コンプレックスだった「太い脚」「大きいお尻」が武器に変わった ガリガリ体型に憧れた小倉あれずがトップビキニ選手になるまで
ビキニフィットネス・小倉あれず インタビュー後編(全2回)
2023年にスペインで開催された世界大会「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ」158センチ以下級で日本人選手最高位の4位となった、ビキニフィットネス界の新星、小倉あれずさん(27歳)にインタビュー。ビキニフィットネスとの出会いやフィットネスアスリートの減量の苦労について話を聞いた。
ビキニフィットネスの世界大会で好成績を収めた小倉あれずさん
ーー高校時代はバレーボール選手として全国大会、春高バレーにも出場した小倉さん。なぜビキニフィットネスを始めたのでしょうか?
小倉あれず(以下同) 高校卒業後は武蔵丘短期大学(埼玉)でバレーを続けていましたが、高校で燃え尽きたところもあって、途中でやめてしまいました。
それまでバレーを本気でやってたから脚がすごく太かったし、髪の毛も短かったから"普通の女の子"にずっと憧れてたんです。そして、ガリガリのモデルさんみたいな体形になりたいとダイエットを始めたんです。
ーーどのようなダイエットを?
食べないダイエットです。1日をグミ1個だけで過ごすとか、友だちとの食事でもトイレへ吐きに行っちゃったりとか。1年間で約10キロやせましたが、胃に穴が開いてしまって緊急搬送。それからリバウンドしてりんごダイエットやファスティングをやっていたんですが、なかなかやせず。
そんな時、トレーニングジムを併設する整骨院で働く母からパーソナル(トレーニング)を勧められて、その先生からビキニフィットネスを紹介してもらいました。それが3年前、2021年4月ですね。
【コンプレックスを活かせる競技との出会い】ーービキニフィットネスをどのように紹介された?
「脚が太くてお尻が大きいのが嫌なんです」とパーソナルの先生に相談したら、「それを活かせる競技があるよ」と。
でも最初にビキニ選手の写真を見た時は「え、怖い!」と思っちゃいました(笑)。でもちゃんと見ると選手はすごくきれいだし、どうせやるなら優勝したいなって。
最初から大会を意識してトレーニングをしましたが、6月にビキニ界のレジェンド、長瀬陽子さんにポージングの指導を受けに行ったら、すぐに出なさいと(笑)。本当は翌年に出場するつもりだったんですが......。
ーーしかし、2021年9月に出場した初コンテスト「栃木オープン選手権大会」でみごと優勝しました。
ボディビルなどのフィットネス競技ってまだ特殊なイメージが一般にはあったから、家族には「そんなの出るの?」って感じで一度反対されたんです。
でも、私はやりたいと思ったらやる人間だから、「優勝するから見てて」と自分にプレッシャーをかけて。結果的に有言実行になったので家族もそれから応援してくれてます。
ーー初ステージの感想は?
審査員の方からあんなにコンプレックスだった脚を「細い」と言われてしまったので、それからお尻をもっと大きくしたいと思うようになりました。
そうはいっても、あの時の自分としては納得のいく体で出られて満足です。食べてもこれだけやせられるんだとわかって自信もつきました。だから、今やせたいと思ってる女性も、しっかり食べてほしいですね。
【大会前減量の苦労と切り札】ーーとはいえフィットネスアスリートは食事面もかなり制限しているイメージがあります。
大会に向けての減量は本当に大変ですよ......。
ーー小倉さんの身長は156センチ。シーズンオフの体重は?
オフは55キロです。食事は減量食を増やしたバージョンを1日4〜5食です。減量食は、たとえば、米100グラムと明太子、鶏むね肉100グラムに自作したフィナデニソースをかけたもの、それにMCTオイル7グラムとかですね。朝は鮭など魚の脂を摂ることが多いです。
ーーオフでも減量食を増やしただけのものと考えると、年中、食に気を遣っている状態ですね。
そうはいっても、オフの週末は好きなものを食べてますよ。お酒が大好きなので、今年のオフは週5で飲んでました。この前なんてテキーラを10杯も飲みましたよ(笑)。
お酒は筋肉の合成を阻害すると言われてますが、そんなの気にしていたら楽しくないですからね。
それで3月下旬から減量開始。初期は1日1800キロカロリーからスタートして、徐々に下げていき最終的に1200〜1400キロカロリーまで落とします。今は減量2カ月で4キロくらい落としていて、本番までにあと6キロほど絞る予定です。
ーーつまりオフは55キロ、大会直前には45キロになっていると。過酷な減量ですね。
減量期はもの忘れが激しくなります。忘れものをして家に戻ったはずなのに、何を忘れたのかを思い出せなかったりして(笑)。
ーー"減量あるある"があるんですね。
ほかにもいっぱいありますよ。歩くのが遅くなって目的地までなかなかたどりつかなかったり、お米100グラムが秤(はかり)なしでわかるようになったり。水を抜きすぎてトイレの水すら飲みたくなることだってあります。
それでも摂取カロリーは基礎代謝より下げない。ちゃんと食べて元気にトレーニングすること。そして、大会1カ月前から最後の追い込み。その際に切り札をたくさん持っておくことが大事だと思ってます。
ーー切り札?
