なぜ? 岡山県の“用水路”で転落事故… 多発する理由は? 警察や自治体が明かす原因とは
度々話題となる岡山県の「用水路転落事故」 なぜ起きるのか?
2024年5月11日に、岡山県の用水路に5歳の男児が転落する事故が発生しました。
以前から一部で「人食い用水路」とも言われている岡山にある用水路。
なぜ事故が相次ぐのでしょうか。
毎年歩行者や自転車などが用水路に転落し、亡くなったり怪我をしたりする事故が発生しています。警察庁が公表した「令和4年における水難の概況」によると、2022年中、用水路に転落して亡くなった人は68人で、過去5年の統計の中で最も多くなりました。
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2024年5月11日には、岡山県岡山市南区の用水路に5歳の男児が転落し、意識不明の重体となる事故も起きています。
用水路は住宅地や農地など身近な場所にありますが、柵やガードレールなど転落を防ぐ設備がない場所も散見されます。では、どのような点に注意すべきなのでしょうか。
実は、今回男児の転落事故が発生した岡山県は用水路が多い都道府県として知られています。
特に岡山県南部に位置する岡山市や倉敷市は干拓地が広がっているため、用水路の密度(1km2あたりの水路延長)が全国平均の約5倍です。
この用水路の多さが影響してか、2013年と2015年には転落事故の死者数が全国ワースト1位となったほか、2013年から2015年の3年間で用水路転落事故による救急出動が1143件、死者数が79人に上りました。
また2016年の大雨の際には用水路の水が道路と同じ高さまで増水し、用水路を道路と見間違えたドライバーがクルマで転落する事故も発生しています。
このときの映像は全国で大々的に報道され、インターネット上では「人食い用水路」「魔の用水路」などと呼ばれる事態になりました。
では、なぜ岡山県の用水路では、転落事故が多発しているのでしょうか。過去に岡山県警察への取材では、以下のように説明していました。
「特別原因や理由が判明しているわけではないのが実情です。
しかしまっすぐな道を歩いていて急に用水路に転落するという例はよくあります。
また、高齢者の事故や、夜間の転落事故が多いため、夜間で周囲がよく見えず、そのまま用水路に突っ込んでしまったというケースも。
さらに高齢者でハンドルやブレーキ操作がおぼつかず、用水路に転落してしまったという事例が多いのではないかと思います」
そのような状況の中、岡山県は転落事故を防止すべく「用水路等転落事故対策ガイドライン」を策定しています。
同ガイドラインでは、2013年1月から2016年12月までに消防が救助出動した転落事故について分析し、次のような傾向をまとめています。
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●65歳以上の高齢者による事故が半数以上を占めており、死亡・重傷となる割合も64歳以下と比べて高い。
●徒歩時の事故が全体の約53%、次いで自転車乗車時の事故が約27%と多くを占めている。
さらに2016年9月から2019年9月までに発生した事故の調書を分析した結果では、次のような傾向も明らかになっています。
●転落事故は年間を通じて発生しているが、秋冬にかけて増加し、12月が最も多い。
●昼の転落事故件数は352件、夜間は326件と同程度であり、夜間の転落事故の78%が街灯のない箇所で発生している。
●転落箇所は「平行部」(道路と水路が平行している箇所)が大半を占める。
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これらの分析によると、明るい昼の時間帯にも転落事故が多く発生しており、昼であっても油断は禁物といえるでしょう。
加えて、同ガイドラインでは「転落する危険性が高いと考えられる箇所」として、進路上やカーブの外側、交差点の進行方向に用水路がある箇所などを挙げています。
そして、岡山県はガイドラインをもとに優先度の高い用水路から整備を進めてきました。
また過去に岡山市の担当者に行った取材では、事故の原因や対策について次のように話しています。
「岡山県で事故が多い要因には総延長約4000kmと、ほかの地域と比較して用水路が多いことや、用水路が住宅地に隣接していること、そして柵のない用水路が多いなど、さまざまな原因が考えられます。
対策としては、転落防止柵、ガードレール、視線誘導標、ラバーポール、区画線、大型反射材、道路鋲を設置しています」
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またこれらの対策と合わせ、チラシ・ポスターなどによる広報活動や用水路の転落防止を盛り込んだ交通安全講習などソフト面での対策も実施しています。
前出の担当者によると、2016年〜2018年までの3年間で事故件数は397件、死亡件数30件と減少傾向がみられ、一定の事故防止効果がうかがえました。
とはいえ、今回岡山市で発生した事故をはじめ全国では用水路での転落事故が後を絶ちません。
用水路の近くを通行する際は十分に注意することはもちろん、夜間は自転車や手持ちのライトを点灯して周囲を確認する、日頃から用水路の位置を把握しておくといった対策が重要です。
その上で万が一の転落に備え、自転車の場合はヘルメットを着用しておくことも大切といえるでしょう。
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現在、各自治体の予算面などからすべての用水路に転落防止措置を講じるのは難しい状況であり、通行者自身が注意する必要があります。
とりわけ用水路が増水しているときは道路との境目が分かりにくいこともあるため、近くを通行しない、通行する場合でも道路の端に寄りすぎないことなどを心がけましょう。