U-23日本代表・独占インタビュー
斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム/FW)前編

 5月中旬、スパルタ・ロッテルダムの練習場に斉藤光毅を訪ねた。あいにくこの日、斉藤は直近の試合で相手ディフェンスに削られて足首を痛めたことで、室内での別メニュー調整だった。

 斉藤不在の練習を少々、見学させてもらう。驚くことに選手やスタッフ、そして監督までもが練習前のちょっとした時間に次々と握手・挨拶に来てくれるフレンドリーさで迎えてくれた。

 さらに親切なスタッフが「そこに座っておけ」「なにか飲むか?」と世話も焼いてくれ、そのうち数人が「コウキは来季もここに残る」「どこにも行かせない」と冗談めかして宣言した。斉藤がこの夏に退団し、ステップアップすると噂されていることを前提にした軽口だった。


斉藤光毅にオランダ2年目を振り返ってもらった photo by Watanabe Koji

 2021年1月、19歳でベルギー2部のロンメルSKに加入した斉藤は、2022年夏にオランダ1部スパルタ・ロッテルダムにレンタル移籍でやってきた。1シーズン目は公式戦32試合出場で7ゴール5アシスト。2023-24シーズンはさらなる飛躍を誓って臨んだが、9月のフィテッセ戦でハムストリングを負傷し、今年1月まで離脱を余儀なくされた。

 それでも、左サイドからの仕掛けや裏への飛び出しはチームに欠かせない武器となり、復帰後のシーズン終盤はさながら「斉藤のチーム」のような存在感を見せた。22試合に出場して3得点5アシストと数字的には伸びなかったものの、ここに留めてはおけないと誰もが認める活躍ぶりだった。

 弱冠22歳ながら、すでにベルギーとオランダ、ヨーロッパ2カ国で合計3シーズン半を過ごした斉藤に、今季のこと、これからのこと、そして代表のことなどを話してもらった。

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── 負傷離脱もありましたが、今季はどんなシーズンでしたか?

「前季で結果を残して迎えた新シーズン、という流れが初めてだったので、もうちょっと最初からバリバリ結果を残すイメージをしていたんですけど......。ケガをしてしまったので、最初のほとんどは"ケガのシーズン"という感じになってしまいました。

 でも、ケガが治ったあとはすぐ出られるようになったので、立場を崩さずにプレーできました。う〜ん、でも、なんか表現が難しいですね。もしかしたらステップアップできるかもしれない状況ですけど、数字的には課題も残りますし」

【1対1での仕掛け方は横浜FC時代と別物】

── 今季は3得点5アシストという数字以上に、チームの中心選手になりました。

「3点じゃ全然、満足できないです。結果が大事な世界なので、そこはこだわってやっていきたいです。自分はロンメルからステップアップという形で入ってきて、最初はお互いに知らない状態でしたけど、自分の強みを出し続けることでみんなが徐々に認めてくれて、結果がついてきたら一気に状況がよくなっていきました。

 そして1年目の冬のオフを越えた頃、自分の立場を少し作ることができたかなという感覚でしたが、そこまでに半年もかかっているので、その時間を減らしていかないといけないと思いました」


1対1の仕掛けはオランダで磨きがかかった photo by Watanabe Koji

── とはいえ、スパルタ加入時はまだ20歳。

「でも、移籍って今後もそんなにたくさんするものではないと思うんです。もちろんこの先、何回か移籍のタイミングは来ますけど、試合に出られない期間は本当にもったいない。だから、どんなチームであっても自分の立場を早く築けるようにしていきたいと思います」

── わかってもらうまでの時間を短くする、ということですね。

「そうですね。一番わかりやすいところで言うと、1対1での仕掛けが自分のストロングポイントで、それが一番見てわかってもらえると思うので、そこを最初から全面に出していきたいです。

 裏への抜け出しやゴールに近づくプレーは、知ってもらわないとパスも出てこないと思うし、自分も動き出しづらい。そこは言葉も動きも使っていろんな要求の仕方があるので、また次に移籍した時はどういう感じになるだろうなって、楽しみな部分でもありますけどね」

