宝塚記念は「ひと筋縄ではいかない」 激走馬のヒントはレースの歴史のなかに隠されている
過去4年のGI宝塚記念(阪神・芝2200m)は、1、2番人気の馬が勝利を飾っている。ひと昔前は「余力のレース」と言われていたが、近年は「目標とするレース」に変わった、というのがその背景にあるようだ。
要するに、以前はトップホースが集う春のGI戦線で熾烈な争いを重ねてきてもなお、余力を残している馬が結果を出してきた舞台だった。それが昨今では、時代を代表する一線級の馬が春のGI出走レースを絞って、この舞台も春の目標のひとつとして出走するようになった、ということ。その結果、ここ数年は人気の実力馬がその強さを見せつけてきた。
そして、今年のレース(6月23日/京都・芝2200m。※阪神競馬場のスタンド改修工事のため、今年は京都開催)もそうした傾向は変わらず、上位人気馬が強そうだ。
ドウデュース(牡5歳)とジャスティンパレス(牡5歳)。いずれも現在の日本競馬シーンを代表する超A級馬であり、この春はドバイでの海外GIを大目標としつつも、その後はここに照準を合わせてきた。
それゆえ、ともに状態はいいという。関西の競馬専門紙記者によれば、とりわけ1番人気が予想されるドウデュースの出走態勢は「万全」とのこと。昨年末のGI有馬記念(12月24日/中山・芝2500m)での勝利に続いて、秋・春の連続グランプリ制覇の可能性は大いにありそうだ。
そうは言っても、宝塚記念というレースの本質は変わらない。舞台が阪神から京都に替わっても、だ。
2200mという非根幹距離のレースであり、梅雨の時期の荒れた馬場で行なわれること。なおかつ、上半期最後のGIのため、この時期特有の暑さも加わる。馬の調子を維持するのは、決して簡単な季節ではない。
そうした特徴から、宝塚記念は本質的に"ひと筋縄ではいかない"レースだ。ドウデュース、ジャスティンパレスの強さは認めるが、不覚を取っても不思議ではない。
事実、今年も穴馬候補は多士済々。先の専門紙記者はそのなかから、GI天皇賞・春(4月28日/京都・芝3200m)でも2着と善戦し、もともと宝塚記念をこの春の最大目標とするブローザホーン(牡5歳)と、GII2連勝中のうえ、今回の鞍上に名手ダミアン・レーン騎手を確保したシュトルーヴェ(せん5歳)の2頭を有力候補に挙げた。
2頭とも勢いのある"上り馬"で、面白い存在であることは間違いない。だが、このレースの"本質"により迫っていけば、穴馬候補としてもっとふさわしい存在がいる。それは、宝塚記念の歴史をひも解いていくことで浮かび上がってくる。
ひと昔前の話になるが、宝塚記念では、GIでは"脇役"というか、その勲章をなかなか手にできなかった馬たちが躍してきた。ここで、それまでの鬱憤を晴らし、悲願を達成することが多かった。
その代表例を挙げれば、古くは1991年のレースを制したメジロライアンがいる。同馬は前年の牡馬三冠レースで、3着、2着、3着とあと一歩及ばなかった。さらにその後、有馬記念で2着、天皇賞・春も4着と惜敗。「GIでは少し足りない」という評価が定着しかけたところ、GI6戦目となる宝塚記念で見事に戴冠を遂げた。
2001年の勝ち馬メイショウドトウもそうだ。2000年の宝塚記念から、天皇賞・秋(東京・芝2000m)、ジャパンC(東京・芝2400m)、有馬記念、そして2001年の天皇賞・春と、同馬はGI5戦連続2着。すべて、宿敵テイエムオペラオーの後塵を拝した。だが、同馬もGI6戦目にして、ついに"打倒テイエムオペラオー"を果たした。それが、2001年の宝塚記念だった。
2001年の宝塚記念は、メイショウドトウ(赤帽)が宿敵テイエムオペラオ―(青帽)を退けて初の戴冠を遂げた photo by Kyodo News
この2頭ほどドラマチックではないものの、ほかにもマーベラスサンデー(1997年)やダンツフレーム(2002年)、アーネストリー(2011年)、ミッキーロケット(2018年)など、GIタイトルに恵まれなかった馬たちの多くが宝塚記念で激走。悲願のGI初制覇を成し遂げている。
つまり、宝塚記念というのは、GI戦線で勝ちきれなかったり、くすぶっていたりしていた馬たちが"生涯に一度"とも思えるような激走を見せる舞台なのである。その歴史的な事例にならえば、今年も面白そうな馬が2頭いる。
ディープボンド(牡7歳)とソールオリエンス(牡4歳)である。
ディープボンドは、すでにGI参戦15戦を数える。しかし、天皇賞・春で3回、有馬記念で1回と2着は計4回あるものの、一度もGIを勝ったことがない。宝塚記念で"悲願達成"というドラマ性を考えれば、この馬が最も魅力的な存在に映る。
一方、ソールオリエンスは昨年の皐月賞馬。そうなると"悲願達成"というキーワードから外れるが、GI戦線で勝ちきれず、くすぶった状態が続いているという点においては、過去の激走馬に少し似ている。今や「弱い」とされる現4歳世代の象徴のように言われているが、大舞台でリベンジを果たすエネルギーは、この馬にもあるはずだ。
実際のところ、この2頭に激走の可能性はあるのか。先述の専門紙記者の見立ては厳しい。
「ディープボンドは、前走の天皇賞・春がこの春の最大目標。そこで3着と健闘しましたが、このあたりがこの馬の能力の限界でしょう。陣営によれば『馬が元気なので、宝塚記念も使う』とのこと。勝負度合いは低そうです。
ソールオリエンスも、前走のGI大阪杯(3月31日/阪神・芝2000m)がこの春の最大目標でした。同レースで初めてブリンカーを付けましたが、それもそういった意欲の表われでしょう。でも、結果は7着と大敗。常識的には、もはやGIでは厳しいと見たほうがいいでしょう」
それでも"ひと筋縄ではいかない"宝塚記念では、過去に何度も"ミラクル"が起こっている。現に2頭の激走には疑問の目を向ける専門紙記者も、「ソールオリエンスにはわずかなチャンスがあるかも」と言う。
「大阪杯では"ここが勝負"と踏んで、勝ちにいって惨敗を喫しました。その点、今回は適距離よりも少し長く、陣営としては直線だけの競馬を選択するはず。道中はずっと死んだふりをして、直線で力を一気に爆発させる形です。もちろん、流れが向かなければ、再び惨敗する可能性が高いです。でも、もしも流れが向いた場合は、皐月賞の時のように末脚が爆発するかもしれません」
いずれにせよ、ディープボンドも、ソールオリエンスも、荒れた馬場は苦にしない。他馬が気にするようなら、逆にプラス要素となる。しかも、ともに大目標のレースではないうえ、人気もないとなれば、思いきったレースができる。
GIで勝ち負けを演じるだけの実力を秘めた2頭が、上半期最後の大舞台でアッと驚くような走りを見せたとしてもおかしくない。