「乳がん検診」はどのくらいの頻度で受けるべき? 専門医のお勧めと理由とは?
乳がんによる死亡率を減少させるために、乳がん検診は重要な役割を果たしています。しかし、一体どれくらいの頻度で受ければ良いのか、明確な基準はあるのでしょうか? めぐみ乳腺クリニックの竹原先生に教えてもらいました。
≫ 【イラスト解説】「乳がんの主な症状」はご存知ですか?監修医師:
竹原 めぐみ(めぐみ乳腺クリニック)
1996年北里大学医学部医学科卒業、2001年北海道大学大学院医学研究科外科系専攻博士課程修了。北海道地方がんセンター(現・国立病院機構北海道がんセンター)乳腺外科、自治医科大学附属病院乳腺科、宇都宮セントラルクリニック乳腺外科、栃木県内複数の病院にて乳腺専門外来を担当。2023年10月めぐみ乳腺クリニック開院。日本外科学会専門医、日本乳癌学会乳腺専門医、日本乳癌検診学会会員、精度管理中央機構マンモグラフィ読影認定医師・講師、精度管理中央機構乳がん検診超音波検査実施・判定医師。
編集部
乳がん検診は毎年受けた方が良いのですか?
竹原先生
現在、日本の自治体はがん検診を実施し、受診を促しています。自治体が実施している検診は、自治体によって頻度や内容が異なっていますが、乳がん検診は「40歳以上の女性を対象に、2年に1回」の頻度で受けることが推奨されています。ただし、2年に1回の頻度で受ける場合には、検診の合間に自己検診を継続すること、異常を感じた場合は病院を受診することが必須とされています。
編集部
自治体が実施しているがん検診を受けていれば、人間ドックなどでの乳がん検診は不要ですか?
竹原先生
まず、あまり知られていませんが、検診には2種類あります。国が推奨しているがん検診は「対策型乳がん検診(住民検診型)」と呼ばれており、国全体の乳がん死亡リスクを低下させるのが目的です。これが自治体がおこなっている検診で、基本的には2年に1回とされています。一方、個別に医療機関や人間ドックなどで受診する乳がん検診は「任意型乳がん検診(人間ドック型)」と呼ばれ、個人の乳がん発見率を高め、死亡率を減少させることを目的にしています。こちらは頻度に決まりはありません。
編集部
そうなると、結局どれくらいの頻度で受ければ良いのでしょうか?
竹原先生
年齢によっても異なりますが、40歳から60歳代までの女性は最も乳がんにかかるリスクが高い年齢層ですので、毎年1回、乳がん検診を受けることをお勧めします。また40歳未満でも、親や姉妹で乳がんにかかった人が複数いるなど、乳がんの発症リスクが高い場合は、40歳になるのを待たず、検診を受けることをお勧めします。
編集部
40歳未満で、身内に乳がんにかかった人がいない場合は、検診を受けなくても良いのですか?
竹原先生
いいえ、必ずしもそういうわけではありません。しかし、発症率を考えると、40歳未満の方が乳がんになる確率は、40歳以上に比べて高くありません。また40歳未満の方に限ったことではありませんが、検診の結果、乳がんがないにも関わらず「精密検査が必要」と判定されるケースも少なくありません。このようなケースを偽陽性といいますが、それによる精神的負担はとても大きくなります。
編集部
若い人が乳がん検診を受けると、デメリットもあるということですね?
竹原先生
そうです。検診を受けることのメリットとデメリットを天秤にかけた結果、日本は対策型乳がん検診を実施するのを「40歳以上」と推奨しているのです。しかし20代や30代で乳がんを発症する方もいるため、日頃から自分の胸を観察したり、触ったりして、異常がないか確認する習慣をつけることが大切です。そして気になることがある場合は病院を受診するようにすることも大切です。
年代によって異なる検査の項目
編集部
乳がん検診にはいろいろな項目がありますが、何を受けたら良いのでしょうか?
竹原先生
一般的に、40歳以上の方はマンモグラフィ、またはマンモグラフィと超音波検査の併用で、40歳未満の方には超音波検査が推奨されています。
編集部
それはなぜですか?
竹原先生
マンモグラフィは乳房専用のレントゲン検査なのですが、正常な乳腺は白く、脂肪組織は黒く写し出されます。しかし若い人の場合、乳腺が濃く白く写る「高濃度乳腺」であることが多く、特に欧米人に比べて日本人女性にはその傾向が強いことがわかっているからです。
編集部
高濃度乳腺だと、マンモグラフィでがんを見つけるのは難しいのですか?
