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「猫の角以外なんでもある」と言われていた北朝鮮の市場から、モノが消えつつある。

日々のおかずから電化製品に至るまでありとあらゆるものが売られ、北朝鮮のトレンドの発信地となっていた市場だが、当局は市場経済化の進展により民間に富が蓄積することが体制を脅かしかねないと考えているようで、締めつけを強めている。

その代表例が穀物の販売禁止だ。かつては協同農場から国営米屋「糧穀販売所」を経て消費者の手元に届く事実上の専売制度が実施されていた。だが、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、農民はより儲かる市場に穀物を卸すようになり、商品が入荷しなくなった糧穀販売所は開店休業状態に追い込まれた。それから30年を経て、かつての専売制度を復活させるべく、当局は市場での穀物の販売を禁じた。

それに続けて今度は、海産物の市場での販売も禁止された。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋は、咸興(ハムン)市の興南(フンナム)区域の市場で、今月から海産物の販売が禁じられたと伝えた。情報筋はこのようなことは今までになかったとして、「海産物はすべて国営の海産物商店で売るべしというのが当局の方針」だと述べた。

海産物商店は、区域に43ある洞(町)ごとに存在するが、1990年代中盤から海産物が入荷しなくなり、開店休業状態となり、建物は個人の商人に貸し出していた。賃料を国に収めることで、帳簿では販売計画(ノルマ)が達成できているという扱いにされていたのだ。

ところが、海産物卸商人は今月から、海産物を国営の海産物商店に納品しなければならなくなった。商店の立場からすると、賃料を受け取るよりも海産物を販売する方が儲かる。国も現金収入が得られるのでメリットが大きいものの、商人は収入が途絶えてしまう。商売はやめて、元から所属していた国営企業に復帰しろということなのだろうが、まともに食えない生活に戻れと言われても、そうやすやすと受け入れられないだろう。

ちなみに商店での値段はホッケ2匹が1500北朝鮮ウォン、ニシン2匹が4000北朝鮮ウォンで、市場で買うより若干安いかほぼ同じだ。

「穀物以外の販売は今までいっさい規制がなかった」と語った平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、今月から殷山(ウンサン)の市場で海産物の販売が禁止されたと明かした。

「海は国の資源なので、海で取れた海産物は国家財産であり、すべて国営商店で販売せよ」というのが当局から下された指示だという。

1980年代以前の北朝鮮では、国営の水産事業所に所属する漁船が、国家計画に基づいて海産物を獲って国家商業網に流通させていた。消費者は極めて安い国定価格で購入することができた。しかし、1990年代に燃料の供給がストップし、漁船は漁に出られなくなった。

そこで、トンジュ(金主、ニューリッチ)は水産事業所の漁船を借りるか、自身が所有する漁船を水産事業所の名義で登録するかして漁に出て、水揚げは一部を水産事業所を経て国に納め、残りは市場に卸していた。

自然発生的にできたこのようなシステムだが、それを国営のものに戻すというのが北朝鮮当局の考えのようだ。漁船に対する管理を強化することで、脱北を防ぎたいという意図もあるのだろう。

だが、政策は順調に進んでいるとは言い難い。

(参考記事:国家がどう頑張っても押し戻せない北朝鮮の「市場経済化」

漁船に必要な燃料の確保はいかに行うのかについて、いずれの情報筋も言及していない。燃料がなく出漁できなければ元も子もない。だからといって国が燃料を保証してくれるわけでもない。

糧穀販売所は当初、穀物の価格安定を掲げ、市場より安い値段で制限なしに穀物を販売したが、その価格差を利用して一儲けしようとする「転売ヤー」が続出し、購入に制限を設けた。また、決められた日に決められた量しか購入できない、ツケが効かないなど、使い勝手も非常に悪い。

市場での穀物販売禁止令が度々出されるも、商人は自宅で密売したりするなど、様々な手段で抵抗している。市場という自然に形成されるものを意図的に押さえつけようとする北朝鮮の政策は、果たして成功するのであろうか。