ついに決勝!「THE SECOND」見所を"徹底解説"
『THE SECOND』番組公式サイトより引用
5月18日、結成16年以上を対象とした漫才の大会『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』最終決戦「グランプリファイナル」がいよいよ開催される。
ギャロップ、マシンガンズは大活躍
昨年の第1回目で優勝を果たしたギャロップは、関西の劇場を中心に引っ張りだこになった。
コンビ20周年を記念した初の全国ツアーも成功させ、その千秋楽で毛利大亮が「漫才出番で出たときのお客さんの反応がまったく違う」と語っていたのが印象深い。吉本興業の常設劇場でトリを務める新看板を目指し、現在も邁進している。
準優勝したマシンガンズもバラエティーを中心に露出が増加。とくに滝沢秀一がSNS上に投稿した自撮り写真が「かっこいい」と評判を呼び、コンビで雑誌『anan』(マガジンハウス)のグラビアを飾ったほか、デジタル写真集『抱かれずにいられない』を発売するなど、40代後半にして華々しい再ブレークを果たしている。
まさに初回から中堅、ベテランに夢を与えた賞レースだ。それだけに今年も予選の段階から熾烈な戦いが繰り広げられている。
基本的なルールは昨年と変わらない。一般審査員である会場の観客100人が「とても面白かった:3点」「面白かった:2点」「面白くなかった:1点」で採点し、対戦するたびに勝敗が決定するネタバトルだ。
今年のファイナリストは、タモンズ、ハンジロウ、ななまがり、金属バット、ザ・パンチ、タイムマシーン3号、ガクテンソク、ラフ次元の8組。2年連続で勝ち上がったのが金属バット1組であることからも、“プロのみの大会”というハードルの高さが見て取れる。
では、今大会の見どころはどこにあるのか。初戦の組み合わせから考えてみたい。
■「沖縄vsアウトロー」対決
ハンジロウvs金属バット(写真:番組公式サイトより引用)
まず1戦目は、「ハンジロウvs金属バット」だ。まったく芸風が違うコンビだからこそ、ここでの結果が大会に大きな影響を与えかねない。
ハンジロウのたーにーとしゅうごパークは、幼稚園からの幼なじみ。高校時代から沖縄のエンタメ界で頭角を現わし、2009年の上京後も深夜番組のレギュラーに抜擢されるなど幸先の良い滑り出しを見せた。
しかし、その後は鳴かず飛ばず。アルバイトで食いつなぎ、コロナ禍に入ってかもめんたる・槙尾ユウスケの店「マキオカリー」で働いたのをきっかけにカレー屋を始めた。2022年に「しゃもじ」から「ハンジロウ」に改名。どの組よりもハングリー精神は強いはずだ。
沖縄の方言を使った「英語の授業」、たーにーのキャラクターが光る「セクハラ」といったコントのイメージが強いが、漫才でもその持ち味を生かしつつ見事な掛け合いを見せている。グランプリファイナルでは、ぜひ息の合ったコンビ芸で会場を沸かせてほしい。
正統派しゃべくり漫才の金属バット
一方、金属バットの小林圭輔と友保隼平は、高校時代から知る同級生コンビ。ハンジロウとは対照的に、アウトローな芸風でカリスマ的な人気を獲得してきた。
とはいえ、見た目に反して漫才のスタイルは正統派のしゃべくりで、2018年から2022年まで5年連続でM-1準決勝に進出した実力派としても知られる。
昨年、大宮ラクーンよしもと劇場で彼らの漫才を観た折、「さっきまで楽屋で寝てた」という友保が立て続けにしゃべりなかなかネタに入らない姿に腹を抱えて笑った。マシンガンズとは別の意味で、2人には“危うい魅力”がある。今大会では、その部分が飛び出すかも含めて彼らに期待している。
■実力派2組の「大阪ダービー」
ラフ次元vsガクテンソク(写真:番組公式サイトより引用)
続いての対戦は「ラフ次元vsガクテンソク」。ともに大阪の劇場で切磋琢磨したコンビなだけに、お笑いファンから「大阪ダービー」との声も上がった注目カードだ。
ラフ次元の梅村賢太郎と空道太郎は、NSC大阪校で出会った奈良出身のコンビ。テンポの良い掛け合いと構成力に定評があり、「関西演芸しゃべくり話芸大賞」では2018年、2019年に準グランプリ、2020年には大賞を受賞。M-1で準々決勝止まりという結果が信じがたいほど巧みな漫才師だ。
昨年の「ノックアウトステージ16→8」で2人が厚い信頼を寄せる先輩・ギャロップに敗れたが、会場のウケ具合はほぼ変わらず。一般審査の点数もわずか1点差(284点と285点)だっただけに、今年こそグランプリファイナルで結果を残したいところだろう。
ちなみに彼らは、結成19年目にして初めて全国ネットの賞レースで漫才を披露することになるという。ぜひ多くの視聴者にその実力を見せつけてほしい。
一方、ガクテンソクのよじょうと奥田修二は、中学・高校の同級生。20代に入ってプール監視員のアルバイトで偶然再会し、コンビ結成間もなく2005年の「M-1グランプリ」で準決勝進出を果たしたコンビだ。
