谷口彰悟が先輩・小林悠を「かなり面倒くさい」と言った理由 キャプテンとして「饒舌じゃない。でも魂が込められていた」
【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第19回>
◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第18回>>大久保嘉人のすごさ「先にボールに触れるのには明確な理由があった」
谷口彰悟はプロ生活をスタートさせた2014年からアル・ラーヤンSCに完全移籍した2022年末までの9年間で、リーグ戦合計20ゴールを決めている。2023年6月には豊田スタジアムで行なわれたエルサルバドル戦で、代表初ゴールも決めた。
「ディフェンダーであっても、常にゴールを決めたい」。谷口がそう語るのは、フロンターレで偉大なストライカーたちと出会ってきた影響も大きいだろう。そのひとりが、小林悠だ。
キャプテンとしての背中も見てきた谷口は、自身より4歳年上のストライカーから何を学んできたのか。
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小林悠(左)と谷口彰悟(右)は9年間ともにプレー photo by Getty Images
カタール・スターズリーグも残り2試合となっていた4月25日、ホームでアル・アハリと対戦した試合で、僕は今季初ゴールを決めた。23分、CKからのクロスにヘディングで合わせて先制点を奪った。
セットプレーでの得点は、感触的に近づいているという感覚はあっただけに、なかなか結果に結びつかないことに悔しさがあった。アル・アハリ戦のゴールはキッカーとのタイミングも合い、自分でもなかなかあれだけ高い位置からボールを捉えられる機会はなかったため、正直、気持ちよかった。
DFであっても、セットプレーでは常にゴールを決めたいと思っている。それだけに結果に表れない時期が続くと、少なからず焦りや迷いにもつながっていく。ひとつゴールを決めるだけで、精神的な余裕や自信の変化にもつながるため、来季はシーズンの序盤にそのハードルをクリアしたいと思う。
今まで出会ってきた選手たちのなかで、ゴールへの意欲、貪欲さで群を抜いていたのは、川崎フロンターレの小林悠さんだろう。前回の記事(連載:第18回)で触れた大久保嘉人さんとともに、センターバックとしての僕を高みへと導いてくれた、偉大な先輩のひとりだ。
【最後まで「死なない選手」だった】悠さんは、DFの逆を取る動きがとにかく秀逸だった。マークに行くこちらが食いつきすぎると、そのタイミングでサラッと逆を取られてしまう。練習ではやはり悠さんを相手に守る機会もあり、その駆け引きには常に頭を使わされた印象が残っている。
DFの背後を突く動き、DFとの駆け引きを制する能力は本当にトップレベルだったが、それ以上に対戦相手として見た時に嫌だったのは、「俺が点を取る」というメンタル的な強さだった。ゴールへの姿勢とでも言えばいいのか、欲とでも言えばいいのか。あの気迫は、本当にチームメイトでよかったと何度思ったことか。
正直、練習相手としても、すごく、いや、かなり面倒くさかった(笑)。
悠さんは、練習でも絶対に手を抜かない人だった。この表現が正しいかどうかはわからないが、試合中も練習中も、最後まで「死なない選手」だった。
たとえばだが、CBは試合中に相手があきらめたことや、スイッチが切れたのがわかる時がある。激しい競り合い、しのぎ合いを続けた結果、相手の心が折れた瞬間がわかるだけに、CBはFWをそういう精神状況に追い込もうとする。
しかし、悠さんの場合は、こちらがうまくボールを奪ったり、うまく守りきったりすると、その状況に闘志を燃やしてくるのがわかる。
どんなに激しくいっても、どんなにうまく対応しても、心が折れた様子はなく、止めれば止めるほどに力を発揮してくるストライカーだった。10本の練習で9本を止めたとしても、最後の1本でゴールを狙っている選手だった。小林悠とは、それくらい最後の最後まで、あきらめない人だった。
だから練習で、こちらがガツンと厳しくいこうものならば、何倍もの力で跳ね返ってくるような感覚だった。「死なない選手」と表現したのは、そんな理由からだ。
練習では守るこちらも高い集中力を問われるため、悠さんとのマッチアップは楽しく、一緒に練習したその日々が、CBとしての力を引き上げてくれたように感じている。また、練習中であっても、最後の最後まで全力を尽くすその姿勢が、当時の川崎フロンターレを戦える集団へと押し上げてくれていたようにも思う。
【中村憲剛とは違ったアプローチで牽引】また、悠さんにはCBとして鍛えられただけでなく、キャプテンシーも学んだ。2020年にフロンターレのキャプテンを任された時、思い浮かんだのは前キャプテンである悠さんのリーダーシップだった。
苦しい時も、うまくいかない時も、常にチームの先頭に立って引っ張っていく姿は自分も大いに学んだし、そうあろうと行動した。
キャプテンシーについては悠さんのほかに、中村憲剛さんからも数えきれないほどの学びを得たが、憲剛さんの考え方やチームに対するアプローチは、自分も似ていると言ったらおこがましいが、共感・共通するところが多々あった。一方、悠さんは自分とは異なるリーダーシップでチームを導ける人だったからこそ、学ぶところは多かった。
ストライカーというポジションも手伝ってか、悠さんはキャプテンとしても勝利に対して貪欲で、チームメイトに対してもいつもストレートに気持ちをぶつけていた。鬼木達監督もそうだったが、その気持ちや発言に嘘がないため、周りを巻き込める、引き込む求心力があった。
後輩である僕が言ったら怒られるかもしれないが、悠さんは決してボキャブラリーが豊富なわけでもなければ、饒舌なわけでもない。もちろん、伝える内容や言葉の伝え方は考えて発信していたとは思うが、気持ちをストレートに表した言葉には、いつも魂が込められていて、こちらに思いが伝わる熱量があった。
悠さんのそのリーダーシップに僕は学び、刺激を受け、自分がキャプテンを任されてからも、取りつくろった言葉で話すのではなく、その時、心から出てきた言葉を大切にして、考えや気持ち、思いを伝えるようになった。
191得点をマークした嘉人さんがJ1歴代最多得点者ならば、悠さんはサンフレッチェ広島戦(J1第10節/2024年4月28日)でゴールを決めて、J1通算140得点で歴代7位に浮上したと聞いた。それにより、あのカズさん(三浦知良)の記録を越えたように、これからもギラギラとした目でゴールを決め続け、記録を更新してくれることを期待せずにはいられない。
Jリーグの歴史に残るような偉大なストライカーと一緒に、自分が新人の頃から練習でやり合えた経験は、間違いなく今の僕のベースになっている。今、こうしてプレーを続けられているのも、そうした日々があったからこそ。本当に恵まれていたし、感謝している。
ギラギラし続けている悠さんに負けず、自分も成長した姿を見せられるようにがんばりたいと思う。
◆第20回につづく>>
【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンSCに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。