現在の中学入試では、知識の「習得」と自分なりの「思考」という2つの力が求められていますが、両立させるのは簡単なことではありません(写真:Fast&Slow/PIXTA)

少子化が進む中において、中学受験に挑む子どもの数は過去最多水準にあります。ますます過酷になった中学受験に挑むうえでは、「知識」をつける学習と、「思考力」をつける学習は分けて考えなければなりません。

教育・学習ライターの小川晶子さんが大手中学受験塾のSAPIX(サピックス)小学部に取材して、低学年から試験当日まで、親ができるサポートと学年別のポイントをまとめた『SAPIX流 中学受験で伸びる子の自宅学習法』から一部抜粋、再構成してお届けします。

「習得」は時間効率を重視して取り組む

現在の中学入試では、知識を「習得」し、そのうえで自分なりに「思考」する力が求められています。

「思考」と「習得」の2つを高いレベルで両立させることができれば、難関校の入試問題にも対応できるはずですが、「両立させるのはそう簡単なことではありません」とSAPIXの先生は言います。

というのも、「習得」を進めるのと、「思考」する力を育てるのでは、取り組む際のポイントが異なるからです。

中学受験では、当然ながら試験時間が決まっています。そのため、短時間で解ける方法を習得しておく必要があります。また、中学受験で求められる内容は年々増えていますので、それをしっかりカバーしようとすると、入試までの短期間で多くのことを習得する必要があります。

「習得」の際のポイントは、時間効率です。塾通いをしていれば、その塾のカリキュラムに沿って学習を進められるためその点では安心ですが、教材の内容を消化できなければ意味がありません。

「習得」には反復演習が有効ですので、基本的な内容については、繰り返し学習して使いこなせる状態にしておく必要があります。

使いこなせる状態とはすなわち、短時間で頭から引き出せる状態のことです。時間をかければ正解できる、正解できるがところどころで悩んでしまう、という状態の場合、もう少し時間をかけてくり返し練習する必要があるといえます。

「思考」は時間効率を無視してじっくり取り組む

一方、「思考」する力を高めるためには、時間制限の枠を取り払って、自分なりにじっくりと考えることが大事になります。実は、基本的な内容にこそ掘り下げる要素が多くあります。そのため、「思考力」が必要な問題を解く際だけではなく、基本的な内容を習得する際にも、時間効率を気にせずに、深く思考していくことが必要です。

「深く思考する」といっても、何をすればよいのかわからない人も多いと思います。具体的な例を挙げると、下の図のようになります。


ただ、実際には、「習得」する場面と「思考」する場面は明確に分けられるものではありません。

図の例には、「習得」しようとする中で発生するものも多く含まれています。

いろいろな場面で、「なぜ?」「どうして?」という疑問を大切にして、一つひとつじっくり取り組んで解決していく姿勢が大事です。

今回は「習得」の詳しい学習法を紹介しましょう。

優先して習得すべき内容とは、算数でいえば、基本事項に加えて「典型題」と呼ばれる問題の解き方などです。国語では語彙や文法、漢字、文章の種類に応じた読み方、理科・社会の基本知識もこれにあたるでしょう。

こういった基本の内容でわからないことがあれば、先生に質問するなどして早めに解決することが必要です。

「経験に基づく感覚」を養う

その際、ただやり方や知識を暗記するというのではなく、考え方やなぜそうなのかといった背景を理解したうえで覚えることが大切です。考え方を理解していないと、少し問題のパターンが変わるだけで解けなくなることがあるためです。そのうえで、問題を出されたらすぐに解答できるよう、繰り返し練習することで「経験に基づく感覚」を養うのが望ましいといえます。

算数の「速さの問題」を例に説明しましょう。

「速さ」の単元では、

●速さ×時間=距離
●距離÷時間=速さ
●距離÷速さ=時間


という「速さの三用法」を学びますが、これをただ暗記すればいいわけではありません。なぜ、こういう式になるのかを理解することが大事なので、最初は意味を考えながら計算します。

そして繰り返し練習することで、経験に基づく感覚が養われ、すぐに解けるようになります。たとえば時速40キロメートルの速さで4時間進んだときの距離を聞かれたら、「時速40キロメートル×4時間で160キロメートルに決まっているでしょ」と瞬時にわかる。

理屈もわかって練習もしているから、パッと計算が出てくる。ここまで持っていけることが理想です。

(小川 晶子 : ブックライター、絵本講師)