ミャンマー戦の3バックは攻撃力低下のデータ 森保一監督はこのシステムを今後どのような試合で使うつもりなのか
消化試合となったアウェーのW杯2次予選ミャンマー戦に臨んだ日本は、攻撃的な3バックを採用したかに見えた。しかし、データを見ると、前回のミャンマー戦から攻撃力が低下している数字。悪い内容の一戦となってしまった。
【攻守の戦力配分は4バック時と同じ】2試合を残した状況ですでにW杯アジア2次予選突破を決めている日本にとって、5−0で完勝した今回のミャンマー戦は消化試合でもあった。したがって、最終的にホーム戦と同スコアでアウェー戦をものにした今回の試合で着目すべきは、結果ではなく内容だ。
日本代表はアウェーのミャンマー戦に3バックで臨んだ photo by AFLO
とりわけ現在の日本代表は、ボールを保持する試合ではなかなか効果的な攻撃を繰り出せず、カウンター主体で格上と戦うよりも苦戦する傾向にある。そんな背景もあってか、今回の試合では、森保一監督がこれまでに見せたことのなかった新戦術を披露した。それが、攻撃を重視した3バックシステムだ。
では、実際に4−3−3(4−1−4−1)で戦った前回対戦時(2023年11月16日)と新戦術で戦った今回の試合では、どのような違いが生まれていたのか。どちらの試合でも、ミャンマーが超守備的な5−4−1を採用したことを踏まえつつ、特に攻撃面に着目して試合を振り返ってみる。
まず、今回のミャンマー戦で初先発したGK前川黛也以外のフィールドプレーヤーは、最終ラインに右から橋岡大樹、谷口彰悟、伊藤洋輝の3人が並び、右ウイングバック(WB)に菅原由勢、左WBに中村敬斗。中盤中央は守田英正と旗手怜央で、前線は2シャドーの右に堂安律、左に鎌田大地、1トップに小川航基と、敢えて3−4−2−1の陣形にあてはめるなら、そのように見えた。
それに対し、4−3−3で戦った前回対戦時に先発したフィールドプレーヤーは、最終ラインに毎熊晟矢、谷口、町田浩樹、中山雄太、ボランチが田中碧、インサイドハーフが右に鎌田、左に南野拓実、前線が右に堂安、左に相馬勇紀、1トップに上田綺世の10人(GKは大迫敬介)。守備系選手(毎熊、谷口、町田、中山、田中)と攻撃系選手(鎌田、南野、堂安、相馬、上田)は、それぞれ5人ずつで編成された。
では今回の3バックシステムではどうだったかと言うと、実は守備系(橋岡、谷口、伊藤、菅原、守田)と攻撃系(旗手、中村、堂安、鎌田、小川)の割合は半々で、前回対戦時の4−3−3と同じ5人ずつ。つまり、攻守の戦力配分をそのままに、立ち位置だけを変更して、攻撃的な3バックシステムを機能させようとしたことになる。
もちろんミャンマーの力量から推察すると、おそらく攻守の戦力配分が5人ずつになったのは、守備バランスを意識したというよりも、次のシリア戦のスタメンから逆算してメンバーを布陣にあてはめた可能性は高い。
【左右の攻撃回数に差が生まれたのはなぜか】いずれにしても、3バックでも攻撃的に戦いたいというこの試合の目的からすると、スタメン選びの段階でそこに明確さが失われたことは確かで、それがピッチ上の現象にも出てしまった。
象徴的だったのが、本職がサイドバックの菅原がウイングバックを務めた右サイドと、左ウイングが本職の中村がウイングバックを担当した左サイドの攻撃回数の違いだった。
右の菅原は、試合の立ち上がりから相手陣内深いゾーンまで進入するシーンが少なく、結果的に自ら右サイドを攻め上がってクロスを供給したのは、前半25分の1本のみ。後半もクロスなしのまま、62分に退いている。攻撃力を武器とする菅原のプレースタイルからすると、過去の試合のクロス本数と比べても、その少なさが際立った格好だ。
逆に、初めて左ウイングバックでプレーした中村は、前半だけでクロス4本を記録。もちろん、中村が今シーズンのリーグ・アン終盤戦で縦突破からの左足クロスを習得し始めていたことは確かだが、本来カットインプレーを武器とする中村が、菅原よりも多くのクロスを供給した点は、見逃せない現象のひとつだった。
