新学期を迎えた北朝鮮の小学校(画像:労働新聞)

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北朝鮮北東部の清津(チョンジン)で30代女性が摘発され、6カ月の労働鍛錬刑(短期の懲役刑)の処分を受けた。女性の容疑とは、「子どもたちにダンスを教えた」というものだった。一体どういうことなのだろうか。

金正恩総書記は、「全民科学技術人材化、人材強国化実現」を掲げ、教育に力を入れている。しかし、無料のはずの教育費の支払い強制、思想教育への偏重、学校とは何の関係もない金品の供出強制など、公教育の現場は荒れに荒れている。

そんな中で大流行しているのが、家庭教師や塾などの「私教育」だ。子どもに外国語、音楽、ダンスはもちろん、公教育で習うはずの数学や朝鮮語に至るまで、様々な私教育が存在しているが、当局は取り締まりを強化していると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

まずは清津在住で小3の子どもを持つ親の、公立学校についての意見を聞いてみよう。

「学校では『ちびっ子計画』から始まり、様々な口実で現金を徴収される。さらに担任の先生からの『お願い』を聞き入れていると、1カ月の費用は70万北朝鮮ウォン(約1万2600円)以上になる」

この「ちびっ子計画」とは、金品の供出を指す。くず鉄、古紙、古ゴム、ハギレ、薪、ペンキ、石灰、窓ガラスなどなど、様々な物品または現金の供出を学校から求められる。また、教師の「お願い」とは、生活費の足しにするための金品の要求、要するにワイロだ。出さなければ子どもにどんな不利益があるかわからないという親の心理を利用したゆすり、たかりを行うのが北朝鮮の教育機関なのだ。

そんな公立学校に嫌気して、子どもを登校させない選択をする親もいる。

「学校でまともに教えてくれるものはなく、それならば家庭教師を付けた方が百倍マシだと考えて、子どもを学校にやらず、家で勉強させている」

情報筋は、公立学校の現状についてこのように説明した。

「最近は、子どもを学校にやってもチョソングル(ハングル)すらまともに教えてもらえない。その一方でカネをせびられる。そんなカネがあるなら個人教師を雇って家で勉強させたほうがいいと考える親が多い。それで家庭教師の人気が日々高まりつつある」

国営の工場、企業所、機関では昨年末から段階的に、大幅な賃上げが行われたとは言え、月給は依然として3万北朝鮮ウォン(約540円)から5万北朝鮮ウォン(約900円)程度で、そのほとんどが食費として消える。70万北朝鮮ウォンの負担など考えられないという貧しい人々も少なくないが、そんな親たちですら家庭教師を雇って子どもに教育を施す。

「カネもチカラもない家は『経済的に苦しい』との口実で、金持ちの家は『子どもが病気だ』と偽って、子どもを学校にやらず、自宅で家庭教師と勉強させている」(情報筋)

ワイロを要求されたり、金品の供出を求められたりせず、良質かつ必要な科目だけの教育が受けられる家庭教師の方がむしろ経済的だと親たちは考えるようだ。

当然のことながら、学校の出席率はダダ下がりだ。極めて深刻な状態だとの報告を受けた朝鮮労働党咸鏡北道委員会は、非社会主義グルパ(取り締まり班)を動員して、家庭教師の取り締まりに乗り出した。冒頭のダンス教師は、見せしめとして懲役刑に処されたというのが情報筋の説明だ。

女性は、清津師範大学を卒業したのに、学校教師として働かず、自宅で歌とダンスを教えていた。「祖国の将来を背負って立つ次世代を育成する革命家」としての役割を果たさず、生活のために金儲けをしていたことが問題視されたのだ。

また、先月20日には、小学生3人に数学を教えていた40代女性も摘発され同様の処分が下された。元々は初級中学校(中学校)の数学教師だったが、月給だけでは到底生活できず、自宅で子どもたちに数学を教えていたが、教え方がうまいと評判になっていた。

北朝鮮当局は、すべての国民をなんらかの組織に所属させて統制を行う。個人で勝手に儲けられるとまずいのだ。それ以上に問題なのは、「革命を背負って立つ次世代」である子どもたちが学校に通わなくなると、思想教育ができなくなってしまうことだろう。