レントゲンで「異常なし」の膝・関節の痛み… 原因や治療法、費用目安を医師が解説

写真拡大 (全6枚)

レントゲン検査をしても、何も異常が見つからないのに膝や関節が痛い……。そんな体験をしたことがある人も多いのでは? もしかしたら、滑膜や脂肪体が原因かもしれません。オクノクリニックの奥野先生に詳しく教えてもらいました。

監修医師:
奥野 祐次(オクノクリニック東京表参道)

2006年3月、慶應義塾大学医学部卒業。放射線科医として血管内治療に従事したのち、大学院にて「病的血管新生」の研究を行い、博士号を取得。その後、江戸川病院で運動器疾患に対する血管内治療を専門とし、2014年4月に運動器カテーテルセンター センター長に就任。2017年10月に横浜にてOKUNO CLINICを開院。オクノクリニックの総院長就任。現在東京を中心に全国10院を運営。年間30回以上の講演に登壇。治療の認知と普及、指導のために、さまざまなメディア出演、論文執筆などの活動を展開。ヨーロッパの学会(CIRSE2023)にてインターベンショナル・ラジオロジーの進歩へ貢献した医師に贈られるAward of Excellence and Innovation in IR 2023を受賞。

「レントゲン検査をしても異常がない、膝や関節の痛み」とは?

編集部

膝などの関節に痛みがあるとき、レントゲン検査をしても原因がわからないことがあります。それはなぜですか?

奥野先生

レントゲン検査は主に骨の大きさ、形状、位置などに問題がないか確認することができる検査です。たとえば骨折などの外傷があればレントゲン検査で原因を見つけることができますが、炎症が痛みの原因となっている場合には発見することはできません。そのため、レントゲン検査をしても異常が見つからないことがあるのです。

編集部

レントゲン検査では、炎症はわからないということですね。

奥野先生

はい。膝が痛くなる原因に軟骨のすり減りが挙げられますが、膝が痛くなり始めるのは大体40代や50代で、その頃にはまだ軟骨がすり減っておらず、最初は膝に炎症が起きていることがほとんどです。そのためレントゲン検査をしても「異常なし」と言われるのです。

編集部

痛みの原因となる炎症には、どのようなものがあるのですか?

奥野先生

たとえば、滑膜の炎症が痛みの原因となっている場合です。滑膜とは、人間の関節内にある組織の一部のことをいいます。そもそも関節は骨と骨をつなぐ連結部分のことをいい、骨の表面は軟骨という水分の多い組織で覆われています。そして、関節は関節包という袋に包まれており、この関節包の内側や骨の表面にある薄い組織のことを滑膜といいます。

編集部

滑膜は、関節の内部組織なのですね。

奥野先生

はい。滑膜は滑液という液体を分泌し、関節の内部を満たしています。この滑液は軟骨に栄養を供給したり、骨が滑らかに動くように潤滑油の役割を担ったりしているのですが、実はこの滑膜が炎症を起こす原因となることがあるのです。

滑膜が痛みの原因になる仕組み

編集部

滑膜が痛みの原因になるとはどういうことですか?

奥野先生

滑膜が炎症を起こすと、滑膜がどんどん腫れ上がって分厚くなります。この滑膜にはたくさんの神経が分布しており、滑膜が分厚くなることで神経も増殖します。この滑膜に炎症が起きると炎症性サイトカインなど、痛みを引き起こす物質がたくさん作られ、神経を繰り返し刺激します。これにより痛みが生じるのです。

編集部

なるほど、そういう仕組みなのですね。

奥野先生

炎症性サイトカインは関節の変形も引き起こします。それにより、痛みはますます増幅します。

編集部

炎症が原因で痛みになるのですね。

奥野先生

また、滑膜には血管が豊富に分布していて、炎症が起きると異常な血管がたくさんつくられます。実は、人間の身体は「血管と神経が一緒になって伸びる」という基本ルールがあります。つまり、血管が増えれば神経も一緒になって増えるということ。そのため、余計に増えた神経から痛みの信号が脳に送られ、痛みを自覚するようになるのです。

編集部

神経が増えることで、痛みが生じるのですね。

奥野先生

はい、正常な神経と異なり、異常に増殖した神経はいびつな形をしていて、たとえば階段の昇り降りなど、普段ならどうということのない動作でも、痛みを生じさせてしまいます。

編集部

滑膜炎のほかにも、レントゲンに写らない痛みの原因はありますか?

