6月14日より4年に一度、欧州ナンバーワンの国を決する「UEFA EURO 2024」(ユーロ)がドイツで開幕する。日本での放映・配信が決まって、胸をホッと撫で下ろしたサッカーファンは多かっただろう。開幕直前にようやく日本でもユーロ熱が上がってきたところで、今大会の優勝候補、注目国、注目選手を紹介する。

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ユーロ2024で優勝候補筆頭のフランス photo by Getty Images

【優勝候補筆頭のフランス】

 優勝候補の筆頭に挙げたいのはフランスだ。予選第1節で強豪オランダを4−0で退けると、そのまま7勝1分け、29得点3失点と圧倒的な成績であっさりと本大会出場を決めた。

 キャプテンのキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン→レアル・マドリード)をはじめ、マルクス・テュラム(インテル)、ウスマン・デンベレ(パリ・サンジェルマン)、アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)と前線はもちろん、他の国が羨むほど中盤から最終ラインまで穴がないほどタレントで埋めつくされる布陣は、今大会屈指の戦力だ。

 基本は4−2−3−1のシステムだが、直前のルクセンブルク、カナダとの親善試合で試しているように、メンバーは大きく変えずに守備時は4−4−2、攻撃時に3−2−5となり、引いた相手により攻撃的に出られる形も持っている。

 そのなかで注目はグリーズマン。今回で3大会目、33歳ですっかりベテランとなり、若手が多いチームのなかで欠かせない選手である。守備では献身的なプレスバックで穴を埋め、攻撃では起点となって周りのタレントを巧みに生かしてくれる。攻守にチームを整えるグリーズマンの存在は、レ・ブルーが2000年大会以来となる欧州制覇のための鍵を握る。

【タレント軍団のイングランド】

 タレントではフランスにも引けを取らないのが、イングランドだ。とくに前線は強烈で、トップはバイエルンで今季36点と量産したキャプテンのハリー・ケインが不動だが、その控えにはアストン・ビラで19得点13アシストと大車輪の活躍だった、オリー・ワトキンスがいる。

 トップ下はレアル・マドリードのジュード・ベリンガム、チェルシーで22得点11アシストとブレイクしたコール・パーマーと充実し、当確と見られていたジェームズ・マディソン(トッテナム)がまさかの落選となったほどだ。

 両ウイングはさらに熾烈。右にはブカヨ・サカ(アーセナル)にジャロッド・ボーウェン(ウェストハム)、パーマーも担える。左はアンソニー・ゴードン(ニューカッスル)がいて、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)とエベレチ・エゼ(クリスタル・パレス)は両ウイングとトップ下もできる万能型。これまで代表常連だったジャック・グリーリッシュ(マンチェスター・シティ)やマーカス・ラシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)が落選となる激戦区ぶりとなった。

 ボランチのデクラン・ライス(アーセナル)の相方に誰を据えるかも注目である。正確無比なキックで局面を一変させるトレント・アレクサンダー=アーノルド(リバプール)、ハードワークを惜しまないコナー・ギャラガー(チェルシー)、卓越したテクニックを有する新進気鋭のコビー・メイヌー(マンチェスター・ユナイテッド)と、三者三様の持ち味があり、ガレス・サウスゲート監督を悩ませる。

 懸念材料があるとすれば最終ラインか。とくに左サイドバックはルーク・ショー(マンチェスター・ユナイテッド)が選出されたが、今季終盤はケガでまったくプレーしていない。直前のアイスランドとの親善試合ではキーラン・トリッピアー(ニューカッスル)を左で起用した。

 いずれにしてもタレントの数、年齢や経験値のバランスで言えば屈指の好チームであることは間違いない。前回大会、決勝でPK戦によって敗れたあの時の忘れものを今大会こそ取りに行ける布陣は揃っている。

【開催国ドイツは復調傾向】

 優勝候補には、開催国のドイツも挙げるべきだろう。カタールW杯での失敗から不調が続いていたが、昨年9月に行なわれたフランスとの親善試合に2−1で勝利し、徐々に調子を取り戻してきた。さらに、今年3月に再びフランスと親善試合を行なうと2−0と完勝、続いてオランダにも2−1と連勝し、復活を印象づけた。

 この3月の試合で話題となったのは、トニ・クロース(レアル・マドリード→今大会で現役引退)の代表復帰である。ボランチにクロースが帰ってきたことで、ボールの流れはスムーズになり、フロリアン・ビルツ(レバークーゼン)やジャマル・ムシアラ(バイエルン)といった今大会屈指のタレントがより生きるようになった。

 復調の要因には、レバークーゼンの存在もある。今季、シャビ・アロンソ監督が率いたこのチームは革新的なサッカーで、ブンデスリーガ史上初の無敗優勝という偉業を達成した。

 そのチームで中心であるヨナタン・ター、ロベルト・アンドリッヒ、ビルツが代表でも中心を成すようになった。時間の限られた代表チームでは、こうした同じチームの選手たちがベースとなることで組織が短時間でまとまり、形となっていく。

