ユーロ2024でフランスとオランダが激突 エムバペ、ガクポの両チーム左サイドのエースがカギ
フランス、イングランド、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オランダ、イタリア、ベルギー。ユーロ2024の8強と目されるチームだが、グループリーグは6組なので、うまく収まることができない。スペインとイタリア(グループB)、フランスとオランダ(グループD)は、それぞれグループリーグで直接競い合う関係にある。
現地時間6月21日(日本時間22日4時〜)にライプツィヒで行なわれるグループDのオランダ対フランスは、ブックメーカー各社の優勝予想では6番人気対1番人気に相当する。フランス有利と見立てている。そのなかの1社であるウィリアムヒル社がこの直接対決につけた予想オッズは、オランダ勝利3.25倍、フランス勝利2.30倍、引き分け3倍だ。接戦度ではスペイン対イタリアをしのぐ、グループリーグ屈指の好カードと踏んでいる。見逃しは禁物である。
両チームとも初戦を無事に白星で飾っている。フランスはオーストリアを1−0で下し、オランダはポーランドに2−1で逆転勝ちしている。したがって、お互いにとってこの試合は、絶対に負けられない戦いではない。のびのびと戦うことができる一戦だ。撃ち合い必至と言いたくなる。
心配の種を抱えるのはフランス。オーストリア戦の終盤、キリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン/PSG→レアル・マドリード)が空中戦で顔面を強打。鼻骨骨折と診断された。フェイスガードを着用してプレーする見込みと伝えられるが、その影響がどれほど出るか。
オーストリア戦で鼻骨を骨折したキリアン・エムバペ(フランス) photo by Reuters/AFLO
エムバペの存在はフランスの強みそのものになる。ポジションは4−2−3−1の3の左なのか、1トップなのか、微妙だ。オーストリア戦では相手ボールになると真ん中で構え、マイボールになると左ウイングに移動。それぞれの局面において、センターフォワードタイプのマルクス・テュラム(インテル)とポジションをきれいに入れ替わった。
右のウイング、ウスマン・デンベレ(PSG)、1トップ下アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)の4人で組むアタッカー陣は、イングランド代表で1戦目に先発した前線4人、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)、ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)、ブカヨ・サカ(アーセナル)、ハリー・ケイン(バイエルン)より、総合力で上回ると見る。
【視界良好とは言えないオランダ】エムバペの適性は真ん中より左。移籍先のレアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールとキャラは完全に被る。それぞれはどうポジションを分け合うのか。そんな目で見ていたオーストリア戦の前半38分のことだった。
右ウイングの位置でボールを受けると、対峙するマーカー、フィリップ・ムウェネ(マインツ)をまたぎのフェイントで幻惑すると縦突破に成功。マイナスの折り返しを決めると、マクシミリアン・ウーバー(リーズ)のオウンゴールを誘った。切れ味満点のドリブルを、左のみならず右でも披露した。驚いた相手のセンターバック(CB)がボールを誤って自軍の枠内に流し込んでしまうのも当然か。
しかしフランスが奪った得点は、この1点に終わった。ラルフ・ラングニック監督率いる相手のオーストリアがそれなりの好チームだったからだ。高い位置からプレスを掛ける積極的なサッカーでフランスを苦しめた。CBダビド・アラバ(レアル・マドリード)という守備の要が故障していなければ、あるいはオウンゴールはなかったかもしれない。
一方のオランダは、ポーランドに対し、逆転勝ちを収めている。前半16分、CKから相手FWアダム・ブクサ(アンタルヤスポル)にヘッドで先制される苦しい展開になったが、前半29分、ナタン・アケ(マンチェスター・シティ)のパスをコーディ・ガクポ(リバプール)が蹴り込み同点とする。1−1の時間が長く続いたが、後半38分、交代で入ったワウト・ウェクホルスト(ホッフェンハイム)がアケのパスを蹴り込み、終盤で逆転に成功した。
ロベルト・レバンドフスキ(バルセロナ)をケガで欠き、5バックで守りを固めてきたポーランドに対しての苦戦。フランス戦に向けて、必ずしも視界良好、万全な体制にあるとは言えない。
問題が見え隠れしたのは4−2−3−1の右サイドだった。マイボールに転じると、デンゼル・ダンフリース(インテル)が高い位置で構えようとする半3バック的布陣である。それと同時に、右ウイングのシャビ・シモンズ(ライプツィヒ)が内に入る。右のサイドアタッカーはその瞬間、ダンフリースひとりになる。
【見逃せない両サイドの攻防】ダンフリースは推進力、ボールの運搬力という点で欧州屈指の右サイドバック(SB)だ。所属のインテルではウイングバックとしてもプレーする。前方にウイングが構えていなくても単独で右サイドをカバーする力がある。ポーランドがサイドアタッカー各1人の5バックで臨んできたことも幸いした。右ウイングのシモンズが内寄りに構えても、守備面では大きな心配はなかった。
だが、攻撃面になるとシモンズは居場所を失った。中途半端なポジション取りになった。左ウイングのガクポが圧倒的なプレーを見せていただけに、その左右非対称ぶりは目に余った。後半17分、シモンズに代わりドニエル・マレン(ドルトムント)が、さらに後半36分、戦術的交代でジェレミー・フリンポン(レバークーゼン)が右ウイングに入ると問題は解消されたが、次戦のフランス戦はどうするのか。
シモンズのポジション取りを見て連想したのはイタリアの左ウイング、ロレンツォ・ペッレグリーニ(ローマ)だ。マイボールに転じると内側に入る点で、オランダの右ウイングと共通する。片側のSBを極端に上げる半3バック的なスタイルもそっくりだ。ちなみにシリアと戦った先日の日本代表も同種のサッカーだった。
そのイタリアについて、筆者は、ラミン・ヤマル(バルセロナ)という強力な右ウイングを擁するスペイン戦ではその左右非対称が穴になる可能性があると述べたが、フランスと対戦するオランダにもまったく同じ心配がある。エムバペという強烈な左ウイングに対し、現状の備えでは危ない。エムバペを下支えする左SBテオ・エルナンデス(ミラン)の、頭脳優秀なプレーぶりも見逃すことはできない。
オランダの右はダンフリースひとりで大丈夫か。ロナルド・クーマン監督はポーランド戦同様、3バックと4バックを調整する可変式で臨むのか。あるいは違う方法論を選択するのか。
逆にフランスは、オランダの左ウイング、ガクポをどう止めるかがカギになる。身長193センチのガクポは、「長身選手はボール操作がうまくない」という概念があるが、ガクポは今大会の参加選手のなかでも、一番の例外である。
いずれにしても両サイドの攻防から目は離せない。日本代表にとっても貴重なサンプルとなる試合になるだろう。