「もちろん市の立場としては、意見があれば対応しなければいけないのもわかるのですが、つらい気持ちになりました。そしてこの頃は、これまで自分がやってきたことを振り返り、『私がやってることって間違っているの?』と、何度も自問自答しています」

 なぜ、ド派手成人式は陳述書が市に提出されるまでに批判されるのか。それは、身に纏っている衣装がド派手だという以外に、刺繍入りの卒ランや特攻服など、ヤンキーファッションを彷彿とさせることが大きいかもしれない。では、彼らは世間でいう“輩”なのだろうか。

「工場勤務や建築業界、JRや消防士として働くなど、普通に働いている子たちがほとんどです。成人式のために上司から髪の毛を伸ばす許可をもらったり、『仕事を辞めたら袴代が払えなくなるから』とキツイ仕事も辞めずに頑張ったり。みんな、いい子たちです」

◆意外だった海外での評価は…

 そういった彼らの素性を知っている池田さんは、容赦ない批判や偏見に心を痛めてきた。けれど、彼女ひとりが否定したところで批判や偏見がおさまるわけではない。モヤモヤとした気持ちが続いていた2018年、日本から遠く離れたニューヨークより連絡が入る。

「それは、ド派手成人式の衣装を見たというニューヨカーのスティーブンという男性からでした。スティーブンは茶道や着物といった日本文化に興味を持っていて、ニューヨークで紹介する計画を立てていたのです。そして、私(みやび)からも2〜3着借りたいと言います」

 でも、スティーブンがどの衣装を送ってほしいのかわからない。そこで役立ったのが、『みやびBOOK』だった。そして、指名を受けたド派手成人式の男性用衣装を複数点ニューヨークへ送った池田さんは、イベント終了後にスティーブンから絶賛されている。

「スティーブンからは、『たくさんの人が、みやびの衣装の前で立ち止まった』『すごく人気だった』と嬉しい言葉をいただきました。海外では、アートとして評価されたのです。この展示をキッカケに、約4年後の2022年にはニューヨークで個展を開くことになりました」

◆海外に住む人から「着物革命」と大絶賛

 コロナ禍の影響もあり、大絶賛だった2018年の展示から約4年後の2022年開催となったニューヨークの個展。池田さんがデザインし、縫製なども手掛けた約20着のド派手衣装が、海外の人々や海外に住む日本人から「着物革命」など嬉しい声とともに称賛されている。

「その個展の打ち上げパーティーには驚くような著名な方々が出席していて、翌月にはオファーがあり、2023年9月にニューヨークでファッションウィークを開催することになったのです。日本では成人式の準備も控えていましたから、スケジュールはキツキツでした」

 ファッションウィークのオファーを受けた池田さんは、タイトなスケジュールを乗り越え、約1週間にわたって開催されたショーを成功させている。そして、大喝采――。客席にいたギャラリーの目が釘付けになっていたことは、ショーを終えてから聞かされた。

◆NYファッションウィーク後の変化

「日本での風向きが変わったのは、このあとです。読売新聞がショーを取り上げてくれたことで取材が殺到しました。ニューヨーク滞在中にはZoomで、日本へ戻ってからも多くの取材を受け、激レアな人から体験談を聞く『激レアさんを連れてきた』にも出演しています」

 そしてメディア出演や仕事の増加とともに、ド派手成人式への評価も変化した。さらに、2023年に市長が武内和久氏へと変わり、ド派手成人式について「北九州市の若い人たちがコツコツ生み出した美意識」「否定から挑戦へ」など、前向きなコメントも発表している。