6月22日(日本時間23日1時)に行なわれるトルコ対ポルトガル。グループリーグFの2巡目の戦いである。初戦の結果はともに勝利。勝ち点3同士が戦う、このグループのハイライトゲームである。

 ブックメーカー各社の大会前の優勝予想では、ポルトガルは大会前、24チーム中、フランス、イングランド、ドイツ、スペインに次ぐ5番手に挙げられていたのに対し、トルコはそこからオランダ、イタリア、ベルギーをはさむ9番手。ベルギーまでを8と捉え、優勝候補の一角とするならば、トルコは2番手グループの筆頭だ。優勝は難しいが、ベスト4は狙えそうなダークホース的なチームという位置づけだ。


チェコ戦にフル出場したクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)photo by AP/AFLO

 この立ち位置から、過去のトルコで想起したのは次の2大会だ。ひとつは決勝トーナメント1回戦で日本を、3位決定戦で韓国を下し、3位に輝いた2002年日韓共催W杯。もうひとつはオーストリア、スイスで共催されたユーロ2008で、こちらも成績はベスト4だった。

 W杯とユーロでトルコが残した最高成績である。なかでも神がかっていたのはユーロ2008だった。グループリーグの3戦目の対チェコ戦(0−2から3−2とする逆転勝利)、準々決勝のクロアチア戦(延長終了直前に1−1に追いつきPK戦で勝利)で収めた奇跡的な勝利はいまだ語り草だ。敗れた準決勝のドイツ戦(結果は2−3)も戦いぶりはお見事のひと言で、ユーロ2008はトルコの魅力が全開になった大会だった。

 その時、目を引いたのはスタンドを埋めたトルコファンだった。スイスに暮らすトルコ移民に、総数で300万人を超えると言われる隣国ドイツに暮らすトルコ移民が加勢した。ドイツとスイスの国境の町、バーゼルで行なわれた準決勝トルコ対ドイツが、最後の最後までもつれる名勝負になった理由でもある。トルコの選手はサポーターの熱い声援に最大限、背中を押されることになった。

 今大会、開催国であるドイツ人の次にスタンドを埋めているのは、おそらくトルコ人だろう。トルコにとってドイツは半ばホーム。面白い存在だと見る。

 3−1で勝利した初戦のジョージア戦。トルコを牽引したのが両ウイング。ケナン・ユルディズ(左/ユベントス)とアルダ・ギュレル(右/レアル・マドリード)の19歳コンビだった。今回のトルコの魅力を語る時、欠かせない存在になる。スタンドの大声援をバックに、ビンチェンツォ・モンテッラ監督の標榜する攻撃的サッカーが、ポルトガルにどれほど通じるか。まずはそれが、トルコ対ポルトガルのザックリとした見どころだ。

【優勝候補に劣らないポルトガルの顔ぶれ】

 ポルトガルは前々回のユーロ2016のチャンピオンだ。グループリーグの3試合をすべて引き分け、15番目の成績でベスト16に進出した時、ポルトガルの優勝を予想する人は限りなくゼロに近かった。まさかの優勝だった。ポルトガルは自国開催のユーロ2004でも準優勝に輝いていたが、その時も優勝候補ではなかった。好チームではあったが、強チームという扱いではなかった。

 だが今回、たとえばグループリーグ初戦、対チェコ戦のスタメンに並んだメンバーは、優勝候補の筆頭であるフランス、イングランドと比べても遜色のない、5番手ではなく3番手と言いたくなる充実した顔ぶれだった。

 GK/ディオゴ・コスタ(ポルト)、左CB/ヌーノ・メンデス(パリ・サンジェルマン/PSG)、中央CB/ぺぺ(ポルト)、右CBルベン・ディアス(マンチェスター・シティ)、左ウイングバック/ジョアン・カンセロ(バルセロナ)、右ウイングバック/ディオゴ・ダロト(マンチェスター・ユナイテッド)、守備的MF/ヴィティーニャ(PSG)、攻撃的MF/ブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)、左ウイング/ラファエル・レオン(ミラン)、CF/クリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)、右ウイング/ベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)。

 久々に見る39歳のロナウドは、思ったほど老け込んでいなかった。強引に出場している印象もなく、フルタイム出場を果たした。開始8分に放ったダイビングヘッドを皮切りに、少なくとも5度は相手GKを慌てさせた。41歳になったCBのぺぺも同様に、衰えのない動きで最終ラインを締めた。

 最前線と最後尾に大ベテランを配した3−4−3。2022年カタールW杯後に就任したロベルト・マルティネス監督は、ベルギー監督時代同様、3バックで臨んでいる。しかし、そう言われてみれば3バックと思う程度で、3バック独特の臭みを感じることはない。左ウイングバックのカンセロが中盤でプレーしたり、ウイングバックとウイングの2枚が大外に大きく開いたりする。5バックになりにくい、バランスの取れた攻撃的かつオリジナリティの高い3バックだ。

【チェコ戦の苦戦が良薬に?】

 しかし、先制点を奪ったのはチェコだった。後半17分、チェコMFルカシュ・プロヴォド(スラビア・プラハ)のミドルシュートが炸裂。ポルトガルはピンチに陥った。マルティネス監督はそこで直ちに、レオンに代えてディオゴ・ジョタ(リバプール)、ダロトに代えてゴンサロ・イナシオ(スポルティング)を投入した。

 するとジョタがいいアクセントとなり、淀んでいた流れは活性化する。その6分後、同点弾が生まれた。しかし、時間は刻々と経過する。後半42分は、カンセロのクロスをロナウドがヘディングシュート。これがバーに当たり、跳ね返ったところをジョタが詰め、逆転弾となったかに見えた。だがVARの結果、オフサイドの判定でノーゴール。

 引き分けムードが濃厚になった段で、マルティネス監督は3枚替えに打って出た。ヴィティーニャ、カンセロ、ヌーノ・メンデスを下げ、フランシスコ・コンセイソン(ポルト)、ペドロ・ネト、ネルソン・セメド(ともにウルヴァ―ハンプトン)を投入した。そしてアディショナルタイムに入った後半47分、このうちのふたりが逆転劇に絡むことになった。

 左ウイングのポジションに入ったネトがドリブルで縦に切り裂き折り返すと、チェコDFがストップしたかに見えたが、そのこぼれ球をコンセイソンがゴールに叩き込み、試合を決着させた。

 まさに辛勝だった。苦戦と言えば苦戦である。だが筆者が想起するのは8年前のポルトガルだった。苦戦続きのなかで勝ち上がり、優勝したユーロ2016だ。苦戦は、振り返れば良薬になった。さまざまな選手に出場機会が与えられたことで、チームはトーナメントに入って一丸となった。フランスとの決勝戦で、エースのロナウドが前半28分に負傷退場すると、チームは一層まとまって見えたものだ。

 交代出場で活躍したネト、コンセイソン、ジョタらは、いまごろ上機嫌でいるに違いない。選手層を厚くさせての勝利でもあった。決勝まであと5試合を戦わなければならないチームに求められる総合的な体力を、大きく増す勝利だった。

 問題があるとすれば、3−4−3だ。試合終盤は4−3−3に変更して戦っているが、これで選手のノリはそれまでより格段によくなった。オプションができたと前向きに捉えることもできるが、いまひとつパッとしなかったベースの3−4−3を心配したくなる気持ちも湧く。屋台骨はいまひとつ脆弱だ。

 トルコ戦は完全なるアウェー戦である。ユベントスとレアル・マドリードに所属するトルコの19歳の両ウイングも元気いっぱいだ。対戦が待ち遠しい限りである。