「森保一監督は『テスト』に位置づけたのだろう。その点、中村敬斗はポジティブな要素だったと言える」

 スペインの目利きであるミケル・エチャリは、2026年W杯アジア2次予選で日本がミャンマーを0−5で下した一戦をそう振り返っている。

「中村は左ウイングバックのようなポジションだが、むしろウイングのような役割をしていた。左CBの伊藤洋輝がやや上り目で、逆に右CBの橋岡大樹はやや中に絞り、右ウイングバックの菅原由勢がやや下がり目。その構造のなかで、中村は常にいい形でボールを受けられたことで、2得点を記録した。与えられた役割を全うしていた」

 常にポジティブな要素を探し、建設的な意見を口にするエチャリは、そう言って殊勲者の名前を挙げている。今やレバークーゼンでも華々しい采配を見せるシャビ・アロンソ監督や、今シーズンのアストン・ビラでセンセーションを巻き起こしたウナイ・エメリ監督も心酔する戦術家の言葉は重い。
 
 エチャリはミャンマー戦をどう評価したのか?


ミャンマー戦で日本代表の攻守を司っていた守田英正 photo by Kyodo news

「戦術フォーメーションとしては、3バックを用いた3−4−2−1と言えるだろう。その点では新しかった。同時に、多くの代表歴の少ないメンバーを起用していた点も記しておくべきだろう。

 やはり、『テスト』の意味合いは強かった。

 率直に言って、0−5という記録について語ることに大きな意味はない。なぜなら、ミャンマーとの差は歴然としていたからだ。相手はほとんど日本陣営に入れず、一度だけ伊藤が背後を取られたシーンは、反省材料になるほどお粗末だったが、ピンチには至らなかった......。

 日本にとってはほぼ"攻撃の練習"に近かった。序盤はうまく好機を作り出せない時間が続いたが、29分にカウンター気味に鎌田大地のパスを中村が左サイドで受け、一気に切り込んで先制点を記録している。その5分後には、再び中村のパスを受けた鎌田がシュートし、こぼれ球を拾った堂安律がネットを揺らした。どちらも質の高い得点だった。

【CF小川航基への評価は?】

 チームの攻守を司っていたのは、ボランチの守田英正だろう。相手の持ち味を完全に消していた。攻撃への切り替えも早かった。

 一方、鎌田は攻撃をオーガナイズしていた。積極的に左に流れることで、旗手怜央と連係を深め、そこに中村が絡み、左サイド中心のゲーム展開になった。鎌田はスペースに入る、作る、使う感覚が優れているのだ。

 守田、鎌田のふたりは、あらためて主力選手としての力量を見せつけている。

 また、右シャドーに入った堂安は、ボールに触る機会自体は多くはなかったが、それはあくまで左中心だった攻撃のせいだろう。ただし、戦術的な横の動きの質は高く、こぼれ球に対する反応もすばらしかった。シャドーという自由を与えられたポジションで動くことは、ひとつの可能性と言えるかもしれない」

 エチャリはそう言って、好意的な評価を下している。長年、レアル・ソシエダのダイレクターなどの仕事をしてきただけに、監督が新しいテストをすることの大切さ、難しさを知り尽くしているからだ。

「後半は右サイドアタッカーに相馬勇紀を投入したことで、試合の流れが変わる。一転して、右サイドからの攻撃が増加。やはり、押し込む展開になった。

 そして右サイドのクロスから、小川航基がファーポストに流れて相手のディフェンスの背後をうまくとり、ヘディングで3点目を記録した。高さの利点を生かしたと言える。さらに4点目、小川は相手の致命的なミスをついて、こぼれ球を拾い、落ち着いて反転しながら相手GKの逆をつく一撃を決めている。

 小川についての評価はまだ確定できない。

 まず、空中戦では他の日本人選手にはあまりない選択肢を与えることができる、といったところか。また、どんなにレベルの低い相手でも、2ゴールを奪うのは簡単ではない。シンプルにゴールへの道筋を探し、選び取っていた。特に2点目はシンプルな選択だったが、うまく相手を欺いている。ただ、ステップの問題なのか、動きがスローな印象を抱いた。一方的な展開にならない相手との勝負が待たれる選手だ。

 仕上げの5点目も中村だった。板倉滉、小川航基とつながったパスからの攻撃で、得点力の高さを見せた」

 エチャリはそう言って、続くシリア戦に向けてもエールを送っている。

「相手が弱すぎただけに、適切な判断を下すのは難しい。ただ、守田、鎌田のコンビネーション(この試合ではそこに旗手、中村も加わっていた)は、これからも武器になるだろう。彼らは戦術フォーメーションに縛られない。シリア戦は多くの選手の入れ替えも予想されるようだが、積極的なテストをし続けるべきだ」