「日本代表の3バックは急成長している」 スペインの知将がシリア戦を高く評価
「日本が新たに導入した3バックは、ミャンマー戦から急成長を遂げていた」
スペイン人指導者、ミケル・エチャリはそう言って、日本がシリアを5−0で下したゲームを振り返っている。
「代表で長く戦ってきた選手たちが、それぞれのグループを構成し、システム運用の質を上げたのだろう。日本国内では3−4−2−1と言われるそうだが、個人的には3−2−3−2の編成に近く見える。DFに板倉滉、冨安健洋、MFに遠藤航、田中碧、その前に久保建英、堂安律、さらにトップに南野拓実、上田綺世と、いずれもカタールワールドカップを戦った選手たちが、それぞれグループを作って、システムの核になっている。彼らはどんなシステムにも適応できる。それだけのスキルとインテリジェンスと相互理解がある選手たちだ」
エチャリは監督養成学校の教授を長く務めてきただけに、さまざまなフォーメーションに精通している。その教えを一番強く受け継いでいるのが、マンチェスター・シティのヘッドコーチを務めるフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)と言えるだろうか。フォーメーションは数字だが、それを極めた彼らにとっては、それは数字以上の意味も伴う。
戦術家エチャリが見たシリア戦とは?
シリア戦でゴールを決めた上田綺世と堂安律 photo by Sano Miki
「日本は立ち上がりから優勢だったが、様子を見ているようでもあった。やはり、初めてのシステムということで、経験豊富な選手たちであればこそ、慎重にスペースやタイミングを確認しながらプレーしていた。ミャンマー戦を経験していた左サイドの中村敬斗が、最も精力的に挑んでいる印象だった。
シリアは、『勝たなければ意味がない』(2026年W杯アジア最終予選に進めない)状況だったことで、下がって守っていない。かつてバレンシアやマジョルカで旋風を巻き起こしたアルゼンチン指揮官エクトル・クーペルは、十八番の4−4−2で中盤を制圧しながら、プレッシングからショートカウンターに活路を見出そうとしていたが......。
【「個の力の差も顕著だった」】はっきりと言えば、日本はクーペル・シリアをものともしなかった。次第にプレスをかいくぐる。そうなると、ゴールまで怒濤の勢いだった。
前半14分、左サイドを駆け上がった中村が、マークを外した上田へ絶好のクロス。これを上田はヘディングで豪快に突き刺した。文句のつけられないサイド攻撃からのゴールだった。20分には、久保がドリブルで攻め上がって堂安にラストパス。堂安はふたりに立ち塞がれたが、左足を振りきっている。22分には、久保がゾーンを完璧に破りかけたパスが必死に足を出した相手に当たり、オウンゴールを誘っている。
前半の3−0で、ほぼ試合にケリをつけた。各所で日本は、シリアを個人で上回っていた。選手は戦術システムを運用し、個の力の差も顕著だった」
エチャリはそう言って、ほとんど手放しで称賛している。
「後半、シリアは一縷の望みにかけて攻勢を強めてきた。ハーフタイムに、クーペルが檄を飛ばしたのか。おかげでボールも持てたし、クロスやミドルで脅かしたが、決定機はなかなかつかめなかった。
日本はあえてペースを落とし、無理をしていない。3点をリードし、リスクをかける必要もなかった。試合展開とは別に、CKからの町田浩樹が放ったダイナミックなヘディングシュートは目を引いた。かつての吉田麻也のように、攻撃の際、空中戦が得意なタイプかもしれない。
終盤に入ると、シリアに消耗が見え始め、日本は交代で入った選手が中心になって、明白な戦力差を提示した。74分、鎌田大地のスルーパスに相馬勇紀が抜け出し、PKを誘ったシーンは象徴的だろう。どちらも交代出場だった。
最後は86分、南野拓実が力強くボールを持ち込んで、駄目押しの5点目を決めている。南野は一時不振に陥っていたが、全盛期の輝きを取り戻しつつあるか。やはりゴールに近いところでプレーすると、高い能力を発揮できるアタッカーだ」
エチャリは選手個人の能力を寸評しながら、最後にこう締めくくっている。
「あらためて、長く一緒にプレーしてきた日本人選手たちの能力の高さが示されることになった。ミャンマー戦を振り返ると、守田英正や鎌田もそのひとり。そこに中村が加わってきた印象だろう。
もっとも、ミャンマーもシリアも、そこまで高いレベルの相手とは言えない。フォーメーションの成熟については、これから強い相手と重圧のなかで戦ってこそ試される。守備で脅かされた時、初めて不具合も見えてくるはずだ。
ひとつ言えるのは、どんな相手であっても、無失点で次のステージに行くのは簡単ではない、ということである。シリア戦の日本は、ゴール以外でも崩しのクオリティやバリエーションを披露していた。最終予選に向けても、日本の健闘を祈っている」