お笑い芸人・今くるよさん逝去 死因の「膵がん」の前兆となる初期症状を医師が解説

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お笑い芸人の今くるよさんが27日、膵がんのため亡くなったと所属先の吉本興業より発表されました。高校の同級生だった今いくよさんと漫才コンビ「今いくよ・くるよ」を結成、代名詞となっているギャグ「どやさ」などで人気を集め、一世を風靡しました。

今回、今くるよさんの死因となった膵がんの初期症状・検査法・治療法・早期発見のポイントや何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

※この記事はMedical DOCにて【「膵臓がんの前兆となる初期症状」はご存知ですか?医師が徹底解説!】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

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監修医師:
飯田 綾子(医師)

2009年奈良県立医科大学卒業。大阪市立大学医学部附属病院で初期臨床研修後、大阪市立総合医療センター消化器内科レジデントを経て、大阪市立大学大学医学部附属病院肝胆膵内科で学位を取得。現在は患者さんの不安に寄り添い、何でも相談できるかかりつけ医を目指して、大阪市内のクリニックで高血圧や糖尿病など主に慢性疾患の外来や在宅診療を行っている。消化器病専門医、肝臓専門医、総合内科専門医、認定産業医の資格を有する。

「膵がん」とは?

膵臓は胃の後ろにある15cmほどの細長い形をした臓器で、主に、膵液と呼ばれる消化液や血糖値を下げるインスリンというホルモンを作る働きをします。膵液は膵管と呼ばれる管を通って十二指腸に流れていきます。「膵がん」は膵臓に発生する悪性の腫瘍で、90%以上が膵管に発生します。最も予後の悪いがんの一つと言われており、日本における膵がんの罹患者数、死亡者数は年々増加傾向で、年間3万人以上の方が亡くなっています。中~高齢者に多く、やや男性に多い傾向があります。喫煙、膵がんの家族歴、糖尿病や慢性膵炎などとの関連が指摘されています。今回はそんな膵がんの初期症状、検査法、治療法、早期発見のポイントをお話させていただきます。

膵がんの前兆となる初期症状

「膵がんは症状が出てからではもう手遅れ」と認識している方も多いと思います。実際、膵臓はがんが発生しても小さいうちは症状が出にくく、また健診などで行われる腹部超音波検査でも膵臓を細部まで観察することが難しいため、膵がんの早期の発見は簡単ではありません。
がんが進行するまで無症状のことも多い一方、「なんとなく胃の具合が悪い」といった腹部症状で、検査を進めていくと膵がんだったということもあります。
がんの症状はがんの発生する部位によっても異なります。膵がんの80%を占める膵頭部がんでは膵管や胆管の閉塞による腹痛や黄疸を認めますが、体尾部がんでは症状が出るまで時間がかかり、背中の痛みや体重減少などで進行した状態で発見されることもあります。

腹痛

腹痛やお腹の張りが出ることがあります。膵管にできたがんのために膵管が詰まると、膵液が流れず膵管内部の圧が高くなり膵管が拡張します。膵管内部の圧が高くなると膵臓に炎症が起こるため腹痛を起こすと考えられています。腹痛の原因は非常に多岐にわたるため、膵がんに特徴的というわけではないのですが、強い腹痛が持続して食事も摂れないようであれば、一度近くの内科を受診することをおすすめします。

黄疸

黄疸はがんにより胆汁の流れが妨げられるために起こります。白目の部分が黄色くなったり、尿の色が濃くなったりします。身体も黄色くなり、痒みも出てきます。膵がんのために黄疸が出ている場合は、すぐに胆汁を流れるようにする治療が必要になるので、消化器内科を受診してください。

背部痛

背部痛(背中の痛み)は特に膵体部、尾部のがんで認めることがあります。がんが周囲の神経を巻き込むために激しい痛みを引き起こします。膵臓の痛みは胸膝位といって、膝を曲げて腹ばいや屈みこむ姿勢をとると、痛みが和らぐという特徴があります。もしこのような痛みがあれば、膵がんに限らず膵臓が原因の痛みである可能性があるので、一度内科を受診し、血液検査をしてもらってください。

体重減少

がん全般に言えるのですが、がん細胞が作るサイトカインによって筋肉や脂肪が消耗されて体重減少をきたします。このような病態を悪液質と呼びます。また、膵臓のまわりには胃や十二指腸、大腸といった消化管があり、膵がんがまわりの消化管を圧迫するために食事がとれず体重減少を起こすこともあります。さらに、がんのために膵液がうまく流れなくなり、食べたものをうまく消化吸収することができないことも体重減少の原因となります。特にダイエットをしている訳ではないのに半年で体重が5%以上減少する場合は、一度内科を受診することをおすすめします。

糖尿病

急に糖尿病を発症したり、もともとあった糖尿病が急に悪くなったりすることがあります。膵臓は血糖値を下げるインスリンというホルモンを分泌しています。膵がんにより膵臓の機能が落ちると、インスリンの分泌量が低下し、糖尿病の悪化を引き起こします。糖尿病の症状としては多飲多尿、口渇、体重減少などがあります。このような症状が続く方は早めに内科を受診してください。

膵がんの検査法

腹部超音波検査

腹部超音波検査は放射線の被曝もなく、検査時間も15分程度と比較的手軽に行える検査です。膵がんを疑う場合には最初に行うことが多いと思います。がんの有無に加え、膵管の拡張がないかなどを見るのですが、最初に述べましたように、膵臓は周囲の消化管のガスの影響で細部まで観察できないことがしばしばあります。実際には超音波検査に下記の画像検査を追加して精査を進めていきます。