たとえば、白米の量を減らしたり、玄米といった低GI食品(食後血糖値の上昇指数「GI値」が55以下の食品)に変えたり、最後の最後で食事に変化をつけてあげると、いい状態で大会を迎えられます。
逆に食事はそのままでトレーニング量を増やすといった絞り方をすると疲労が抜けず余分な水分を吸収しやすくなって、体がむくんでしまうんです。
ーーただ摂取カロリーを抑えて、トレーニングを増やすだけじゃない。
はい、めちゃくちゃ考えてやってます(笑)。それでも去年は絞れない時期があって。前日に完璧な1日を過ごしたはずなのに、翌日、体重に表れない日がめちゃくちゃ多くて、苦しすぎました。
そして、優勝を目指してた去年8月の「スポルテックカップ」でも3位になってしまい、「私、向いてないんじゃないかな......」と競技をやめようかとも思いました。
「スポルテック」後2週間はトレーニングも減量もやらなかったんですが、その年の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」は地元の宇都宮開催で歯科衛生士の同僚も見に来てくれるから、やっぱり頑張ろうってリスタートしたんです。でも結局、「オールジャパン」は減量が間に合わず、でした。
【目標は3年以内に世界一になる】ーー「オールジャパン」では158センチ以下級2位でしたが、その3週間後に行なわれた無差別級の「フィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス」では、「オールジャパン」で敗れた佐野愛美さんに勝利しての3位。さらに国際大会の「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ」では日本人最高位の4位となりました。
納得のいくシーズンではなかったですが「グラチャン」に向けて死ぬほどカロリーを下げて、「アーノルド」でも結果を出せたから、よしとしようという感じです。
ただ、急激に減量しすぎて身体機能的にあまりよくなかったので、いろいろ犠牲にしたんだろうなとは思います。今年はもう少し無理のない減量にできればと考えてます。
2023年の「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ」では日本人最高位の4位に入った 写真/本人提供
ーービキニアスリートとして今後の目標は?
3年以内に世界一になることです。ただ連覇にはこだわりがないので、世界を獲れたらこの競技を辞めます。将来は結婚して子どもがほしい。そうやって期間を決めて努力して、その後は指導側にまわってビキニ競技者を増やすこと、育てることで競技に携わっていきたいと考えてます。
ーー結婚したいということで、好きな男性のタイプはやはりマッチョですか?
そんなことないですよ! トレーニングでも仕事でも、何かに向かって頑張っていて尊敬できる人であれば。
ーー何かに向かって頑張ってたらガリガリでもOK?
ちょっとは筋肉というか、体に厚みがあったほうがいいかな(笑)。最近、やっと恋人ができて、東京ではその彼の家に住まわせてもらってるんですよ。
ーーその方は筋肉がある?
まぁ、トレーニング界隈の方ですね(笑)。お互い大会前のつらさがわかるので、一緒に減量も頑張れますからね!
終わり
前編<強豪バレー部からビキニフィットネス界のホープへ 小倉あれずが国際大会4位で得た手ごたえ「世界の舞台ならもっと羽ばたけるかもしれない」>を読む
取材協力/ゴールドジムスパレア宇都宮
【プロフィール】
小倉あれず おぐら・あれず
1997年、栃木県生まれ。ビキニフィットネスアスリート。学生時代はバレーボールに取り組み、強豪・国学院栃木高では部長としてチームを引っ張り春高バレーに出場。2021年から本格的にトレーニングを始め、2023年の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」ビキニフィットネス158センチ以下級で2位、同年の階級無差別の「フィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス」では3位となり大躍進。スペインで開催された国際大会「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ2023」ビキニフィットネス158センチ以下級では日本人最高位の4位に輝いた。