2013年に「NHK新人演芸大賞」の演芸部門で大賞を獲得し、2015年の「ytv漫才新人賞」で優勝するなど数々の賞を受賞。しかし、M-1ではあと一歩及ばず、ついに2020年のラストイヤーまで決勝進出は叶わなかった。
その後の『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)で、サンタに扮した千鳥・大悟が2人にダウンジャケットと新幹線のグリーン券をプレゼントし労っていたのを思い出す。昨年4月、彼らは活動拠点を東京に移した。心機一転、今大会でM-1の雪辱を果たしたいところだろう。
3レースのトリプルファイナリストも
■クセ強漫才と最終兵器「大宮ダービー」
ななまがりvsタモンズ(写真:番組公式サイトより引用)
「ななまがりvsタモンズ」も見応えのある対戦になりそうだ。ラフ次元vsガクテンソクが「大阪ダービー」なら、こちらは「大宮ダービー」と呼ぶべきか。大宮ラクーンよしもと劇場で腕を磨く2組の対決となる。
ななまがりの森下直人と初瀬悠太は、大阪芸術大学の「落語研究寄席の会」出身。先輩にミルクボーイ、後輩に空気階段・鈴木もぐら、オダウエダ・植田紫帆と、後に賞レースのチャンピオンとなる芸人を多く輩出したお笑いサークルで2人は出会った。
2019年に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の企画「新元号を当てられるまで脱出できない生活」で広く知られることになったが、実は『R-1グランプリ』(森下)、『キングオブコント』『THE SECOND』、3つの賞レースのトリプルファイナリストになった数少ない芸人でもある。
独特なボケを繰り出す森下、コミカルなリアクションで笑わせる初瀬。クセの強い彼らの漫才が、大会を制することになるか。
タモンズの大波康平と安部浩章は、高校時代に出会った同級生コンビだ。関西出身ながら「すぐ目立てる」と考え、2005年に2人でNSC東京校に入学。その後、ヨシモト∞ホールを中心に活動し、2012年、2013年には『THE MANZAI』の認定漫才師50組に選出されている。
2014年から大宮セブンの結成に伴ってメンバー入り。マヂカルラブリー、GAG、すゑひろがりず、囲碁将棋、ジェラードンら後に賞レースを沸かせるメンバーの中で切磋琢磨した。そんな2人は“大宮の最終兵器”と呼ばれている。
じっくりとした掛け合いからジワジワと上がっていくボルテージ。いぶし銀のベテラン漫才師を思わせる、豊かな声色と抑揚で勝利の女神を引き寄せるか。
かつてのM-1ファイナリストの熱い戦い
■貫禄さえ感じるベテラン対決
ザ・パンチvsタイムマシーン3号(写真:番組公式サイトより引用)
そして、最後の対戦が「ザ・パンチvsタイムマシーン3号」。どちらもかつてのM-1ファイナリストであり、年輪を重ねた味わいも相まって審査が難しいバトルになりそうだ。
ザ・パンチのパンチ浜崎とノーパンチ松尾は、高校在学中に結成した同級生コンビだ。2008年、当時のラストイヤー(結成10年)でM-1決勝に進出。結果は最下位と振るわなかったが、会場の緊張感と芸風とのギャップもあり強烈なインパクトを残したのは間違いない。
当初はナルシストな浜崎に対し、松尾が「お願〜い、死んで〜!」と嘆くようにツッコむスタイルだったが、倫理性を欠くワードにアレルギーを起こす観客が増え始め、徐々に笑いも減っていった。2011年の東日本大震災を機に“不謹慎”だと判断し封印。以降、現在の正統派に寄せたスタイルにシフトしている。
2019年には、浜崎が闇営業騒動で無期限謹慎処分に。長い不遇の時期を乗り越え、27年目にして今大会のファイナリストになった。もはや貫禄さえ感じるバカバカしさがどう評価されるのか注目したい。
現在、バラエティーやYouTubeで高い人気を誇るタイムマシーン3号の山本浩司と関太。2人は東京アナウンス学院で出会い、2000年にコンビを結成した。モーニング娘。ら女性アイドル中心の芸能事務所(現在は太田プロ所属)に10年以上在籍していた珍しい芸人でもある。
彼らはデビュー間もなく頭角を現わした。ネタ番組や若手を中心とするコント番組に出演し、2005年には関の見た目を生かしたデブネタでM-1決勝進出を果たしている。
しかし、優勝したブラックマヨネーズの“人間性”を押し出す漫才に面食らい、しばし迷走。2015年に復活したM-1で決勝4位となり、ラストイヤーで深い霧を抜け出した。
今や関の持ち味を軸に、手を変え、品を変え、あらゆるパターンを生み出す職人だ。そんな異常な器用さを見せる彼らが、今大会のトップに駆け上がっていくかもしれない。
松本人志が務めたアンバサダーはなくなる
昨年と同じく、MCは東野幸治。ダウンタウン・松本人志が務めた“アンバサダー”はなくなり、今年はくりぃむしちゅー・有田哲平が“ハイパーゼネラルマネージャー”、博多華丸・大吉が“スペシャルサポーター”として参加する。
これまで賞レースとほぼ無縁だった有田が、どんなふうにファイナリストと絡むのか。その点にも注目しつつ、本番を心待ちにしている。
(鈴木 旭 : ライター/お笑い研究家)