ホンダは「菀シリーズ」の現地開発を通じて、中国の部品サプライヤーとの協力関係を深める(写真はホンダ中国のウェブサイトより)

日本の自動車大手のホンダは、中国市場にEV(電気自動車)専用の新ブランドを投入する。同社の中国事業統括会社である本田技研工業中国投資(ホンダ中国)が、4月16日に発表した。

「菀(イエ)シリーズ」と名付けられた新ブランドから、2026年までに6車種のEVを投入する。それらのうち「菀S7」と「菀P7」の2車種は2024年末までに、フラッグシップの「菀GT」は2025年に発売する計画だ。

ホンダ中国は発表会の席上で、2035年までに中国市場で販売する新車をすべてEVにするという(2023年4月に掲げた)目標は不変であると強調。急速なEVシフトが進む中国市場に背水の陣でコミットし続ける姿勢を改めて示した。

中国サプライヤーと関係強化

ホンダは中国市場向けのEV専用ブランドとして、2022年から「e:Nシリーズ」をすでに展開している。

「菀シリーズとe:Nシリーズは中国で同時に販売する。ブランドとしての位置付けは、菀シリーズのほうがe:Nシリーズよりも上位になる」

ホンダの中国本部長を務める五十嵐雅行氏は、財新記者の取材に対してそう述べ、次のように強調した。

「菀シリーズのプラットフォーム(車台)は、中国の研究開発チームが中国市場のニーズを見据えて開発している。そのために、ホンダは中国の部品サプライヤーとの協力関係を深めている」

部品サプライヤーとの協業の具体例として、ホンダ中国の副総経理(副社長に相当)を務める宮原哲也氏は、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の社名を挙げた。

「菀シリーズにはファーウェイが開発した(立体的な映像を表示できる)ライトフィールドディスプレーを採用する。ファーウェイとはその他の分野の協力についても話し合っている」(宮原氏)


EVの強化だけでなく、ガソリン車の事業をどう軟着陸させるかも重要な経営課題だ。写真は広汽ホンダの主力工場(合弁相手の広州汽車集団のウェブサイトより)

中国の自動車市場では、EVシフトに付随してクルマのスマート化が急速に進行。消費者のマイカー選びでは、より高度なスマート機能を持つEVやPHV(プラグインハイブリッド車)を選ぶケースが増えている。

「EVやPHVの市場シェアが上昇し続ける中、中国のエンジン車の市場は急速に縮小している。ホンダとしては、この状況に素早く適応しなければならない」。五十嵐氏はそう強い危機感を示した。

エンジン車の軟着陸も課題

中国市場のEVシフトへの対応が(中国メーカーに比べて)出遅れたことに関して、五十嵐氏はそれを率直に認めるとともに、エンジン車メーカーの戦略転換の難しさも漏らした。

「自動車メーカーの経営は、EVやPHVの推進ばかりでなく(既存の)エンジン車事業にも目配りしなければならない。例えば(エンジン車の)生産能力を削減すべきかどうかなども、非常に重要な経営課題だ」

ホンダはこれまで、広汽ホンダと東風ホンダという2つの合弁企業を主軸に中国事業を展開してきた。販売の大半は今もエンジン車であり、2023年の中国市場での総販売台数は約123万4000台と前年比10.1%減少した。


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日本経済新聞の報道によれば、ホンダは中国工場の生産能力を2割削減する意向とされ、合弁会社の中国側パートナーと協議しているという。

ホンダ中国の宮原氏は財新記者の質問に対し、生産能力削減の具体的な計画について明言するのを避け、「エンジン車とEVの生産能力(の増減)は市場の変化に合わせていく」と述べるにとどめた。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は4月16日

(財新 Biz&Tech)