── 1対1での仕掛けは、斉藤選手の代名詞的な武器ですからね。

「でもサイドでの1対1の仕掛けは、オランダに来てからです。日本にいた頃は真ん中から裏に抜けて、1対1があったら仕掛けるプレーヤーだったので。日本でサイドハーフをやっている時とはまったく別物になっていると思います」

【リハビリ期間はメンタルがきつかった】

── ウイングや左サイドではなく、今でもフォワードとしてプレーしたいというコメントを見たことがあります。

「本当はフォワードの選手なので、フォワードをやりたい気持ちは正直あります。でも、フォワードと同じくらいの感覚をウィングでも持てるように慣れたいとずっと思っていて、今季はスパルタでウィングにも定着できたので、いい流れはできていると思います。ただ今後、チームが変わった時にどうなるかは楽しみでもありますけど」

── そのような勝負のシーズンに、ケガによる長期離脱は大変でしたね。

「手術自体が初めてだったので大変でした。それも手術はオランダでなく、負傷後にまずはマンチェスターに行き、それからロンドンに移動して手術して、術後は痛いままタクシーに乗ってマンチェスターに戻ってホテル生活。本当につらかったです」

── 聞くだけで大変そうです。

「(レンタル元のロンメルはマンチェスター・シティの)シティグループなので、すごくいい環境でしたが、知らない環境にひとり放り込まれてリハビリするのは難しかったです。

 メンタルは、かなりきつかったです(苦笑)。復帰後は活躍しなきゃいけなかったので、そこのモチベーションやメンタルの持ちようは腐らずにできたんじゃないかなと思います」

── ロンメルでもスパルタでもなく、シティでリハビリしたのですね。

「そうです。僕みたいなシティグループのチームにいる選手が何人もリハビリしていました。みんなリハビリ中に知らない環境にきてピリピリしているなと思っていたら、自分も次第にそうなってしまいました(笑)。

 マンチェスターでは、長谷川唯さんにも会いましたよ。別のチームなのに、不思議な感じでした。いい経験になったとは思いますが、リハビリのために行くのは2度としたくはないですね」

── 今、フィジカル的な部分で取り組んでいることは?

「ハムストリングの手術もしたので、シティでやっていたことを継続してスパルタでも取り組んでいます。スパルタには相良浩平さんという日本人のフィジカルコーチがいて、気になったことを全部、伝えてくれるんです。

 僕だったら、たとえば90分間でどれくらい走っているかとか、そのハイインテンシティのなかでの心拍数とか。僕はけっこう数値が高いらしく、それをどうすればさらによくなるか相談したりしています」

【三戸舜介と仲はいいけどライバルでもある】

── なかでも特に重きを置いているテーマはありますか?

「ハイインテンシティで90分間、走りきれることを意識しています。あとは、手術でハムがちょっと弱くなっていたのもあるので、そのハムのトレーニングを追加してもらっています」

── 今季後半からは三戸舜介選手(前アルビレックス新潟)も加わりました。

「より楽しくなりました。今までは世代別の代表で何度かやっていた程度でしたけど、ここに来てからはずっと一緒にいる感じになるので、必然的に仲よくなりましたよ」

── 見た目もタイプも似ている印象です。

「スパルタが三戸ちゃんを獲得するって聞いた時、『まったく一緒の感じじゃん』と思いました。一緒に試合に出られているのはよかったですけど、同時にライバル関係でもあるので、切磋琢磨しながらがんばっていきたいなと思っています」

(後編につづく)

◆斉藤光毅・後編>>「パリ五輪で活躍すれば180度、自分の価値が変わる」(6月11日配信)


【profile】
斉藤光毅(さいとう・こうき)
2001年8月10日生まれ、神奈川県出身。横浜FCの下部組織で育ち、高校2年の2018年7月にクラブ史上最年少でJリーグデビューを果たす。2021年にベルギーのロンメルSKに完全移籍し、2022年よりレンタル移籍でオランダのスパルタ・ロッテルダムに所属している。代表歴はU-16から各アンダーカテゴリーで活躍し、U-17ワールドカップやU-20ワールドカップのメンバーにも選ばれている。ポジション=FW。身長170cm、体重61kg。