「幕張の防波堤」小林雅英がパ・リーグのリリーフ陣を査定 S評価の球団、個人的に気になる投手は?
今季のパ・リーグは投高打低の傾向があり、ロースコアゲームでの試合が目立つ。その点から、シーズン中盤から後半にかけて重要にとなってくるのは、リリーフ陣という見方もできそうだ。パ・リーグの各チームの救援陣は、識者の目にはどう映っているのか。現役時代にロッテで200セーブを達成した名クローザー、小林雅英氏にS〜C段階で評価してもたった。
小林氏は「気になる投手」にオリックスの古田島成龍(左)、ソフトバンクの杉山一樹(右)らを挙げた photo by Sankei Visual
【ソフトバンク 評価S】
頭ひとつ抜けているのはソフトバンクでしょうね。これは数字(救援防御率2.13。6月12日時点)にも表れていますし、何よりその内容がいい。端的に言うと、「強いボールが投げられて、コントロールがいい投手が多い」ということです。
松本裕樹、藤井皓哉、津森宥紀と、中心となる3投手は非常に高いレベルで安定しています。彼らが軸になって、後ろには(ロベルト・)オスナが控えている。オスナは開幕直後は少しバタつきましたが、最近は安定してきた。「左で一枚欲しい」という編成上の課題はありますが、個々の能力、安定感という意味でもリーグ随一であることは間違いないですね。
今季注目していたのは、(リバン・)モイネロが先発に転向する穴をどう埋めるのか、ということでした。シーズン前は「途中で(リリーフに)戻すんだろう」と思っていましたが、その必要がないくらいほかの投手が充実していますね。左腕では(ダーウィンゾン・)ヘルナンデスが出てきましたが、右左関係なく投げ込める投手が多いのが強みになっています。
個人的に、杉山一樹がここまでの影のMVP。いろんな役割、いろんな状況で投げることが多いなか、いいパフォーマンスを継続できているのは素晴らしいです。彼はおそらく、テンションの上げ方がうまい。「ここでいくよ」と告げられたあと、流れたりすることが何度か続くと気持ちのコントロールが難しいのですが、気持ちを保つ能力が高いと見ています。モイネロの代わりとまでは言えなくとも、それに近い活躍をして、チームにとっては本当に有り難い投手になった。彼の存在が、投手陣にいい刺激を与えているのではないでしょうか。
【日本ハム 評価B+】
日本ハムはなかなかメンバーを固定できていない印象です。特に後ろ。クローザーは田中正義が頑張っていましたが、今は少し持ち場を離れました。以降、いろんな投手を試していますね。
そんな苦しい事情のなかでなんとかやり繰りしつつ、「ある程度できている」という感じで、マネジメント面でうまく回せているとは思います。ひとり、ふたりでも頼れる投手が出てきたら後ろが固まって、よりチーム力は上がるのでしょうが。日本ハムの場合は、河野竜生、(パトリック・)マーフィーの両投手が中心的な存在。杉浦稔大も頑張っていて、活躍が目立ちます。左に河野という柱がいるのはリリーフ陣の強みでしょう。
個人的に期待しているのは、(アニュラス・)ザバラ。交流戦くらいからの合流で登板機会は少ないですが、いいパフォーマンスを見せています。三振が取れて、160キロを投げられる。彼がどこに収まるのか。8回なのか、もしかしたらクローザーも......というポテンシャルを秘めています。これからクイックや癖を研究されるでしょうが、マーフィーなど日本の野球を知る選手がいることは、彼にとってプラスになると思います。
【ロッテ 評価B+】
ロッテも益田直也が序盤に苦しんで、「クローザーをどうするのか」は悩ましかった。ただ、益田が安定してきてから、チームの成績も向上してきたように、しばらくはこの体制でいくと思います。
今年は鈴木昭汰が素晴らしい活躍をしていて、彼の使い方がどうなるかには注目しています。私がコーチをやっている時に鈴木が入団してきたんですが、当初からボールの強さには目を見張るものがありました。ただ、コントロールが不安定でカウントを悪くして痛打されたり、四球でランナーを貯めたり、というパターンが多かった。それが今年は、自信を持ってボールを投げ込めていますから、成長が感じられます。
