伝統と斬新な発想で生まれた砥部焼のマグがJIMOTO Made+に登場


【写真】左から「JIMOTO Made+ 中予ヨシュア工房マグ 白」、「JIMOTO Made+ 工房マグ 藍」

スターバックス リザーブ(R)ロースタリー 東京(以下、ロースタリー 東京)が展開する、日本各地のモノ作りを取り入れた商品シリーズ「JIMOTO Made+」。日本の工芸・産業を次の世代に残すため、商品の背景にある文化、職人の情熱や技術をロースタリー 東京とオンラインで全国へ発信している。

このシリーズに2024年5月10日、新たに4つの地域の工芸品が加わった。そのうちのひとつが、愛媛県伊予郡砥部町を中心に作られている砥部焼のマグだ。従来の砥部焼に新たな手法を取り入れているというこのマグを作る窯元を、店舗のパートナー(従業員)と共に訪ねた。

■地元産の陶石と呉須で表現される砥部焼

【写真】左から「JIMOTO Made+ 中予ヨシュア工房マグ 白」、「JIMOTO Made+ 工房マグ 藍」


240年以上もの間、この地で焼き続けられている砥部焼は、陶石を主原料とする磁器だ。江戸時代中期、砥石の産地だった砥部で、藩が砥石の屑を原料に磁器を生産させたことに始まる。現在でも地元でとれる陶石を原料とし、際立つほどに真っ白な磁器に、呉須と呼ばれる青色の顔料を用いた手描きの絵付けが特徴で、1976年に国の伝統工芸品に指定されている。戦後は民藝運動を推進する柳宗悦らから手仕事の技術に高い評価を得て注目を集め、また丈夫な磁器であることから日用品として愛用されてきた。

現在、100ほどの窯元があり、その多くは小規模ではあるが、それぞれが伝統を守りながら個性ある焼き物を作っている。その中で砥部焼に新しい風を吹き込もうとしているのが、今回訪ねたヨシュア工房だ。「伝承と伝統は違う」とは、2代目の竹西辰人さん。

「伝承は作り方を変えないで作り続けるもの。伝統は、受け継いできた技術や精神をもとに時代に合わせて作り方を変え、新しいものを生み出していくものだと思います」

ヨシュア工房の竹西辰人さん


ヨシュア工房の特徴は「ヨシュアブルー」と呼ばれる、深くも柔らかな青色。手描きの絵付けがされる砥部焼において、絵付けを行わず「吹染め技法」で表現する。今回登場する商品「JIMOTO Made+ 中予ヨシュア工房マグ 藍/白(各7500円)」も絵付けではなく、呉須を斜めに吹き付けて表現。これはロースタリー 東京のある東京都目黒区が孟宗竹の産地だったことから、竹をイメージしたデザインだ。そしてヨシュアブルーは、竹西さんが幼いころから親しんできた瀬戸内の海の色で、ロースタリー 東京らしいモダンな雰囲気をまとったマグになっている。

■革新から生まれたヨシュアブルー

砥部焼は地元産の陶石に土などを混ぜて作られた坏土を、真空土練機で空気を抜きながらこね、成形、乾燥、削り、素焼き、施釉、本焼きを経て完成する。JIMOTO Made+ 中予ヨシュア工房マグは、石膏型で成型をし、生乾きのところでコテなどを使って削り、厚みや口元の丸みの調整、高台など、形を整えていく。

ろくろを回し、側面の厚みなどを削って調整


右が型から出したもの。左が形を整えたもので、一見して違いが分かる


柄を付けて乾燥し、920℃で9時間素焼きしたら、呉須を使った施釉をする。

素焼きを待つマグ


呉須とは鉱石を原料とした陶磁器用の青色の顔料のこと。専門業者から購入することもできるが、ヨシュア工房では研究を重ね、コバルト、ニッケル、マンガンなど10種類の原料を独自にブレンドしてヨシュアブルーを完成させた。納得の色になるまで、なんと10年もの年月がかかったという。それは呉須のブレンドのことだけではない。

工房には呉須などの原料になる鉱石の粉末が並ぶ


焼成前の呉須は、チョコレート色をしている。透明のガラス釉を塗り重ねることで焼成時に化学反応が起きて青が引き出され、呉須を塗っていないところは、坏土本来の真っ白な色が現れる。

「同じ呉須を全体に塗ると、器の外側と内側で焼成後の発色が異なってしまうんです。ですから、同じ色になるよう、外側と内側でブレンドの異なる呉須を使っています」

呉須の吹き付けに板金などで使われるスプレーガンを使用するのも、竹西さん独自の工夫だ。竹西さんがスプレーガン握ると、シューッという音と共に呉須の粒子がマグに吹き付けられていく。一見簡単そうにも見えるが、「3往復ほど重ね塗りしますが、ムラが出ないように常にガンも器も動かしながら吹き付けます。スプレーガンの口径、呉須の粒子の細かさによっても変わって来るので、どういう形がベストかを探るのに5年ほどかかりました」と、その苦労を語る。

スプレーガンの中にチョコレート色の呉須が入っている


手作業で吹き付けていく


目で見えない細かな粒子となっている呉須が器にまとう


特に斜めのデザインは、塗料が垂れやすいため難しく、通常3回ほどで終える吹き付けを、薄く10回も重ねていくという。形、デザインなどにより微調整を加えていくのはさすがの職人技だ。

こうして施釉を終えたマグは、1260℃で16時間本焼き。つるりとした磁肌に深い青のグラデーションが浮かび上がる。

本焼きを終えたマグ


■アイデンティティが伝統を守り、新しさを取り入れる

JIMOTO Made+の商品には、ロースタリー 東京とヨシュア工房のロゴ


現在はこうした吹染め技法をメインに砥部焼を制作しているが、先代までは「圭仙窯」の名で絵付けの砥部焼を制作していたそう。砥部焼で吹染め技法というこれまでにない手法を取り入れるには、“これが砥部焼である”というアイデンティティをしっかり持たなければいけなかったと竹西さんは語る。

「同じ磁器の有田焼に比べ、砥部の陶石の性質はやや陶器っぽさがあります。だからもっと陶器に近い磁器があっていいのではないかと考えました。だからまずは、砥部の陶石を使っていることが大切。そして砥部焼の特徴である呉須の色にオリジナリティを追求しました」

その想いと技術の積み重ねの線上に、今があり、JIMOTO Made+のマグがある。

「この器で普段飲んでいるコーヒーに幸福感を少しプラスできれば、とてもうれしい。と共に、砥部焼を知ってもらうことができれば、この地域にもいろいろなプラスが生まれるのではないかと思います」

工房見学を終え、完成した商品を手にするパートナーたち


工房見学を終えると、砥部焼の魅力を伝える一助を担いたいと商品を手に厚く語り合うパートナーたちの姿があった。日頃から砥部焼に慣れ親しんできた愛媛県出身のパートナーは、砥部焼の青色を「東京で暮らしていても、砥部焼ばかりに目が行く。呉須色は魂に刷り込まれた好きな色」と表現する。そんな愛媛の人たちの魂に刻まれた青色をぜひ手に取ってみてほしい。