スペイン、イタリア、クロアチア、アルバニアが同居するユーロ2024のグループBは、勝ち抜けが最も厳しそうな"死の組"と呼ばれる。6月20日(日本時間21日4時〜)はスペインとイタリアが激突する。

 グループの3位チームがベスト16入りするためには、6チーム存在する3位チームのなかで、上位4チームに入らなくてはならない。そのためにまずほしいのは1勝だ。スペイン、イタリア、クロアチアにとっては、1ランク力が落ちるアルバニアは、絶対に勝っておきたい相手になる。


クロアチア戦で鮮烈なユーロデビューを果たしたラミン・ヤマル(スペイン) photo by AP/AFLO

 理想は大差での勝利だろう。ところが初戦でアルバニアと対戦したイタリアは開始22秒、左SBフェデリコ・ディマルコ(インテル)のスローインのミスから、呆気なく先制弾を許してしまう。前途多難が予想された。

 今大会のイタリアの立ち位置は、ブックメーカー各社の予想に基づけばフランス、イングランド、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オランダに続く7番手だ。前回は決勝でイングランドを延長PK戦で下し、優勝を飾っているディフェンディングチャンピオン。ただしW杯では過去2大会(2018年ロシア、2022年カタール)、欧州予選で消えている。2014年ブラジル大会、2010年年南アフリカ大会も、本大会には出場したものの、グループリーグ敗退に終わった。

 一方、ユーロでは前回大会の優勝に加え、2016年大会はベスト8、2012大会準優勝と、上々の成績を収めている、W杯はサッパリだがユーロとの相性は悪くない。W杯での不振をユーロでなんとか補っている恰好だ。

 一方、欧州カップ戦の戦績をもとにはじき出されるUEFAのリーグ別ランキングでは今年、スペインを25年ぶりに抜き、イングランドに次ぐ2位に上昇。クラブチームの成績は上向いている。アルバニア戦に臨んだイタリア代表のスタメンは、以下のようにそのセリエA勢が9人を占めた(カッコ内の所属は2023−24シーズン)。

 GK/ジャンルイジ・ドンナルンマ(パリ・サンジェルマン)、左SB/フェデリコ・ディマルコ(インテル)、CB/リッカルド・カラフィオーリ(ボローニャ)、アレッサンドロ・バストーニ(インテル)、右SB/ジョバンニ・ディ・ロレンツォ(ナポリ)、アンカー/ジョルジーニョ(アーセナル)、インサイドハーフ/ニコロ・バレッラ(インテル)、ダビデ・フラッテージ(インテル)、左ウイング/ロレンツォ・ペッレグリーニ(ローマ)、CF/ジャンルカ・スカマッタ(アタランタ)、右ウイング/フェデリコ・キエーザ(ユベントス)。

【イタリアは左ウイング不在の4−3−3】

 イタリアの4−3−3が左右非対称な並びであることは、パッと見ただけで明らかになった。マイボールに転じると、ディマルコが高い位置を取り3バック然となる。その分、左ウイングのペッレグリーニが内に入り、事実上のトップ下として構えた。ペッレグリーニは所属クラブであるローマでも、真ん中でプレーする機会が断然多い選手だ。典型的なウインガーではまったくない。

 左ウイング不在の4−3−3。これがイタリアの事実上の布陣だ。この傾向は、ペッレグリーニがベンチに下がった後半32分以降も続いた。それまでインサイドハーフのバレッラがその役を引き継ぎ、最終盤にバレッラと交代で投入されたマイケル・フォロルンショ(ヴェローナ)も、前任のふたりと同様の役割を果たしていた。

 このルチアーノ・スパレッティ監督の特異な作戦に、アルバニアはまるでつけ込むことができなかった。前半11分、CKからバストーニにヘディングで同点弾を許すと、その5分後にはバレッラに逆転弾を浴びた。

 しかし、イタリアはこの2点で打ち止めとなった。B組で最弱と目されるアルバニア相手に最少得点差でしか勝利を収めることができなかった。苦戦の最大の原因がこの変速システムにあるとまで言うつもりはないが、キエーザのウイングプレーが光った右と比較すると、左サイドからの攻めは見劣りした。

 次のスペイン戦にこのサッカーで臨むと危ないとは率直な感想だ。イタリアの左は、スペインのストロングポイントである右と対峙する関係にあるからだ。

 イタリアの左対スペインの右。イタリアはスペインの右サイドからの攻撃をどう封じるか。見どころはここになる。

 スペインが初戦を戦った相手はクロアチアで、結果は3−0だった。これでスペインは、アルバニア相手に1点差勝ちに終わったイタリアより楽な立ち位置となった。もはやグループリーグは通過したも同然と言っても言い過ぎではないだろう。

【カギを握る右ウイングのヤマル】

 クロアチア戦のスタメンに名を連ねた11人は以下のとおり。

 GK/ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)、左SB/マルク・ククレジャ(チェルシー)、CB/ロビン・ル・ノルマン(レアル・ソシエダ)、ナチョ(レアル・マドリード)、右SB/ダニエル・カルバハル(レアル・マドリード)、アンカー/ロドリ(マンチェスター・シティ)、インサイドハーフ/ペドリ(バルセロナ)、ファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)、左ウイング/ニコ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)、CF/アルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリード)、右ウイング/ラミン・ヤマル(バルセロナ)。

 マンオブザマッチを挙げるならGKのシモンだろう。クロアチアのMFマテオ・コバチッチ(マンチェスター・シティ)の狙いすましたシュートを好セーブで阻止するなど、完封劇に貢献。3−2でもおかしくない試合を3−0で終えた立役者になる。

 次は1ゴール、1アシストの活躍を演じた左利きのMFファビアン・ルイス。前半29分、モラタに出したスルーパスといい、その3分後に、懐の深さを生かした大きな切り返しからネットを揺るがした2点目のゴールといい、スペインのMFらしい高級感溢れるプレーだった。

 その傍らでプレーしたペドリも、他国の選手とはひと味違う高級なプレーを幾度か披露したが、それ以上に目を引いたのは16歳の右ウイング、ヤマルだった。イタリア戦のカギを握るスペインのストロングポイントである。

 今大会を彩る左利きの右ウイングといえば、ブカヨ・サカ(イングランド)、ウスマン・デンベレ(フランス)、レロイ・サネ(ドイツ)、ベルナルド・シウバ(ポルトガル)を想起するが、ヤマルもすでにそこに加わる欧州を代表する右ウイングと言っていい。勢い、新鮮さという点では上記の選手らを上回る。

 スペインといえば、やはり連想するのはうまいMFだ。それに比べるとウイングはこれまで人材不足だった。うまい中盤に加え、ウイングにも圧倒的な存在感を発揮する強烈な選手が現れれば鬼に金棒。クロアチアは実際、そのインパクトに圧倒されることになった。

 先述のとおり、イタリアは左のサイドアタッカーはひとりしかいない。そこはヤマルと彼を下支えするカルバハル対ディマルコの関係になる。もちろん、相手ボールに転じれば、ペレグリーニも左サイドのカバーに入るが、ヤマルは速い。その体制に持ち込む前に数的不利を招き、後手を踏む可能性がある。アルバニア戦と同じ戦い方で臨めば、危ない。スパレッティ監督のヤマル対策には注目せずにはいられない。

 スペインは左のニコ・ウィリアムズも速い。スペインの魅力になっているが、こちらのサイドには、イタリアもキエーザという切り札を持つ。サイドを制すものは試合を制す。スペイン対イタリアは、この"格言"が試合展開に大きくかかわりそうな一戦になるだろう。