XPS 16 Generarion 2024(以下XPS 16)は、2024年2月に発表された16.3型ディスプレイ搭載のクラムシェルスタイルのノートPCだ。

現役XPSノートPCラインアップでは最も大画面モデルとなるXPS 16

DELLのラインアップにおいてXPSブランドは、「トップクオリティの汎用ノートPC」という役割を担っている。“汎用ノートPC”というと、価格を抑えてコストパフォーマンスを重視した製品を連想するかもしれない。

しかし、本当に使える汎用ノートを目指すのなら手に入る最高級のパーツを惜しげもなく投入するぐらいの覚悟がなければならない、ということが今回XPS 16を見ていく中で理解できた。このレビューでは、XPS 16が真の意味で使える汎用ノートPCであることを検証していきたい。

XPSが訴求する“アイコニック”なデザインとは

XPS 16の本体サイズは、幅358.18×奥行き240.05×高さ18.70mm。同サイズのディスプレイを搭載する競合モデルとほぼ同等だ。

一方で、重さは2.2kgと2024年第2四半期に登場した同サイズディスプレイ搭載モデルと比べると重い(多くのモデルは1.8kg台以下)。ただ、XPS 16のディスプレイサイズが16.3型と他の16型ディスプレイより一回り大きいことは考慮しなければならないだろう。加えて、「金属の塊感」といった質感が、高級感を演出するとともに“スペックの値”以上に重く感じさせてしまう側面もある。

XPS 16に限らず、XPSノートPC全体で「アイコニックなデザイン」を訴求している。アイコニックという言葉にはいろいろな意味が含まれるが、デザインテイストとしては「シンプルさ・明快さ」「機能性・使いやすさ」に着目したい。

XPS 16の天面は中央部をわずかに膨らませたフォルムを形成している。また、本体の四隅もRを施すなど全体として柔らかいイメージを持たせている。その一方で前後左右の側面では直線を組み合わせた形状としたことで、シャープで硬質な印象も与えている。

本体カラーバリエーションは「プラチナシルバー」と「グラファイト」を用意。どちらも金属の質感を持たせながら光沢を抑えている。ボディの材質はアルミニウムでCNC加工でダイキャストから削り出している。

評価機材のカラーリングはプラチナシルバー。天面にはわずかな凸曲面を持たせて全体的に柔らかい印象を放っている

底面も四辺は曲面を持たせて天面と同じソフトな形状となっている。このテイストはXPSノートPCで共通する

見た目以上に気持ちがいいキーボード

XPSシリーズのデザインテイストは、キーボードとタッチパッドにも色濃く反映されている。ボディがシンプルながら曲線を取り入れることで柔らかいやさしい印象を醸していたのに対して、キーボードとタッチパッドはフラットで直線的なシンプルを前面に押し出した、ある意味無機質でクールな印象をユーザーに与える。

キーボードは今主流の隣接するキートップに隙間を設けたアイソレーションレイアウトではなく、フラットなキートップをタイルのようにびっしりと敷き詰めた「ゼロラティスキーボード」だ。遠目にはモールドを施した一枚のパネルのように見える。

キーが敷き詰められてはいるものの、キートップサイズが十分に(実測で19ミリ×18.5mm)あるので、隣のキーを押し間違えるストレスは全くない。キーストロークは実測で約1mmで数値としては“浅い”が、押し下げにかかる力は軽くもなく重くもなくちょうどいい塩梅。「スッ」と入っていく。タイプ音もいたって静かで快適だ。

タッチパッドもシンプルを貫いている。パームレストにはタッチバッドの領域が何も示されていない。ユーザーは「ここらへんかな?」という自らの勘を信じてタップしたりスワイプしたりすることになる。だいたいにおいてタッチパッドの領域を捉えているが、それでも長距離を操作することになるドラッグ操作はなかなか慣れることができなかった。

キーボードの特徴の1つとして、タッチセンサー方式のファンクションキーがある。ファンクションキーはキーではなくキーボートの上側にアイコンでセンサーのある場所が記されている。そこをタップすると表示されているファンクションが有効になる。

