)に根負けして付いて行きました。10回以上起こしましたが、結局熟睡してました。彼にとって一体なんの時間だったのでしょう……。足立は時間の使い方というか、意図的に脳を休ませるのが下手だなと思います。とても息子に似ています。それも特性だから仕方ないのでしょうが、付き合わされる方は疲労蓄積ハンパないです。

 

5月29日(水)

別府からフェリーで荷物を運んでくれた制作部の太田さんが到着。我が家に泊まる。太田さんとは『お盆の弟』や『雑魚どもよ、大志を抱け!』などの作品も一緒にやっているが、若いころは実は一緒に劇団を作っていた。劇団解散後、一緒に住むようになったのだがそのときの話は『春よ来い、マジで来い』に詳しい。と、ちゃっかり宣伝するのは忘れない。

 

夜、明日の撮影後の打ち上げで注文する寿司のことで妻とケンカ。スタッフが15人なので私は20人前の寿司が欲しいと言ったが妻は15人前でいいと。15人前をのむのでウニの入ったいちばんいい『雅』にしてくれと言ったら、珍しくそれをのんでくれた。

 

5月30日(木)

自宅にて朝から東京篇の撮影。そこまで分量はなかったので15時撮影終了。クランクアップ。そのまま我が家で打ち上げ。

 

注文していた寿司をとりに寿司屋に行ったらどうも料金が安い。尋ねると一つは『雅』でなくもうワンランク下の寿司になっていた。いつの間にか妻がすりかえたのだ。怒りで寿司屋で暴れそうになったが握ってしまったものはどうにもならない。

 

どうせ妻の一言のとこには「夫はええかっこしいだから一番いい寿司を振舞いたいだけ」とか書くつもりだろうがそんなわけない。皆さん安いギャラで参加してくださったからせめて打ち上げでは美味いものを食べてほしかっただけなのにまったくどこまでもケチにできてやがる。天誅したいくらいだ!

 

甚だ気分を害したので、皆さんの前でこの顛末を暴露してやったが話がうまく伝わらなかった。22時近くまで我が家で飲み、それから私は演出部の草場さんと成瀬くんと録音部の臼井さんと家の近所の居酒屋で飲み直した。

 

※妻より

いやいやケチというのではなく、「雅」には海苔巻きや茹でた海老とか玉子焼きが入っていなかったら、1つ違う種類にしただけです。中には生ものが食べれない方もいるかも知れないと思ったからです。という話も最初にして、「『雅』は2つね」と返事しました。怖い……。老年の物忘れ&怒りスイッチは恐ろしいです。

他にも馬刺しやローストビーフや唐揚げ、チーズやパン、ビール1ケース、ワイン、日本酒、焼酎などを用意していたから、十分かなと思いました。いっつも頼むだけ頼んで残しまくるから、気持ち的に残飯が嫌なのです。今回は残ったものを1人暮らしの若手のスタッフに持って帰ってもらったので罪悪感がなくて良かったです。そして皆さんとの写真を一切撮り忘れました……。

 

※夫の言い返し

馬刺しは大反対を押し切って買ってもらいました! ローストビーフは内密に買ったし……。

 

5月31日(金)

娘の体育祭の予定だったが台風直撃で残念ながら中止。娘はこの日をめちゃくちゃ楽しみにしていたので、めちゃくちゃ不機嫌に学校に向かう。運動会好きの私も楽しみにしていた。

 

娘がめちゃくちゃ不機嫌な理由は、延期になる週明けの月曜日だと参加できないからだ。娘は明日から国際映画教育プログラムというものに行けることになって、1週間リスボンに行くのだ。体育祭に劣らずそちらも素晴らしい経験ができるだろうに、そうは言ってもやはり高校生。目の前の体育祭も彼女にはとても重要なのだが、こればかりは致し方ないだろう。

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品『佐知とマユ』(第4回「市川森一脚本賞」受賞)『嘘八百』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『こどもしょくどう』など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。最新作は『雑魚どもよ、大志を抱け!』。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『春よ来い、マジで来い』(双葉社・刊)。