銚子電鉄の22000形車両(筆者撮影)

銚子電鉄(銚子電気鉄道)は、千葉県銚子市内の銚子駅―外川駅を結ぶ全長6.4kmのローカル私鉄路線だ。

ネーミングのすごさに感服

現在社長を務める竹本勝紀氏は2012年に就任以来、ユニークなイベントやオリジナル商品の開発を推進し、そのたびにニュースにも取り上げられ、銚子電鉄の知名度はどんどん高まっている。

棒状のスナック菓子「まずい棒」、「再建最中(モナカ菓子)」、「電車にのってほしいも(干し芋)」などは、その「ネーミング力」のすごさに感服してしまう。すでにある他社製品をもじったものもあるが、銚子電鉄の経営状態などを、ダジャレなどのジョークを用いて自虐ネタにしている。例えば「まずい棒」は、某有名スナック菓子と、銚子電鉄の経営が苦しい(まずい)状態をかけたものである。「再建最中」は、まさに経営を立て直している状態のことをかけたものである。2020年には銚子電鉄が製作した映画作品「電車を止めるな!」が公開された。当時話題になった映画作品「カメラを止めるな!」からきているものだ。

銚子電鉄は仲ノ町駅に隣接する醤油工場から製品を全国配送するために、同社を窓口に銚子駅から国鉄に引き渡す貨車の運用も行っていた。現在は旅客運行のみだが、1998年当時、銚子電鉄の親会社である工務店が破産したが、当該工務店の社長が銚子電鉄の社長を兼務していた。その破産から6年後、個人的に資金繰りに窮していたと思われる社長が横領事件を起こしてしまった。この事件をきっかけに、銚子電鉄の経営はさらに悪化。事業の運転資金の不足で、車両の検査や設備費用が捻出できなくなっていた。

銚子電鉄は公式サイトに、「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と称して、銚子電鉄のオリジナル商品として製造販売する「ぬれ煎餅」の購入支援を、全国に呼びかけた。「銚子電鉄」がメディアにも多く取り上げられるようになったのはその頃だった。全国からたくさんの支援が集まり、運転資金の調達に成功した。車両の修繕や設備の更新もなんとか行うことができた。

銚子電鉄のユニークな商品の中にはこのネーミングで大丈夫なのだろうか?と心配になるものもある。どのような経緯で商品の開発やイベントなどの内容を決めてきたのだろうか。直接、銚子電鉄に聞いてみることにした。

質問に答えてくれたのは竹本勝紀社長である。「企画については日頃から社員と立ち話をよくするようにしている。雑談や立ち話から面白い企画が生まれることもある。会議の中から有用な意見が生まれることももちろんあるが、どちらかといえば、雑談から生まれることのほうが多い」。

会議は行っているが雑談の機会も大切で、社員たちからいろいろなアイデアが出ることが多いという。確かに雑談の中だからこそ、生まれる柔軟な発想や面白い内容があるのかもしれない。


22000形の運転台の窓から顔を出す竹本社長(写真:銚子電鉄)

「経営状態がまずい」が発端に

次にネーミングだ。「まずい棒」などのユニークな商品開発はどのように行われたのか。

「まずい棒は、私のビジネスパートナーであり銚子電鉄のアドバイザーである実業家の寺井広樹さんが発案者。当初は本当にまずいものを作ろうと2人で試行錯誤した。2年ほど経った頃、寺井さんが、思い切って“経営状況がまずいにしませんか?”と。それはいいと思い“経営状況がまずい”が、キャッチコピーになった」

さらには、「合言葉は、まずい、もう1本。というイメージで販売した。販売開始は2018年8月3日の破産の日。破産は縁起が悪いので、“破産はいやいや”という語呂合わせで、18時18分にした。寺井さんとの二人三脚で、開発した商品だ」。