表示は2パターン用意していて、escキーをタップして表示を切り替える。なので使い勝手は通常のファンクションキーと同様で、過去のMacBookのようにプログラマブルに表示を切り替えることはできない。

キーボードは当世主流のアイソレーションタイプではなく、キートップが隣接する「ゼロラティスキーボード」を採用。全体が一枚のフラットなパネルのように見える

ストロークは約1mmと浅いが、タイプのフィーリングは絶妙で重くもなく軽くもない下限にチューニングされている

“先を見据えた”ワイヤレスインタフェース

16.3型ディスプレイを搭載したなりに大きいノートPCだが、本体に搭載するインタフェースの数は限られている。それこそ、13.3型ディスプレイ搭載のXPS 13と変わらない。左右側面に合わせて3基のThunderbolt 4 Gen 2 Type-Cを備える他はヘッドホンマイクコンボ端子とmicroSDスロットのみだ。

ちなみに、グラフィックスにGeForce RTX 4070 Laptopを組み込んだ場合、Thunderbolt 4 Gen 2 Type-Cは2基に減り、1基はUSB 3.2 Gen 2 Type-Cに変わる。

とはいえ、USBに接続するデバイスとしてType-Aを用いるUSBメモリは依然として利用機会は多いし、外部ディスプレイの接続インタフェースとしてHDMIを利用する機会は増えている。XPS 16は本体に大画面ディスプレイを備えているものの、作業効率を上げるためにマルチディスプレイ環境にしたいユーザーも少なくないだろう。

その他無線接続としては、IEEE802.11ax(Wi-Fi 6E)とBluetooth 5.4が利用できる。なお、無線コントローラとして搭載する「Intel Killer Wi-Fi 7 BE1750」は2024年12月に策定される予定のIEEE 802.11be(Wi-Fi 7)に対応するとIntelは説明している。最大通信速度(理論値)は46Gbps、帯域幅では320MHzをカバーするという。

右側面

左側面

ディスプレイの最大開度は実測で約138度

右側面には2基のThunderbolt 4(DisplayPort 2.1とPower Deliveryに対応)を搭載する

左側面にはmicroSDスロットにThunderbolt 4(DisplayPort 2.1とPower Deliveryに対応)、ヘッドホンマイクコンボ端子を備える

USB Type-C接続拡張端子ユニットにはHDMI出力とUSB Type-Aを用意する

XPS16には、ポケットサイズの外部インタフェースボックスを標準で用意している。備えているインタフェースはUSB Type-AとHDMIが1基ずつで、必要最小限を備えている。手のひらに収まるサイズなので持ち運びには何ら問題はない。強いて言えば、小さすぎてカバンの中やそれこそポケットの中で雑に扱っていると存在感を見失ってしまうことだろうか。

ハイエンドな汎用ノートだからこその処理能力

XPS 16は多様なシステム構成を用意している。その選択の幅はCPUから、グラフィクス、システムメモリ容量、ストレージ容量、ディスプレイキーボードが選択できる。CPUは、「Core Ultra 9 プロセッサー 185H」と「Core Ultra 7 プロセッサー 155H」から選択可能。

GPUはCPU統合のIntel Arc Graphicsから、ディスクリートのGeForce RTX 4050(グラフィックメモリはGDDR6 6GB)、GeForce RTX 4060(GDDR6 8GB)、GeForce RTX 4070(GDDR6 8GB)から選べる。

ディスプレイは2種類の構成を用意している。画面サイズは変わらないものの、一方は解像度が3,840×2,400ドットの有機ELパネルでタッチ操作に対応。もう一方は解像度が1,920×1,200ドットの液晶パネルで、垂直同期クロックが120Hzとその方向性はだいぶ異なる。

CPUにCore Ultra 9 185Hを選択すると、グラフィックコアでGeForce RTX 4060またはGeForce RTX 4070の選択が必須となり、システムメモリ容量は32GB以上となる。なお、ストレージ容量とディスプレイ構成は他の構成に関係なく選択可能だ。

