ビキニフィットネス・小倉あれず インタビュー前編(全2回)

 盛り上がりを見せるフィットネスシーンで、期待の新星として注目されているのが、ビキニフィットネスアスリートの小倉あれずさん(27歳)だ。

 本格的にトレーニングを開始して数年で、2023年9月の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」(JBBF主催)158センチ以下級で準優勝。そして、無差別級の大会である「フィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス」(同)で3位と躍進した。

 さらに翌10月、スペインで開催された世界大会「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ」(IFBB主催)では日本人最高位の4位に入り、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。新進気鋭のビキニアスリートとして期待される彼女の強さの秘密に迫る。


ビキニフィットネスアスリートとして活躍する小倉あれずさん 写真/本人提供

【ストイックなバレー部から筋肉の道へ】

ーー今や国内トップビキニアスリートのひとりとなった小倉さん。じつは学生時代までバレーボール選手で、出身高校は春高バレーで2021年まで県予選35連覇を達成した国学院栃木だそうですね。

小倉あれず(以下同) はい。部長を務めていました。毎週末に合宿があるようなすごく厳しい部活で、オフの月曜日も自主練したり整骨院へ行ったり、正月からみんなで地元の太平山に登ったりと休日はほぼなし。髪は伸ばせないし、恋愛はもちろん、遊ぶことも禁止でしたね。


強豪校のバレーボール部で活躍した小倉さん 写真/本人提供

ーーバレーボールの経験がビキニフィットネスにも活きましたか?

 そうかもしれません。情熱的で誰よりも声を出してみんなを引っ張って、時にはスパルタだったけど、個人競技ではその厳しさがすべて自分に向かうようになりました。

ーー高校時代の体型は?

 腹筋は割れてましたし、もともと筋肉はつきやすいほうだったと思います。ただウエイトはたまにやるくらいでした。

【歯科衛生士と両立で多忙な日々】

ーーいつから本格的にトレーニングを始めたんですか?

 それが3年前にトレーニングを始めたら、ジムに住みたいと思うくらい楽しくて、昨日もスクワットを110回やりました(笑)。

 最初の頃は週6日、1日2〜3時間はトレーニングしていましたね。今も、歯科衛生士の仕事をしながら週10時間は鍛えるようにしてます。高校時代から追い込むタイプだったので、この競技は私に合ってたのかもしれません。

ーー毎日がハードそうですね。

 去年9月まで正社員として歯科衛生士の仕事を週5日でやっていたのですが、私は大会前に休みがないとダメなタイプ。でも仕事を休むと周りに迷惑をかけてしまう。

 院長は理解してくれていて「競技に集中してもいいんだよ」と言ってくれてますが、歯科衛生士の仕事は好きだし、手がなまるので、今はアルバイトとして週2日で勤務しています。

ーーではスケジュールにも多少余裕が?

 いえ、今のほうが忙しいですね。今は月曜から木曜の午前まで宇都宮、木曜の午後から日曜日まで東京という二重生活を送っています。

 歯科衛生士の仕事が入ってる日は、朝から夜まで宇都宮の歯医者で働いたあとにパーソナルでお客さんに教えて、夜9時とか10時くらいから自分のトレーニングを始めます。

 他の日もパーソナルトレーニングを教えつつ、自分のトレーニング。東京でも、トレーナーとしての仕事をしていて、週7日で働いてます。睡眠時間は1日4〜5時間くらいですが、全然苦になりません!

ーー体はキツくないですか?

 たまには休まないとよくないので、月1で大好きな沖縄に遊びに行きますよ。母親からどこにいるのかわからないと言われます(笑)。競技をやめるまではこの生活を続けていくつもりです。

【バキバキの秘訣は体に合わせた"謎トレ"】

ーートレーニング2年半で臨んだ「フィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス」(グラチャン)で3位になり、早くも結果を残しました。それはトレーニング時間の長さも要因のひとつ?

 いえ、あえて長くしてるわけではなく、楽しいからいつの間にか時間が経っているというだけで、そこにメリットがあるかどうかはわかりません。

 トレーニング方法でいうと、私は高重量を扱う週と、中重量を扱う週を分けて、筋肥大を狙うのか、筋密度を深めるのかを考えながらボディメイクしていますね。

ーー筋密度?