そして、7回を投げる投手の安定ですね。澤田圭佑、国吉佑樹、澤村拓一ら、強いボールがある投手はいるんですが、制球面で不安があることも確かです。個人的には廣畑敦也、八木彬あたりが出てきてきたら厚みが出るな、と期待しています。
【楽天 評価A+】
内容だけ見ると、楽天も素晴らしいですよね。7、8、9回と後ろの3イニングを「この投手でいく」というローテーションがしっかり決まっているのはやはり強みです。
今年は松井裕樹(パドレス)が抜けて、「どう後ろを回すのかな」と見ていましたが、則本昂大がハマって遜色ない活躍をしている。彼に繋げる前には8回に宋家豪がいて、7回には酒居知史、鈴木翔天などが控えている。6、7回をこのふたりで、右と左など打順の並びを見て使い分けができるので、コーチ視点でもすごくマネジメントしやすい面子が揃っている。加えて、藤平尚真もいい活躍をしていますからね。ソフトバンクと比べても大きな差はないと思いますが、現状の順位を踏まえてA+という評価としました。
【オリックス 評価C】
私のなかで一番驚いたのがオリックスですね。山粼颯一郎、宇田川優希という軸が苦しんでいるのもありますが、わずか一年でこれだけ面子が変わることは珍しい。それでも力がある投手が次々と出てくるのがすごさではあるのですが......。球団のスカウティングがすごいですね。
個人的には、社会人野球出身の古田島成龍が気になる存在です。今、僕は社会人野球のコーチをしているので(エイジェック硬式野球部)、社会人のいい投手もわかるんですが、実は彼のことは知らなかったんです。NPBで彼を見て、「本当にいい投手だな」と。今の時代、あれだけ感情むき出しにして投げる投手はほとんどいない。中日の藤嶋健人の若い時もそうでしたが、ああいう投手は好きなんです(笑)。「久しぶりにこういう投手を見たな」と思いました。
古田島にも同じ"匂い"を感じました。社会人出身の中継ぎ投手で、これだけ活きのいい投手は久しぶりな気がします。(日本製鉄鹿島からプロに入った)ソフトバンクの大津亮介が今年は先発に回り、リリーフ面でタイトル争いをする社会人出身のピッチャーが減ってしまった。そういう意味でも、古田島、郄島泰都の両投手には注目しています。
ただ、右投手はたくさんいるんですが、左投手が機能していない点はマイナスですね。今後もこれだけ変わったメンバーをどう組み立てていくのか、非常に興味があります。
【西武 評価C】
クローザーの(アルバート・)アブレイユが4敗していますが、難しい状況で投げていることが多いですからね。来日1年目ということ、緊急登板の多さなどを考えると、まだ目をつむれる範囲だとは思います。
左の佐藤隼輔がいいパフォーマンスを継続しており、今の西武にとってこのふたりは貴重な戦力で、中心となるべき存在です。本田圭佑、水上由伸、松本航が後ろで起用されたりと、投げている面子は多いですが、やはり固定はできていない。
また、昨年との最大の違いは、甲斐野央が投げられていないことでしょう。昨年の甲斐野は本当に素晴らしいパフォーマンスを見せていましたから。あの球速と勢いがある投手が一枚いないだけで、後ろのマネジメントはまったく変わってきます。そこに苦労している感じですね。あとは、経験ある投手が盛り返してくるとラクになる。残りのシーズンは、ベテランの意地に注目したいです。
(プロフィール)
■小林雅英(こばやし・まさひで)
1974年、山梨県生まれ。都留高から日本体育大、東京ガスを経て、1998年のドラフトでロッテから1位指名を受け入団。1年目は先発としても起用され、46試合の登板で5勝をマーク。3年目の2001年からクローザーとなり、2007年まで毎年20セーブ以上を挙げるなど活躍。「幕張の防波堤」の異名をとった。2008年からMLBのクリーブランド・インディアンスに移籍。主に中継ぎとして57試合に登板。翌年も残留となったが、シーズン途中に契約解除。同年オフに巨人と契約するも1年で戦力外となり、オリックスへ移籍。ここでも結果を残せず、2011年限りで現役を引退。引退後はオリックス、ロッテでコーチを務め、現在はプロ野球評論家として活躍。