「先延ばしをしてしまう自分」に悩んでいる人は、「心の勢い=モメンタム」が下がっているからかもしれません(写真:Xeno / PIXTA(ピクスタ))

「先延ばし」は多くの人にとって悩みの種です。

「とにかく1分だけやる」「作業をできるだけ小さく分けてやる」「ご褒美を用意する」

「先延ばし」を克服する本や、コツは世の中にあふれていますが、そのコツさえ実行するのを先延ばしにしてしまう!そんな方が多いのではないでしょうか。

そんな「ずぼら」だけど、変わろうとしている「マジメ」な人のために、禅という新たな視点から行動する技術をまとめたのが新刊『クヨクヨしない すぐやる人になる 「心の勢い」の作り方』です。

著者である禅僧・精神科医の川野泰周氏と経営コンサルタントの恩田勲氏によると、マインドフルネスのルーツである禅には、「心を落ち着かせる」要素だけではなく、「心を勢いづける=モメンタム」の要素も多く含まれていると言います。

以下では、「心の勢い=モメンタム」について解説します。

足りないのは「やる気」より「心の勢い」

「朝、起きたけど、スマホを見てしまってベッドから出られない」

「しなくてはいけない電話を、まだかけられていない」


「提出しなくてはいけない書類を出せていない」

毎日このように「先延ばしをしてしまう自分」に悩んでいるのは、あなたの「心の勢い=モメンタム」が下がっているからかもしれません。

モメンタムとは、心の勢いづけのこと。

本来モメンタムは、物理学における運動量や推進力を指すことが多い言葉です。また投資の世界では、相場の勢いのことを、「今日のモメンタムは上向きだ」「モメンタムが弱くなっている」と表現したりします。

同様に、私たちは時々、勢いという言葉で「ある状態」の心を表現します。

人生には勢いが大事だ、あの人は勢いがある、勢いで結婚しました、などなど。

「心の勢いって何?」と、真剣に考えたことがある人は少ないかもしれません。

でも、心の勢いが「ない」状態なら、皆さん心あたりがあると思います。

「電話一つかけるのに、ダラダラ、グダグダ、ためらっている」

「資料作成の締め切りが迫っているのに、面倒くさくて、先延ばし」

「体はすこぶる元気、睡眠時間だって十分。なのに心がついていかない」

「どうして、こんなに気分がパッとしないんだろう?」

「最近どうも頭がスッキリと働かない。集中ができない」

そこにいるのは「すぐ動けない自分」です。

「動けない自分」は「本当の自分」ではない

こんな毎日が続くと

「ああ、またやってしまった」

「だから自分は、ダメなんだ」

と、まるで 「すぐ動けない自分」こそが、自分自身の本質かのような錯覚が生じ、余計に気分が落ち込んでしまうようになります。

そう自分を責めたくなるのは、「すぐ動けない自分」とは正反対の人も、いるからです。

やるべきことを、すぐやれる人

さっきまでコーヒーを飲みながらのんびりと時間を過ごしていたと思ったら、次の瞬間スッと立ち上がって、サクッと行動に移せる人。

あなたのまわりには、そんな「すぐ動ける人」は、いませんか。「面倒くさい」「失敗するかもしれない」「なんだか疲れている」「何の意味があるのかわからない」「明日やればいいか」といったネガティブな想念は、多かれ少なかれ誰にでもあるもの。

しかし、それを突破できる人とできない人がいるのです。

なかなか動き出せない人と、すぐに動ける人の違いは、どこにあるのでしょう。

やる気や、根性でしょうか。


なんでも後回しにしていて動けない自分は、本来の自分ではない(イラスト:『「心の勢い」の作り方』より)

それとも、持って生まれた性格でしょうか。

確かに、やる気と根性のボルテージが高く備わっている人は、すぐに動ける傾向があります

幼い頃から「この子は活発で」と親に褒められて育った人なのかもしれません。

そのような人はあれこれ考える前に行動できて、やるべきことを先延ばしにすることもありません。

でも、私たちはこうも思うのです。

やる気があってもなお、やる気に火をつける「着火剤」を、私たちの心は必要としています

着火剤がなければ心の勢いは生まれず、電話一つかけるのだって苦労します。

逆に、心に勢いがあれば、さまざまな理由で行動をためらいがちな私たちを、前へ前へとプッシュしてくれるでしょう。それは、仕事や人生を大きく好転させる力になるに違いありません。

ChatGPT創業者も「勢い」を重要視

モメンタムの効果にいち早く注目したのは、海外のビジネス界でした。

いま世界を席巻している生成AI「ChatGPT」を開発したアメリカの起業家サム・アルトマンも、モメンタムに注目した一人です。

彼は投資家として数百社ものスタートアップ企業を見てきた経験から、彼は世界最高学府の一つであるMIT(マサチューセッツ工科大学)の授業に登壇した際に「スタートアップに最も大切なのは、モメンタムだ」と断言しています。

スタートアップ企業が最も大切にするものは、斬新な事業アイデアでも、投資家から集めた資金でもなく、行動する勢いだ、というのです。

大企業のようにヒト・モノ・カネに恵まれていなくても、失敗するリスクがあってもなお、まず、動いてみる

動き続けるなかで少しずつ成果を得て、学び、力を蓄えながら、道なき道を開拓していく

そんなスタートアップの精神は、モメンタムに由来する。サム・アルトマンは、そう言いたかったのではないでしょうか。

モメンタムとは、人生を切り開く力です。

では、どうしたらモメンタムを上げることができるのでしょうか。

ここでは、一番簡単な方法を紹介します。

「三三七拍子」で呼吸を行う

実は「呼吸」も、モメンタムに影響します。

例えば、クンダリーニヨガに伝わる呼吸法「火の呼吸」はモメンタムを高めるために使えます。

ただし、本格的な火の呼吸は難しいので、ここでは簡易版を紹介します。
背筋を伸ばして、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と息を短く、強く吐いてください。

わかりやすく「ハッハッハッ、ハッハッハッ、ハッハッハッハッハッハッハッ」と、三三七拍子にしても結構です。

火の呼吸をすると激しい運動をした後のように心拍数が上がるため、アスリートのトレーニングにも取り入れられています。

達人級になると、呼吸を用いて心拍数を1分あたり200回ぐらいまで上げることができるそうです。

しかし、一般の方は、無理は禁物。

多くても、5〜10回にとどめておきましょう。

やりすぎると酸素過多による過呼吸を来す恐れがあります。

特に、心臓の血管系に不安がある方は控えてください。

なぜ、呼吸がモメンタムに影響するのかというと、自律神経が関わっているからです。

火の呼吸は交感神経に作用します。

交感神経とは身体が活動的になるときに優位になる神経のこと。

モメンタムに着火させるための呼吸ともいえます。

「呼吸瞑想」のように、リラックスにつながるものもあります。

心静かにゆっくり呼吸をすると、リラックスしているときに優位になる神経、副交感神経に作用します。

そのため呼吸法を覚えると、気持ちを上げるのも下げるのも、ある程度コントロールできるようになるのです。


呼吸を速めるだけで、モメンタムは簡単に上がる(イラスト:『「心の勢い」の作り方』より)

(川野 泰周 : 臨済宗建長寺派林香寺住職/精神科・心療内科医)
(恩田 勲 : JoyBizコンサルティング代表取締役社長/一般社団法人日本モメンタム協会理事)