 筋肉の質のことです。筋肉が大きいだけだと、体を絞った時にカット(浮き上がった筋線維)がなく、皮膚感が筋張らないんです。すると、印象として"バキバキッ"というよりも"モワモワ〜"って感じになっちゃう。

 筋密度があると絞った時にバキッとなるので、筋肉を大きくする週とバキッとさせる週で分ける必要があるんです。

ーー種目で工夫することは?

 人それぞれ骨格が違うのだから、種目に関してもやっていることのベースはみんなと同じだとしても、少しずつフォームを変えますね。

 たとえば、私は側弯症(背骨が左右に曲がっている状態)なので、スクワットではあまり高負荷をかけず、両太ももにゴムバンドを巻いて、しゃがむ時に膝が内側に入らないようにする。

 すると、なんだかお尻にすごく効く感じがするんです。こういう、"謎トレ"をいっぱい編み出していろいろ試してます。

ーー自分流にトレーニングをマイナーチェンジする。

 やっぱりトレーニングで一番大事なことは自分の体を知ることだと思います。バレー選手の時は気にしなかったけど、トレーニングをするようになって、自分の特性にも気がつけました。

【世界の舞台で感じた自分の可能性】

ーー小倉さんはお父さんがイラン人だそうですね。

 はい。宇都宮でトルコ料理居酒屋「しゃらく」ってお店をやってます。おいしいので、宇都宮に来たらぜひお立ち寄りください! 以上、宣伝でした(笑)。

ーー(笑)。骨格が日本人と違うと感じることは?

 それまで意識したことはなかったのですが、大会で審査員の方から「骨格が日本人選手とは違って異質に見えるから、どう評価していいかわからない」と言われたことがありました。

 それからあえて日本人に寄せるポージングに変えました。それと同時に、世界を舞台にした大会ならもっと私は羽ばたけるかもしれない、と思いました。

ーーおっしゃるとおり、昨年の国際大会「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ」で日本人選手最高位の4位を獲得しました。

 ポージング練習のために、去年は世界で一番ヒールを履いたという自負があります。1時間ごとに先生を変えて、1日7〜8時間、長い時には10時間履いた日もありました。足の皮もめちゃくちゃむけました(笑)。


写真/本人提供

ーーつらくはないですか?

 ポージングしてる時間が唯一の癒しってくらい大好きだから大丈夫です!(笑) ポージングによって体の弱い部分を消せるし、いいところをより強調できる。やればやるだけ自信がつくという面もあります。

ーー得意なポーズは?

 私はウエストの幅が広くて薄いタイプなので、サイドポーズの見栄えがいいと思います。呼吸でウエストラインはいくらでも締められるので。

 それと人よりも脚が長いからフロントポーズの時に脚が細く見えてしまう。だから、脚の幅を狭くして立って、脚の間の空間が大きくならないようにしたり、自信が満ちている印象にするために、あごの角度を10度くらい上げて斜め下を見たりもします。

 そんなふうに、審査員はひとりじゃないから、いろんな角度から撮ってどこから見ても美しいポーズになるよう研究してますね。

ーー奥が深い。あらためてビキニフィットネスの魅力を教えてください。

 ビキニフィットネスは、ロールモデルがバービー人形らしいです。つまり、ビキニは体の締まり具合だけでなく、髪の毛のツヤ、表情、メイク、視線、肌のツヤも審査されるから、日ごろから仕草一つひとつに気をつけるようになりますし、美意識が高まります。

 筋肉バキバキで男性からすると女性らしく見えないかもしれないけど、生で見たら考え方が変わると思うので、ぜひ一度ステージを見に来てほしいです!

ーー後編では小倉さんも苦労しているという、フィットネスアスリートの減量事情について聞きます。

6月22日公開予定:後編<コンプレックスだった「太い脚」「大きいお尻」が武器に変わった ガリガリ体型に憧れた小倉あれずがトップビキニ選手になるまで>を読む

取材協力/ゴールドジムスパレア宇都宮

【プロフィール】
小倉あれず おぐら・あれず 
1997年、栃木県生まれ。ビキニフィットネスアスリート。学生時代はバレーボールに取り組み、強豪・国学院栃木高では部長としてチームを引っ張り春高バレーに出場。2021年から本格的にトレーニングを始め、2023年の「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」ビキニフィットネス158センチ以下級で2位、同年の階級無差別の「フィットネス ジャパン グランド チャンピオンシップス」では3位となり大躍進。スペインで開催された国際大会「アーノルド・クラシック・ヨーロッパ2023」ビキニフィットネス158センチ以下級では日本人最高位の4位に輝いた。