川上氏:2030年に1兆米ドルの市場に拡大するといわれる半導体市場において、ファンドの運用担当者として加藤さんが注目しているテーマは何でしょうか?

加藤氏:この先の10年は「生成AIサービスに欠かせないデータセンター向け高性能半導体」が市場成長をけん引するとみています。生成AIの市場規模は、2022年に400億米ドル程度でしたが、2030年には1.3兆米ドルと約33倍に拡大すると見込まれています。AIはテクノロジーの仕組みを根本的に変えると考えられていて、ITやサイバーセキュリティの重要な部分を今後はAI技術が担っていくようになると予想されています。

 そして、AI技術の進化によって、半導体の微細化技術がAIが必要とする処理能力に追い付かないという現象がおきています。従来、半導体は2年ごとに2倍のペースで微細化によって集積度を高めてきました(ムーアの法則)が、AIが必要とする処理能力はおよそ3−4カ月で2倍という猛スピードで高まっています。微細化の進展を待っていられず、製造コストはかかるもののチップサイズを大型化して処理能力を高めることを実現しています。この大型化によって半導体製造工程が複雑化し、半導体製造コストが上がっています。この結果、従来は半導体の数量が拡大するに従って1個当たりの単価が下落するという流れだったものが、近年は数量の増大に加えて価格も上昇するという構造に転換しています。これが半導体関連企業の成長を押し上げていると考えております。

川上氏:エヌビディア社をはじめとして、半導体関連企業に注目が集まっていますね。業界としての、今後の成長の糧となる分野はどのようなところだと思いますか?

加藤氏:エヌビディア社は超高性能データセンター向けGPU(:3Dグラフィックスなどの画像描写をおこなうための演算処理を行なう装置のこと)であるH100シリーズや次世代のB100シリーズに加え、AI開発プラットフォームであるCUDA(エヌビディアが開発・提供するGPUプログラムの開発環境のこと。CUDAを用いることで、GPUの複数の演算器を利用した高速な並列演算処理を行なうことができるようになる)を擁し、この分野で圧倒的なシェアを誇ります。

 エヌビディア社の卓越した競争力は、半導体チップというハード面のみならず、ソフトの側面であるAI開発プラットフォームCUDAでも圧倒的なシェアを持っているという点です。かつて、パソコンが一般家庭に浸透していく時に、CPUにインテル社の半導体を使ったウィンドウズOSのパソコンが大ヒットし、「インテル」と「ウィンドウズ」を掛け合わせた「ウィンテル」という言葉が、パソコン業界の勝者の象徴でしたが、現在のエヌビディア社は、AI業界において1社で「ウィンテル」を提供しているようなものです。

 現在はAWSやAzureといったハイパースケーラー、JPモルガン社などの大企業が主な顧客となっていますが、今後は高齢化の進展や人口の減少などによる国家競争力の低下をカバーするため、生成AIサービスを活用して国全体の生産性を向上させたい政府機関・軍が新たな重要顧客となりそうです。その流れを裏付けるかのように、半導体メーカーのマネジメントが国のトップと面談する機会はこれまであまりありませんでしたが、欧米各国はもちろん2023年12月頭には日本の岸田首相が来日したエヌビディア社CEOジェンセン氏と会談し、生成AIサービスなどに必要なGPUをできるだけ多く供給するよう同社に要請しました。先日取材した世界的な半導体製造装置メーカーも、投資家は長期的な生成AIサービスのポテンシャルを過小評価しているとの考えを持っているようでした。