川上梨菜さん(画像右)は依頼者からの相談を担当。川又志織さん(画像左)は主に会社に依頼者の退職意向を伝えている

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 近年注目を集める退職代行サービスだが、その実態はどのようなものなのか。代行業社「モームリ」の社員と、労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」の理事に話を聞いた。
◆退職代行業者が出合ったヤバい会社

 モームリ創業メンバーの川又志織さんは、多くの「ヤバい会社」に出合ってきたそう。

「ほとんどの会社には淡々とご対応していただいております。ただごく一部ですが、暴言を吐くような会社もあり、私自身は『くそ女』『呪ってやる』と言われ、泣きそうになりながら対応したことがあります」

 こういう会社は、社員が退職の意向を伝えても、すんなりとは認めないことが多い。

「退職届を社員の目の前で破ったり、法律で定められている有休を消化してから辞めたいと言っても、『ウチには有休制度はない』と言い張ったりする会社があります。ほかにも、社長から『疲れてるだけだから、いい陰陽師を紹介するよ』と言われ、占ってもらったら『費用120万円払わないと退職させない』と脅されたという方もいました」

◆葬儀中に社長から100件の不在着信

 自ら「ヤバい会社から転職してきた」と言う川上梨菜さんは、自身の退職経験を語る。

「前職は不動産会社でした。親戚の葬式で会社を休むと報告したにもかかわらず、葬儀が終わりスマホを確認すると、社長から100件も着信がありました。折り返すと、『もうお前なんか辞めろ』と言われたので、『辞めます』と返すと、『途中で仕事を放棄するのか! 給料は渡さないからな』と逆ギレされる。実際に退職代行で働いてみると、意外と私のような経験をされている方が多くて驚いています」

 なかには“常連”となった会社もある。大手の飲食店やコンビニチェーン、人材派遣会社だ。依頼者数が多く、何度も電話をかけているため、モームリのスタッフの名前は覚えられているらしい。

 ところで、「モームリ」という社名を名乗るとき、電話の向こうの会社はどのような反応をするのだろうか?

「みなさん『退職代行』という言葉に驚かれ、会社名までは耳に入らないようです。最後に『もう一度、御社名を伺えますか?』と聞かれ、『モームリ』とお答えすると、そこで笑われたり、『こっちがもう無理だよ』と嘆かれたり。最近では『ついにウチにも来ましたか』と言われるようにもなりました」(川又さん)

◆“退職妨害”で生き残りを図るブラック企業

 退職代行サービスが盛況の背景には、ブラック企業の存在が大きく関わる。労働問題に取り組むNPO法人POSSE理事・坂倉昇平氏が語る。

「この10年間でブラック企業が社会問題化され、意識が広がるなかで、劣悪な労働環境では労働者側から積極的に退職する傾向が強まってきた。それに対し、ブラック企業では生き残り戦略として、入社した人材の退職妨害が横行し、その結果、退職代行のニーズが高まっているのでしょう」

 だからか退職代行への対策を講じるブラック企業もある。

「某エステ店は退職する際に本人が直接本社に出向いて退職届を提出しないと受け取ってもらえず、雇用契約書に『我が社では退職代行サービスの利用は認められません』と明記されているそう。ほかにも、退職を妨害するために最後の給料を本社まで取りにこさせる企業もあります」

◆代行利用には法律上の懸念点も

 近年、POSSEの労働相談窓口には、退職代行サービスの利用トラブルに関する相談が増えているという。

「退職代行業者から依頼者の会社に退職の意思を通達してもらい、有給休暇を消化した後に退職する旨を伝えても、有給休暇を使えないよう会社が退職日を勝手に前倒しで指定してくることがある。このように依頼者が良い条件の退職を望んでも、弁護士ではない退職代行業者が企業と交渉することは弁護士法違反の非弁行為にあたる。結果、労働者側に不利な条件で収めようとする業者も少なくない」