 それをこれまではバイエルンが担っていたが、レバークーゼン勢が旗手となることでホスト国の準備は整ったと言える。調子を取り戻したドイツが、ホームの後押しを受けて7大会ぶりの優勝を狙う。

【立て直してきた前回王者イタリア、経験豊富なポルトガル】

 注目国では、前回大会王者のイタリアも挙げたい。カタールW杯ではまさかの欧州予選敗退となり、一時代を終えたアズーリは厳しい時期を迎えていた。そこを立て直したのが名将ルチアーノ・スパレッティである。

 今大会の予選ではイングランド、ウクライナと同組になる厳しいグループとなり、開幕から1勝1分1敗と出遅れた。しかし、最終節では勝ち点で並んだウクライナと引き分け、当該チーム間の対戦における勝ち点で上回り、2位となって予選通過を果たした。

 予選を通過してからは、それまでの4−3−3から3−4−2−1のシステムに変更し、今季のスクデットを圧倒的な強さで勝ち取ったインテルの3バックをベースとした。安定した守備からマテオ・レテギ(ジェノア)やフェデリコ・キエーザ(ユベントス)、ジャンルカ・スカマッカ(アタランタ)ら前線のタレントをスパレッティがどのように生かすかは見ものである。

 グループBはスペイン、クロアチアと同組のいわゆる"死のグループ"。予選での死線をくぐり抜けたアズーリが、この難グループをどのように戦い抜くのか注目だ。

 最後に挙げるのが、こちらもタレント豊富なポルトガル。予選を10戦全勝36得点2失点と圧巻の成績で通過。その予選で10得点と相変わらずの得点力を見せつけたのがクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)だ。6大会目となる大エースもさすがに今大会が最後になるだろう。それは41歳のDFペペ(ポルト)も同様である。

 そんな重鎮ふたりを充実の経験豊富なベテラン、あるいは中堅選手たちが囲む。前線だけでもディオゴ・ジョタ(リバプール)、ベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)、ジョアン・フェリックス(バルセロナ)、ラファエル・レオン(ミラン)など、各ポジションにトップ選手をずらりと揃える。

 中盤もブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)、ジョアン・パリーリャ(フラム)、ルベン・ネベス(アル・ヒラル)、ヴィティーニャ(パリ・サンジェルマン)とクオリティある実力者に加え、ジョアン・ネベス(ベンフィカ)と楽しみな若手もいる。これだけのタレント集団を知略家のロベルト・マルティネス監督が操るチームの破壊力は、予選でこれでもかと見せつけた。2016年大会以来、2度目の優勝を狙うに十分な戦力とタイミングだろう。

【ブレイクが期待される若手は?】

 国としては挙げられなかったが、個人としてブレイクが期待される若手選手も紹介したい。

 まずはスペインのラミン・ヤマル(バルセロナ)。まだ16歳ながらドリブルのクオリティ、破壊力は、スペインの勝敗を握るレベルにある。バルセロナがデンベレの移籍によって少しも困らなかったのは、彼の台頭があったからだ。今大会がヤマルの大会となる可能性も十分にあるほどのポテンシャルを秘める。

 オランダのジェレミー・フリンポンとシャビ・シモンズも注目だ。前者は無敗優勝のレバークーゼンで今季9得点5アシストとブレイク。その突破力と得点力はサイドバックというより、もはやウイングだ。6月のカナダとの親善試合ではウイングで起用され、1ゴールを決めている。今オフ人気銘柄のひとりである。

 シャビ・シモンズは、今季ライプツィヒでプレー。ハードなチームスタイルのなかで、クリエイティブなドリブルやパスでチャンスを生み出す、ボールプレーヤーだ。攻撃のタレントが豊富なオランダのなかでもそのテクニックは異彩を放っている。

 ベルギーのジェレミー・ドクは今季、マンチェスター・シティに加入し、左ウイングで崩しの一手を担いブレイクした。卓越したアジリティとドリブルスキルは、プレミアリーグを席巻し、局面打開では手がつけられなかった。今大会でもそのドリブルで、大会の主役のひとりとなれるか注目だ。

 最後はトルコの19歳、アルダ・ギュレル。今季、レアル・マドリードに鳴り物入りで加入するも、ケガによってシーズンの多くを棒に振ってしまった。しかし、その実力は本物だ。左足から繰り出されるパスやドリブルは創造性に溢れ、局面を一気に変える力を備える。初の大舞台でその片鱗を見せることができるか。

 どの国が欧州の覇権を手にするかはもちろんのこと、ユーロをきっかけにネクストスターの誕生や最新の戦術のトレンドのぶつかり合いなど、サッカー界の新たな潮流を目の当たりにできるのもこの大会の醍醐味である。ぜひ、さまざまな視点で今大会を楽しんでもらいたい。

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