竹原先生
はい。マンモグラフィでは乳腺が白く写りますが、がんも白く写ります。正確にはがんの方がより白く写るのですが、乳腺が白く濃く写る「高濃度乳腺」の場合は、がんの白さを見つけにくくなります。そのため、40歳未満には超音波検査が推奨されています。ただし乳腺濃度には個人差があります。自分の乳腺濃度を知っておくことは今後どのような検診内容を受けると良いかの目安になるので、40歳未満でも一度はマンモグラフィを受けても良いかもしれません。
編集部
マンモグラフィと超音波検査では、特徴が異なるのですか?
竹原先生
はい、マンモグラフィと超音波検査では見える病変の得意とする分野が異なります。マンモグラフィの特徴は石灰化や乳腺の全体像を捉えやすいということです。また撮影方法が定められているため、過去の画像と比較しやすいというメリットもあります。
編集部
超音波検査は?
竹原先生
一方、超音波検査は小さなしこりやマンモグラフィでは見つけにくい高濃度乳腺のなかのしこりを見つけたり、しこりを質的に診断できたりするという特徴があります。しかし、超音波検査では石灰化を評価しづらいというデメリットがあります。
編集部
それぞれメリットとデメリットがあるのですね。
竹原先生
はい。マンモグラフィでも超音波検査でも見える乳がんが大半ですが、乳腺の濃度やしこりの状況、石灰化などにより、どちらか一方の検査でしか見えない乳がんもあるのです。ただ、現時点では「継続的に検診を受けることによって乳がんの死亡率が低下する」と科学的に立証されているのは、マンモグラフィのみとなっています。
編集部
そうなると、40歳以上はマンモグラフィだけ受ければいいのではないでしょうか?
竹原先生
いいえ。それぞれ得意とする分野が異なるので、補完する意味合いで、乳がん発症率の高まる40歳以上の方へはマンモグラフィと超音波検査の併用での検診をお勧めしたいと思っています。自治体検診におけるマンモグラフィと超音波検査の併用による効果については現在、研究が進められています。
検査を受ける際の注意点編集部
それぞれの検査を自費で受ける場合、金額はどれくらいですか?
竹原先生
自覚症状がない人に対する検診は自由診療(自費診療)となるため、医療機関によって異なります。一般的に超音波検査は5000円前後、マンモグラフィ検査は7000円前後、両方受けると1万~1万5000円程度になります。高額と感じる方も多いと思いますが、自治体の検診だと自治体からの助成があるので、本来はこのくらいかかる検診を自己負担1000円前後で受けられます(自治体によります)。ぜひ活用しましょう。
編集部
年1回の検診のほか、どんな症状が見られたら早めに乳腺クリニックを受診したら良いでしょうか?
竹原先生
たとえば乳房にしこりがある、乳房の皮膚にくぼみやひきつれがある、乳頭から血の混じった分泌物が出ているといった症状が見られる場合には早めに受診することをお勧めします。また、乳がんのなかにはしこりを作らないものもあります。そのため、「最近なんだか左右の硬さが違う」など、なんとなくの違和感に気づくことも重要です。
編集部
普段から意識することが大切ですね。
竹原先生
はい。現在では「ブレスト・アウェアネス」といって「乳房を意識した生活習慣」を実践することが乳がんの早期発見には非常に重要と考えられています。普段から自分の乳房の硬さや大きさなどに気をつけ、通常の状態を理解しておけば、変化にいち早く気づきやすくなります。変化に気づいた際はすぐに乳腺科へ相談するようにします。こうした生活習慣を心がけるとともに定期的な乳がん検診を受け、乳がんの早期発見に繋げてほしいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹原先生
乳がんは女性のがんで一番多いがんです。さらに発症率はどんどん高くなっています。20年以上前は25人に1人と言われていましたが、現在は8人に1人に近づいています。発症率は1位ですが、がんの死亡率では乳がんは5位であり、これは「早期発見して適切な治療をすれば治る可能性が高いがん」であることを意味しています。このことから、ブレスト・アウェアネスが重要であるとされています。普段から乳房を意識した生活を送ること、なにかあれば病院を受診すること、定期的な検診を受けることを心がけましょう。
編集部まとめ
自治体の助成で受けられる乳がん検診は2年に1回ということが大半ですが、40歳以上であれば毎年検診を受けるのが理想。自治体のがん検診と任意の検診を交互に受けて、がんの早期発見に努めるようにしましょう。
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