また、「“電車にのってほしいも”は、当時の社外取締役が考えた。“再建もなか”は、社員の発案。再建の最中だと社員が言ってこのネーミングになった」。

続いてメディアでも話題になった映画「電車を止めるな!」の制作費についてである。

「実際のところ2400万円くらいかかった。現時点での興業収入は2800万円くらい。では400万円の黒字になっているかというと、当社の収入は約半分だ」

映画館と折半になるため、2800万円だと1400万円ほどということだ。製作費は回収できていない状況だ。

「2400万円はいろいろな費用。何度も撮り直しした。クラウドファンディングやスポンサーさんのご協力もいただいたが、それでも費用が足りなくて。私が借金して、どうにかした」

オリジナル商品のおかげで銚子電鉄が注目を浴び続けていることは多くの人が知るところだし、実際に経営の赤字を大幅に減少させている。しかしながら、銚子電鉄を長年利用している地元住民の反応は、どうなのだろう。

「自虐ネタでお菓子を販売したり、自虐ネタを言っていったりしている分には、人は傷つけていない。ただ、当社は皆さんに助けていただいている会社にすぎないので、やはり勘違いしてはいけないといつも思っている」


犬吠駅の売店(筆者撮影)

どのように地域に貢献するのか

竹本社長は、今後の銚子電鉄についてどんな考えをもっているのか。

「鉄道存続がかかっているといつも言っているが、例えば、存続自体を前提にした目的ではなくて、存続を前提として地域の皆さんにどう恩返しができるかを、もっと考えていかなくてはならない」

具体的には、「動画サイトやSNSで当社のPRをしているが、本来の鉄道事業の目的は鉄道による地域への貢献だ。それをもっとやっていかなくてはならないと思っている。全然足りていない。そういった使命をしっかりブラッシュアップしていく」。

具体的には、地域の事業者や地域の人たちと連携して、さまざまな商品やサービスを開発していきたいという。そのためにもさまざまなメディアで取り上げてもらう機会が大事であろう。

「メディアに取り上げていただけるのは本当にありがたい。当社の強みなんて何もないけども、多いときは、年間に200回程度各種メディア等頻繁に取材していただき、ありがたい限り。当社は経営状態が非常に厳しいが、厳しい厳しいって言っているだけではどうしようもないので、エンタメ鉄道と公言し、注目してもらえるようにしている」

確かにそのおかげもあってか、車両や設備の置き換えも進んでいるようで、今年の3月から運行を開始した元南海電鉄(2200系)の22000形が運行を開始した。銚子電鉄にとっては、ワンオーナー落ち(中古車の中古車ではない車両)は久しぶりだ。

現状の暫定的な1時間に1本のダイヤを最終的には、以前の30分ヘッド(1時間に2本)に戻したいという想いも語ってくれた。しかし、「最低でもやっぱり、4編成を堅持しないとダイヤを戻せない。利用者のことを考えて、もう1編成なんとか確保したい。4編成を維持できないと、ダイヤを守れない」。

では、そのためにはもう1編成導入するのか。

「それは予算の兼ね合いによる。補助金をいただいてという話になると思う。当社の負担は3分の1とはいえ費用がかかるので取得できるかどうか」

ちなみに、22000形と入れ替わりに引退した「大正ロマン電車」2001編成(2001+2501)は評判がよく、次回導入する車両についても、観光需要を考慮した観光列車にしたいと語っていた。

ユニークな発想が存続の力に

竹本社長は最後に、こう締めくくった。「鉄道は地域の広告塔であり情報発信地。地域に少しでも貢献するためにつねに何か行動していかねばならないと思っている」。

22000形登場時は「シニアモーターカー(ベテランの車両)」、「なんかいい銚子(南海・銚子)」というダジャレが注目を集めた。同社のダジャレや自虐ネタが飛び出してから数年たつが、はじめの頃は「まじめに鉄道業をする気があるのか」という心配の声もあったという。

だが、こういったユニークな発想や取り組みは、現在の銚子電鉄存続の大きな力になったことは間違いない。今後も銚子電鉄の動向に注目していきたい。


22000形の前に立つ竹本社長(写真:銚子電鉄)

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)