高木豊の交流戦総括 セ・リーグ編

 今季の交流戦は、球団創設20年の節目を迎えた楽天が初優勝。セ・リーグは、昨季の交流戦覇者DeNAが3位になるなど再開されるリーグ戦に向けて弾みをつけたが、一方で阪神と中日は4つの借金を作る苦しい戦いになった。

 かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、交流戦で勢いづいたセ・リーグのチームや目に留まった選手、今後のリーグ戦の展望を聞いた。


一軍復帰後に好調の度会隆輝など、交流戦で好調だったDeNA photo by Sankei Visual

【交流戦で勢いづいた球団・心配な球団】

――交流戦で勢いづいたセ・リーグのチームはどこだと思われますか?

高木豊(以下:高木) 最も勢いづいたと思うのはDeNAで、次にヤクルトです。DeNAはアンドレ・ジャクソンとアンソニー・ケイがいい具合に勝ちだした。茺口遥大も戻ってきましたし、交流戦で2勝を挙げた石田裕太郎もいいですね。リリーフ陣は流動的なのですが、当初不安視されていた先発陣はある程度計算が立つようになってきました。打つほうでは度会隆輝が絶好調で、梶原昂希が非常にいい。投打のバランスがよくなってきましたね。

 ヤクルトはベテランの石川雅規、奥川恭伸や山野太一にも勝ちがついた。今季に投げていなかったピッチャーたちに出番が回ってきて勝てたことが大きいですし、これらのピッチャーが次回以降も安定的に勝っていけると、チームは乗っていけると思います。抑えの田口麗斗にセーブがつくようになったのも好材料ですし、ヤクルトは打線がいいのでピッチャーが安定してくると勝ちを拾っていけるはずです。

――逆に心配なチームを挙げるとすれば?

高木 中日です。自慢の投手陣の防御率が、バンテリンドームではいいのですが、ほかの球場だとよくない。打つほうは、ヒットは出るのに点が取れません。それと、打線は日替わりなのですが、バッティングの内容がそれほど悪くないバッターでも代えてしまうことが気になります。「代えなきゃいけないほど調子が悪いかな?」と思うことがありますね。それはオルランド・カリステを使うのか、使わないのかも含めてなのですが。

打順は固定で戦うのが一番だと思いますし、そのぐらいのメンバーは揃っていると思うんですけどね。毎試合のようにコロコロ変更していたら選手は迷ってしまうんじゃないですか。それと、状態の悪い岡林勇希を使い続けたり、左ピッチャーに対しての代打として、対左を打てていない大島洋平を満塁のチャンスで起用したり、選手起用において固定観念というか、実績にとらわれているような気がします。

【投打で活躍が目立ったのは?】

――選手個人について、交流戦で目に留まったバッターは?

高木 巨人のエリエ・ヘルナンデスです。バッティングに力みがなくてコンパクトですね。日本に来たら長打を期待されて大振りになる外国人選手も多いですが、おそらくマイナーリーグでプレーしていた時と同様の感覚でやっていて、いい意味でホームランとかはあまり考えていないのかなと。変化球も冷静に見極めていて追っかけませんし、コンパクトなバッティングでつないでくれるのでどんな打順でも任せられます。

阿部慎之助監督も「外国人選手だからホームランを期待する」という感じではないですし、阿部監督が実践しようとしている、つないで1点を取る野球にも合っていると思います。守備に関しては特段うまいとは思いませんが、無難にこなしていますね。

――ほかに活躍が目についたバッターはいますか?

高木 阪神の前川右京です。交流戦でプロ初ホームランも出ましたし、ひとつ抜けたんじゃないですか。高校時代にホームランも打ってきたバッターなので、一発が出ないうちはモヤっとしたものがあったと思うんです。それがやっと打てたということで、今後は変な力みや意識がなくなるはずです。

――ピッチャーに関してはいかがですか?

高木 同じく阪神ですが、才木浩人は抜群でしたね。3回登板して3勝。阪神は交流戦で7勝しましたが、窮地を救いましたよね。安定感がありましたし、どのチームに対しても才木のピッチングは通用しました。あとは、広島の大瀬良大地もよかったです。ノーヒットノーランの試合以外では勝ちがつきませんでしたが、3試合(23イニング)投げて1点しか取られていませんし、非常に安定していました。

――先ほど名前を挙げたDeNAの石田投手はいかがですか?

高木 やっぱり真っすぐがいいですよ。真っすぐのキレと投げっぷりがよくて躍動感がありますし、見ていてわくわくするピッチャーです。先ほども話しましたが、ジャクソンやケイも試合を作ることができていますし、DeNAは先発陣が安定してきているので今後が楽しみです。広島も交流戦ではいい戦いぶりを見せていましたが、交流戦で流れをつかんで勢いをつけたチームを挙げるとすれば、やっぱりDeNAですね。

――宮粼敏郎選手も(6月18日に)一軍に合流しました。

高木 牧秀悟、筒香嘉智、タイラー・オースティン、宮粼の4人のうち、ひとりをローテーションで休ませながら起用しても十分戦えます。牧は若いから常時出るでしょうが、たとえばハッスルプレーのオースティンが、前の試合でハッスルしすぎていると思えば休ませればいい。長期の休みは痛いですが、数試合なら誰かがカバーできますよ。宮粼がいなくても7連勝できるくらいのバッター陣ですから。

【得点力不足の阪神に明るい兆し】

――セ・リーグは1位の広島から同率5位のヤクルトと中日まで6.5ゲーム差。どのチームにも優勝のチャンスがありそうですか?

高木 中日は今の状態のままであれば、チャンスがなくなっていくんじゃないかと。ほかのチームに離されかねない危ない状態だと思います。あと、巨人も少し心配です。交流戦最後の日本ハムとのカードでは勝ち越しましたが、その前は6連敗。チームが上向きかなと思っても、なかなか勢いがつかないんです。

たとえばホームランが何本か出たりして、ある程度点を取れて快勝できたら、以降は波に乗っていけるものなんです。でも、巨人の場合はいい勝ち方をした翌日に点が取れなかったりしたので、リーグ戦に戻っても苦しいと思いますよ。

――得点力不足では、阪神もその傾向が見られます。

高木 阪神は少し明るい兆しが見えてきたんじゃないかなと。ヒットの本数が増えてきているので。なかなか点には結びつけられていませんが、本数が増えているということはリーグ戦再開に向けて準備が整った感はあります。打順も近本光司を1番、中野拓夢を2番に戻し、渡邉諒に使える目処が立っている。木浪聖也が肩甲骨骨折で離脱してしまいましたが、前川右京もいいし、ちょっと上がり目があるなと見ています。

 阪神はこれまでピッチャー陣の頑張りで踏みとどまってきましたが、これから疲れが出始める時期にもなりますし、バッター陣がいかに援護できるかがポイントです。昨季のチャンピオンチームがどう巻き返していくか。交流戦の勢いそのままにDeNAが加速していくのか。広島は安定した戦いを続けていけるのか。混戦状態からどのチームが抜けだすのか注目ですね。

(パ・リーグ編:交流戦で心配になったパ・リーグの2球団 MVP水谷瞬らの評価は?>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。