さらに言えば、菅原に代わって右ウイングバックに入った相馬勇紀は、約30分のプレータイムのなかで3本のクロスを供給。そのうち1本は、ヘッドで合わせた小川のゴール(75分)のアシストで、相手DF(17番)のイージーミスがあったにせよ、83分にも小川のゴールにつながるアーリークロスを供給した。
ちなみに、サイドバックも対応可能な相馬の本職はウイングで、攻撃系の選手だ。これは、あくまでも選手を守備系と攻撃系に分類したうえでの比較になるが、少なくともこういった現象が起きてしまったことは、ひとつの事実として受け止めるべきだろう。
【くさびの縦パス、クロス共に前回対戦から半減】もうひとつ、新戦術採用のなかで見て取れた現象があった。それは、3−4−2−1という陣形には収まらない、不規則かつ流動的な選手の立ち位置だ。
とりわけ特徴的に見えたのは、中盤中央の守田がワンボランチ的に低い位置をキープしたのに対し、旗手はほとんどの時間帯で相手の最終ラインと中盤4人の間、つまり「5−4」のライン間でプレーしていたことだった。
ミャンマーのDFライン5人との完全マッチアップを回避するためなのかどうかは不明だが、これによってピッチ上に描かれた陣形は、数字にするなら3−1−5−1。ピッチの左右幅を5つに分けたレーンで言うと、前線には6人が立つことになった。
こうなると、日本にとってのアタッキングサードが大渋滞になるのは当然のこと。そこで立ち往生してしまったのが、最前線に立つ小川だった。なぜなら、小川の後方に立つ5人がパスの受け手となるべく、すべてのレーンを埋め尽くしていたからだ。
これにミャンマーのMF4人が交錯するので、試合序盤の日本は前線中央へのくさびの縦パスに苦労した。その結果、開始早々4分に守田が旗手に縦パスを入れてチャンスを作ったあと、次に縦パスが入ったのは旗手が堂安に出した23分。大渋滞を感じてか、鎌田や旗手が入れ替わりで守田の横まで下りるなど前線にスペースを作る動きをするようになってから、よやく8本を記録した。
ちなみに、縦パスの受け手となったのは、主に鎌田、旗手、堂安の3人(守田は1回)。1トップの小川は、40分まで縦パスのレシーバーにはなれなかった。
結局、この試合で日本が記録したくさびの縦パスは15本(前半9本、後半6本)。4−3−3で戦った前回対戦では計28本(前後半14本ずつ)を記録していたので、ほぼ半減したことになる。
また、クロス本数で2つの試合を比べてみても、前回は計30本(前半13本、後半17本)に対し、今回は16本(前半9本、後半7本)。こちらも、4−3−3採用時より半減する結果となった。シュート数は、前回が24本で今回は20本だったのでそれほど減少したわけではないが、同じ5−0というスコアのなかでも、試合の中身に目を向けると、そこには大きな違いがあったことは間違いなかった。
そういう意味で、今回テストした攻撃的3バックシステムは、機能していたとは言い難い。少なくとも、4−3−3よりも攻撃的だったと言えるような現象はどこにもなく、逆に攻撃力が低下したと見るのが妥当だろう。
【規則性のないプレーぶり】むしろ今回も顕著に現れたのは、ピッチに立つ選手次第で機能性が大きく変わるという点だった。右ウイングバックの菅原と相馬の比較はもちろんだが、旗手、鎌田、堂安らが見せた流動性は、各選手の自主判断によるところが大きい不規則なプレーぶりだった。それは、前半途中から最終ラインから前に出てプレーするようになった伊藤にも言えること。
そこにチームとしての規則性は、残念ながら見て取れなかった。
果たして、森保監督は今回採用した3バックシステムを、今後どのような試合、あるいは戦況で使うつもりなのか。アジアカップ以降、基本布陣の4−2−3−1が機能不全に陥っているなか、そちらの再構築をしないまま9月からのW杯アジア最終予選を迎えるのか。
おそらく主力メンバーがスタメンを飾るであろう、6月11日のシリア戦も要注目だ。