また、エヌビディア社以外ではサーバー間でデータのやり取りを行う高性能通信チップを提供するブロードコム社やマーベルテクノロジー社に注目しています。ハイパースケーラーを中心にデータ処理能力を高めるために単体ではなく大量のAIサーバーで並列処理を行うための高性能通信チップの需要が拡大しており恩恵が大きいと判断しています。

 データセンター向け以外では高性能PC需要の高まりに期待しています。2023年11月にシリコンバレーにある半導体各社を取材しましたがPCやスマホ向けに対しては明るい話題が増えてきた印象を持ちました。実際にPCは昨年半ばに在庫調整が終了、インテル社やマイクロン社などの業績は底打ちし徐々に回復しつつあります。2024年はWindows10のサポート切れが2025年に迫っていることやCopilotなど生成AI機能を搭載したWindows12が発売されることもあってAI PCへの買い替え需要が盛り上がりそうです。なお、足元で開発されている生成AIサービスは、マイクロソフト社のCopilotやアドビ社のFireflyなど基本的にはビジネス用途向けのものが多く、企業で使われるのであればまずはPCのアップグレードが必要となりそうです。

川上氏:今後の業界構造の変化などに対してはどう考えていますか?

加藤氏:AI向け半導体としては、AMD社のMI300シリーズやインテル社のガウディシリーズなどがあり、AI開発会社もエヌビディア1社だけに依存することを避けたいという意識が働きますから、AMD社やインテル社の製品も採用しています。しかし、AI開発プラットフォームであるCUDAを押さえている強みは大きく、なかなかエヌビディア社に代わる企業の台頭が考えにくい状況です。AI市場が成熟し、使われる半導体が一般化するような市場にならない限りは、エヌビディア社の強さは揺らがないのではないかと思います。

◆半導体サイクルを超える長期成長を捉える「つみたて投資」

川上氏:半導体産業にはサイクルがあり、業績の好不調の波も大きい産業というイメージがあります。これまで好調な運用成績を残していますが、どこかのタイミングで不調の波がやってくる可能性はないのでしょうか?

加藤氏:たしかに半導体市場にはサイクルがありますが、それらのサイクルを乗り越えて長期的に高い成長を遂げてきた市場であり、今後も長期的に成長が見込まれる市場と考えています。

 以前の半導体市場はPCやスマホなど特定製品の需要変動の影響を大きく受け、収益や株価の変動が激しい業界として知られ、「短期的な景況感の影響を受けやすい」という特徴がありました。半導体市場のサイクルは3年〜4年で繰り返され、2年〜3年の拡大期の後で1年程度の調整期がありました。現在は2023年半ばに市場が底入れして拡大期に転じたところと見ています。拡大期を2年〜3年とすると2025年半ば〜2026年半ばまでは拡大基調が続くと期待されます。株価は半年先くらいで動いていますので2024年末から2025年末くらいまでの株高があってもおかしくないといえます。

 ただ、今回の半導体サイクルは長期化する可能性が高いとみています。過去の例では、1995年8月に「Window95」が発売されパソコンの需要が爆発したサイクル、そして、2005年に欧米で3G通信サービスが普及し、ブラックベリーからiPhoneにつながるスマートフォンが登場したサイクル、さらに、2015年にAWSなどクラウドサービスが普及期を迎えたサイクルは約4年と長期化しました。概ね3サイクルに1回は拡大期が3年程度(サイクルは4年)に伸びることがあり、今回のAIとIoTがけん引する拡大期も、旺盛なAI向け半導体需要によって拡大期が長期化するのではないかという見方があります。