星野伸之インタビュー 後編

オリックス野手陣について

(前編:オリックス投手陣は主力が軒並み離脱中も明るい兆し 星野伸之が期待を寄せる若手は?>>)

 投手陣同様、故障者や不振の野手が多かったオリックスだが、6月に入って西川龍馬が調子を上げるなど打線につながりが出てきた。星野伸之氏に聞くオリックスの後編では、打線が上向いてきた野手陣のキーマンや、中嶋聡監督の采配について聞いた。


6月に入って調子を上げている西川龍馬 photo by Kyodo News

【「4番・西川」に感じる中嶋監督のメッセージ】

――野手陣は森友哉選手が復帰しましたが、福田周平選手ら、やはり主力選手の離脱が多いですね。

星野伸之(以下:星野) 森は調子が上向いていた時でしたし、福田も今季は状態がよかっただけに痛いですよね。ただ、太田椋に当たりが出てきました。ここ最近は3番を任されることが多いですが、これは大きな収穫です(※6月13日の阪神戦はコンディション不良でベンチ外)。

 どんな球でも関係なく、逆方向に3安打した試合があったのですが、どの打席でもそれを狙っていたように見えましたし、「これは何かを掴んでいるな」と。初球から打ちにいく積極性はなくさずに、引きつけて逆方向に打つ意識が高いので、カウントが追い込まれても余裕を持って見逃せる。当たりがよくなくてもコースヒットを打てていますし、大事な場面で犠牲フライも出ています。

 今までは、なんとなく思いきり振ってヒットになった、アウトになった、三振だった、という感じで、思いきりのよさだけが目立っていましたが、今はほぼ自分のタイミングで打てています。紅林弘太郎もいい感じになってきていますし、何よりも西川龍馬が調子を上げてきたのが大きいです。

――西川選手は4月〜5月の打率が2割台前半と低迷していましたが、6月の打率が.395(6月12日時点)。交流戦では対戦経験豊富なセ・リーグのピッチャー相手にいい打撃を見せています。

星野 (6月5日のDeNA戦から)西川を4番に置いていますが、それは「いい時を思い出してくれ」という、中嶋聡監督のメッセージだと思うんです。セ・リーグでは毎年3割前後をキープしていたバッターですし、そこに賭けたのかなと。本人を呼んで「4番を任せるから頑張れ」と言葉をかけるタイプの監督ではないと思うので、4番に入れることでメッセージを送ったんだろうと僕は思いました。

 3番を打つことが多くなった太田の状態もいいし、5番の紅林も調子が上向いてきた。1番に中川圭太を置いていますし、今の打順はすごくいいと思います。少し前まではヒットを7、8本打っても散発でしたが、打線がつながり始めましたよね。

――西川選手は巨人との3連戦で、3試合連続で初回に先制のタイムリーを放ちました。

星野 当たり始めるとこれだけ嫌なバッターもいませんよね。ヒットゾーンが広い分、手を出して打てなかった時は「そんなコースのボールまで振らなくても......」という印象もありましたが、逆に打ち出すようになると相手ピッチャーは嫌ですよ。ピッチャー目線からすると、ある程度計算して投げているだろうコースをヒットにされるのは、かなりショックが大きいはずです。

 西川が好調で、打線もつながり始めたので投手陣も心強いと思いますし、やはり3連覇しているチームで"勝ち方"は知っているので、他チームにとって怖い存在になるんじゃないですか。交流戦では楽天が走っていますが、それに迫るくらいの勢いも感じられるようになってきたと思います。

――今の打順を維持するのもアリでしょうか。

星野 ある程度のつながりを維持できるのであれば、しばらくは太田・西川・紅林のクリーンナップは固定するのもアリですよね。個々が役割を明確に意識できるようになりますし、打席に入るリズムも打順で違うでしょうから。たとえば、左ピッチャー用の固定オーダーなどを試してもいいかもしれませんしね。

【今後の采配についての期待】

――頓宮裕真選手、杉本裕太郎選手の状態はどう見ていますか?

星野 頓宮はしっかりと逆方向にも打てるようになっていますし、一時期よりはよくなっているかなと。杉本は、バットを折りながらセンター前にヒットを打ったりしていたのですが、それでいいんですよ。それを続けていればいいのですが、調子が悪くなればなるほど完璧を求めたくなるものなんです。僕が現役時代にピッチャーとして感じていたことなのですが、バッターはそういうところがありますから。

「ちょっと芯から外れているな......どうにかしないと」とかね。調子がいい時は、そんなことは全然気にならないのですが、頓宮も杉本も変な当たりを気にしてしまうんじゃないですかね。ふたりとも打撃タイトルを獲るだけの力がある選手なので「こうやったら打てる」というものをもう一度思い出してやってもらいたい。本来であれば7番や8番を打たせるバッターではないですからね。

 それと、オリックスは盗塁が少ない。相手にも「そんなに動いてこない」という認識があると思いますが、それを逆手にとっていくのもいいかと。中嶋監督のタイミングもあると思うので何とも言えませんが、大まかに言うと"動く野球"にシフトする。1度動いておいて、「ついに動いてきたか」と意識づけさせておいてその後は動かない、といったやり方も相手は嫌だと思います。ここまではあまり動かず、フルカウントまで粘って自動的に走る、という感じだったので、あえて若いカウントで動かしてくのも効果的だと思います。

――打線につながりが出てきた上、オリックスらしい駆け引きが見られるようにもなれば、相手チームは嫌でしょうね。

星野 宗佑磨の犠牲フライでサヨナラ勝ちをした(5月31日の)中日戦で、9回裏に先頭の宜保翔がヒットで出塁。「次は確実にバントをさせるだろう」というケースでしたが、バッターは西川だったんです。「西川にバントさせるのか?」という場面でしたが、西川はバントの構えからバットを引いた。結局、バントはさせなかったんです(結果はファーストゴロ)。見ているほうは「そこから引くんだ?」みたいな感じですよね。

 その揺さぶりが影響したかはわかりませんが、一塁ランナーの宜保が盗塁した時に、中日のキャッチャー・木下拓哉が二塁へ悪送球。宜保は三塁まで行き、宗の犠牲フライのお膳立てになったわけですが、そういった"ナカジマジック"がもっと見たいです。

――本来オリックスが得意とする、僅差の試合をモノにしていくために必要なことのひとつでしょうね。

星野 あとは福田や、(マーウィン・)ゴンザレスら今は一軍にいないメンバーがいつ戻ってくるのか。長いシーズンを考えれば絶対に必要な戦力ですし、本来であれば野手の層は厚いんです。成長中の太田や状態が上がってきた西川らも含め、中嶋監督が長いシーズンを通じてどう戦っていくのかに注目したいです。

【プロフィール】

星野伸之(ほしの・のぶゆき)

1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。