奥野先生

そのほかにも脂肪体というものがあります。脂肪体もレントゲンでは写らないため、意外と見逃されていることが多いというのが実情です。

編集部

脂肪体とはなんですか?

奥野先生

膝のお皿のすぐ下にあり、脂肪でできた部分です。クッションのような役割をしていて、Fat padとも呼ばれています。脂肪体は太っている、痩せているということに関係なく、誰もが持っています。

編集部

脂肪体がなぜ、痛みの原因になるのですか?

奥野先生

最近になり、脂肪体のなかにはたくさんの神経線維が走っていること、そして、その周囲にはたくさんの血管があることがわかってきました。そのため、この脂肪体に炎症が生じると、神経線維が多いだけに、非常に強い痛みになります。

滑膜や脂肪体が原因の痛みはどう治療するのか?

編集部

滑膜や脂肪体が原因の場合、どのようにして治療するのですか?

奥野先生

こうした痛みは「異常な血管」によって引き起こされると考えられており、この「異常な血管」をモヤモヤ血管と呼んでいます。当院を例にすると、これに対しカテーテル治療を行うことで症状の改善を促しています。

編集部

カテーテル治療で炎症による痛みが治るのですね。

奥野先生

はい。アメリカでは2022年、ドイツでは2023年に保険適用とされています。日本ではまだ自由診療ですが、今後は保険が適用になるのではないかと予測されています。

編集部

どのような治療ですか?

奥野先生

「運動器カテーテル治療」と呼ばれ、モヤモヤ血管のために開発された極めて細いカテーテル(細いチューブ)を使って薬剤を注入します。局所麻酔で行われ、治療時間は片膝30分くらいです。

編集部

どのような仕組みになっているのですか?

奥野先生

薬剤の粒子がモヤモヤ血管を詰まらせ、血管を撃退します。それにより、痛みの原因を消失させることができるのです。

編集部

費用の目安はどれくらいですか?

奥野先生

自由診療となるため、医療機関によって異なります。また、治療をする部位によっても異なるので詳しくは医療機関にご相談ください。たとえば当院では、膝の痛みで片側治療の場合は29万5000円になります。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

奥野先生

従来だと、たとえ膝や関節に痛みがあってもレントゲンで異常がなければ「様子を見ましょう」と医師に言われることが多く、「特に治療の必要はない」とされるのが一般的でした。しかし、現在は早めに炎症を抑えることで、痛みの解消が期待できますし、また将来起こりうる関節の変形も防げるといわれています。痛みが強い時期に何も有効な治療をしないで放っておくと、ますます変形が進んでしまいます。レントゲン検査で「異常がない」といわれても痛みが持続するようなら、早めに専門の医療機関を受診することをお勧めします。

編集部まとめ

膝や関節の痛みは命に関わるものではありませんが、多くの場合、生活の質を低下させ、日常生活に不便をもたらします。痛みは一度の治療で改善できることも多いので、困ったことがあれば早めに専門医に相談するようにしましょう。

近くの整形外科を探す

医院情報

オクノクリニック東京表参道

所在地〒107-0062 東京都港区南青山5-6-26 青山246ビル3F

アクセス東京メトロ半蔵門線・銀座線・千代田線「表参道」駅より徒歩1分

診療科目外科、放射線科、整形外科

0120-305-598

ホームページ