評価機材のディスプレイは解像度が1920×1200ドットなれど垂直同期クロック120Hzとゲーミングディスプレイ並みの性能を有する

ディスプレイ上側には1080p(30fps)のフルHDカメラと360p(15fps)のIRカメラ、Waves MaxxVoiceで最適化されたデュアルマイクアレイを備える

評価機材はCore Ultra 7 155Hを搭載していた。TDP(Processor Base Power)は28W、処理能力優先のPerformance-cores(Pコア)を6基、省電力を重視したEfficient-cores(Eコア)を8基組み込んでいる他、低消費電力 Efficient-core(LPEコア)を2基備えている。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては16コア22スレッドだ。

CPU-ZでCore Ultra 7 プロセッサー 155Hの仕様情報を確認

Core Ultraには、Core Ultraへの世代更新に合わせて開発された統合グラフィックスコアの「Intel ARC Graphics」が組み込まれているが、XPS 16のシステム構成ではディスクリートのGPUとしてGeForce RTX 40シリーズを選択できる。評価用機材ではGeForce RTX 4050 Laptopを搭載していた。

GPU-ZでCPUに統合されたGeForce RTX 4050 Laptopの仕様情報を確認

なお、評価機材においてCPUとGPU以外で実装された処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、システムメモリはLPDDR5X-6400を16GB搭載。ストレージは512GB SSD(PCIe 4.0対応)だ。

Core Ultra 7 プロセッサー 155HとGeForce RTX 4050 Laptopを搭載したXPS 16の処理能力を検証するため、ベンチマークテストを実施した。まずは“基本的な体力測定”としてベンチマークテストのPCMark 10、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64を用いて測定した。

なお、ゲームタイトルを用いたベンチマークテストの設定は原則プリセットで用意している高負荷設定を選択しているが、NVIDIAやAMDによるソフトウェアアクセラレータ機能は無効にしている。

なお、比較対象としてCPUにCore i7-1360Pを搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,080ドット、システムメモリがLPDDR5-4800 16GB、ストレージがSSD 512GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPCで測定したスコアを併記する。(ただし比較するのはゲームタイトルベンチマークテスト以外)。

第13世代のCore i7 TDP28Wモデルを搭載した比較対象ノートPCと比べ、Core Ultraプロセッサーを採用したXPS 16がほぼ上回る結果となった。なお、ストレージの転送レートを測定するCrystalDiskMarkに関しては比較対象ノートPCのスコアが上回っているが、これは比較対象で搭載するSSDがサムスン電子ラインアップの上位モデルということがインタフェース規格より大きく影響しているためといえる。

そのGeForce RTX 4050 Laptopは、スペックだけを見るとGeForce RTX 40ラインアップの中で微妙な立ち位置に見えるが、コストパフォーマンスの良さを評価する声も少なくない。今回測定したゲームタイトルのベンチマークテストでも(最新とは言えないながらも)負荷がそれなりに高い設定(ただ解像度は1920×1200ドットになってしまうが)でも実用的なスコアを出してくれる。そういう意味では描画クオリティを求めたいPCゲームもそつなくこなしてくれるといっていいだろう。

汎用ノートというならここまでしないと使えない

汎用ノートと聞くと、「なんでも一通りできると訴求しているけれど価格を抑えて性能も抑えているので何をやらせても不満に思う」製品を連想するかもしれない。しかし、XPS 16(に限らずXPSノート全般)に関して言えば、CPUにしてもGPUにしてもハイエンドなパーツを実装したおかげで、なんでも一通りできるし、なんなら結構なパフォーマンスを発揮して快適にやりこなしてしまう。

PCを購入するユーザーの多くは特にこれといった目的があって購入するわけではない。どんな用途にでもそつなく使えるのが欲しい。それはWEBブラウザだろうとPCゲームだろうと変わりない。

費用対効果を重視したモデルだとメールの作成とWEBブラウジング、eコマースショッピング程度ならストレスなく利用できるだろうが、利用目的が定まっていないからこそ汎用PCは高い処理能力を備えていないと意味がない。そういう意味でXPS 16こそが真に使える汎用PCと言ってもいいだろう。