腹部CT・MRI検査

かかりつけの内科を受診し、血液検査や腹部超音波検査で膵がんが疑われた場合、次に行う検査が腹部CTやMRI検査です。より詳細な診断を行うために造影剤を使うことが多いです。がんの大きさや位置、周囲の血管への広がりや転移の有無などを見ます。CTやMRI検査は比較的大きな病院でしか受けられないので、消化器内科宛てに紹介状を書いてもらって受診することになります。検査には入院は必要ありません。検査時間はCTなら5分、MRIなら30分ほどです。

超音波内視鏡検査

CTやMRI検査で膵がんと診断された場合、次に超音波内視鏡検査を行うことが多いです。超音波内視鏡検査は手術適応があるかなど、治療方針の決定に重要となります。がんがどこまで進展しているのか、血管浸潤があるかなどを見ます。超音波内視鏡検査時に、がんに針を刺して細胞をとる検査を行うこともあります。検査時間は30分程度です。病院にもよりますが、超音波内視鏡だけだと日帰り、針を刺して細胞をとった場合は出血がないかなどの確認のため1~2泊の入院が必要となります。

膵がんの治療法

外科的切除

検査の結果、手術ができると判断された場合は外科的切除を行います。がんの場所によって周囲の臓器も一緒に切除することもあります。手術はできるけれど周囲の血管に浸潤がある場合は、手術前後に化学療法や放射線治療を追加することもあります。手術の場合は2週間ほどの入院になります。手術翌日から立って歩くリハビリを開始し、3日目頃からお粥からの食事を開始します。

化学療法

周囲の大きな血管に浸潤していたり、遠隔転移があるなど、切除しても根治が期待できない場合は化学療法(抗がん剤治療)を行います。化学療法に下記の放射線治療を併用する場合もあります。膵がんの化学療法は何種類もあり、点滴なのか内服なのか、投与する間隔もさまざまです。患者さんの年齢やその他の持病、副作用の出方なども考慮して治療薬を選択します。初回の化学療法は入院で行うこともありますが、基本的には外来通院での治療になります。

放射線治療

膵臓がんでは化学療法と併用して、治療の効果を高める目的で行われる化学放射線療法と、骨転移などの疼痛緩和目的で行われる放射線治療があります。また、実施される施設は限られますが、重粒子線や陽子線などの粒子線治療もあります。放射線治療を受ける場合は放射線腫瘍医による診察を受け、治療計画を立ててもらいます。1回の治療にかかる時間は10~30分程度で、通院で治療を続けていきます。

すぐに病院へ行くべき「膵がんの初期症状」

ここまでは膵がんの症状を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

黄疸が出た場合は、消化器内科へ

白目の部分や皮膚が黄色い、尿の色が濃い、便が白っぽいなどの症状がある場合は黄疸が出ているかもしれません。黄疸は胆汁という脂肪を分解する消化液の流れが妨げられることで起こります。胆汁は肝臓から胆嚢、総胆管を経て膵臓の中を通って十二指腸に流れるので、膵がん(特に膵頭部がん)の他、肝臓がん、胆嚢がん、胆管がん、十二指腸乳頭部がんなどでも認めます。
胆汁がうっ滞した状態が続くと、肝臓や腎臓に負担がかかってしまい、細菌が感染して胆管炎になるリスクがあるため、早急に胆汁の流れを回復する必要があります。黄疸が出た場合はできるだけ早く消化器内科を受診してください。

受診・予防の目安となる「膵がん」のセルフチェック法

・腹痛やお腹の張りが続く場合

・黄疸がある場合

・強い腰背部痛がある場合

・体重減少がある場合

膵がんを早期発見するポイント

膵がんは60歳頃から増加しますので、年1回は腹部超音波検査をすることをおすすめします。膵がんのリスク因子として、膵がんの家族歴、糖尿病、肥満、慢性膵炎、喫煙、大量飲酒などがあります。
膵がんは近親者に膵がんが多いほど発生する確率が高くなることが知られています。そのため、両親や兄弟が膵がんという方は、若いうちから年1回の健診の際に腹部超音波検査や血液検査で腫瘍マーカーを追加するのも一つの手と考えます。
また糖尿病や慢性膵炎を指摘されたことのある方も、定期的に腹部超音波や腫瘍マーカーの測定をおすすめします。日常生活では、まず禁煙と節酒が重要です。食事は野菜から食べること、高脂肪食は控えめにし、腹八分目を意識してください。

「膵がんの初期症状」についてよくある質問

ここまで膵がんの初期症状を紹介しました。ここでは「膵がんの初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

膵がんを疑う初期症状が現れた場合、背中のどの辺りが痛みますか?

飯田 綾子 医師

膵臓は胃の後ろから身体の左側に伸びる臓器です。膵がんの痛みは腰の上あたりから、正中左側にみられます。

膵がんを発症すると尿にどんな特徴が現れますか?

飯田 綾子 医師

膵頭部がんで胆汁の流れが妨げられた場合、尿の色は濃くなります。

編集部まとめ

膵がんは、初期症状の出にくい病気です。だからこそ、自分のリスクを把握して、少しでも早期発見できるように定期的な健診や診察をうけることが大切です。
また、日常生活で、持続する腹痛やお腹の張り、黄疸、背中の強い痛み、体重減少、急な口渇などの症状を認めた場合は、まずは近くの内科を受診することをおすすめします。血液検査である程度分かることがあります。気になる症状を放って置かないようにしましょう。