頬つかみ人間の顔を噛みちぎったクマを「復讐でタコスにしたやった」…クマを殺すな!と何十件も抗議電話を自治体にかける女性

写真拡大

 各地で人的被害を出したクマが、捕獲を推進するため、「指定管理鳥獣」に指定される方向が決まった。環境省によると、クマの生息域は四国・九州を除き、全国的に拡大傾向にあり、特に問題となっているのが北海道のヒグマだ。2003年度から2018年度までの間に、ヒグマの分布域は1.3倍に拡大、2020年度の推定個体数は1万1700頭となったという。

 元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は「クマとの共生をはかるには、クマと人が適切な距離をおく必要がある」というーー。

何十件も「クマを殺すな」と抗議電話をする女性の主張

 <鈴木直道知事は昨年11月、他県と連携して指定管理鳥獣への追加を国に要望しており、「スピード感を持って対応をいただいたことに感謝を申し上げたい」と評価した。より精度の高い個体数調査や詳しいモニタリングへの財政支援が充実すれば、「絶滅を防ぎながら、地域で何頭捕獲すれば市街地出没を抑制できるか割り出し、人とクマのよりよい環境につながる」(道ヒグマ対策室)との期待も高まる>(朝日新聞、2月8日)というから、行政は歓迎をしているようだ。

 一方で、「クマを殺すな」という強い意見も多く存在している。報道によれば、クマの生息域ではない地域を中心に、動物愛護の理念を念頭に、抗議がよせられている。

 ANNニュース(2023年11月9日)の取材によれば、自治体に抗議した女性は、<「当たり前のように馬鹿みたいに(クマが)来たら殺す。それしかできないのっておかしい。みんな野生の生き物って、癒やしてるわけじゃない。クマは怖い汚い恐ろしいというイメージを植え付けられている。悪者じゃないよ、そう思わない?」「もともと人の責任でしょ。高速道路造ってゴルフ場やリゾートで山を削ったので、とにかく自然を破壊して今に至っているわけですよね。結局、人が手を加えてそういうことをしているから、野生の生き物の生きる場所がなくなっているんですよ」>といった意見を主張して、何十件という抗議電話を自治体にかけているという。

クマを殺すのは人間のエゴである

 クマに自分や自分の家族を殺されるのではないかという切実な人たちがいるのだから、そうした抗議はナンセンスなのではないかと私は受け止めていたが、よくよく考えてみれば、クマの生息域へ、人間が近づいていった経緯もあり、その上で、「クマが怖いから殺そう」というのは、人間の身勝手な理屈であることも事実だろう。

 やはり、できる限りの共存を目指すほかないが、人間のエゴという側面はきちんと念頭においておく必要があるだろう。例えば、人間とクマとの共存を目指すために、クマの観察(モニタリング)を行政は積極的に行っていくことになる。しかし、『人間が改変した場所で生きるヒグマ』(Large carnivores living alongside humans: Brown bears in human-modified landscapes、2020年)によれば、「ヒグマの観察活動は、繁殖、子育て、食事などのヒグマが集まる敏感な場所で頻繁に行われるため、ヒグマの行動、生理、生態に関連する潜在的な負の効果があります。ヒグマは、昼間の活動を減らしたり、彼らにとって重要な地域を離れたりすることがあります。さらに、人間の乱れがヒグマの探食パターン、繁殖行動、空間利用、活動に影響を与え、結果としてヒグマの生存と適応に影響を与える可能性があります」と懸念が表明されている。

 行政は状況把握のために、すぐに観察、観察というが、それすらもヒグマにとっては迷惑なものなのである。

人間が殺しているのは、弱い立場のクマ

 同研究によれば、「ヒグマが人間の居住地を避ける行動は、年齢と性別に依存します。未成年の個体や子連れのメスは、成熟したオスや独身の成熟したメスよりも人々や居住地の近くに出現することがよくあります。これは、それぞれ成熟したオスによる捕食や幼児殺しを避けるためです」という。殺される危険もある人間の生息地に好んで、生きたいクマなどいない。安住の地は強いオスがいて、危険なために、人間の生息地に近づいてきてしまったということだ。

 私たちが、恐怖を感じ、殺せと叫んでいるのは、弱い立場のクマだということだ。

クマを生き残らせたいなら、人間と近づけてはいけない

 保存生物学という分野がある。動物の種や生態系にとっての大きな脅威を見つけ、取り除く方法を探るというものだ。それらの研究に照らし合わせるとわかっていることがいくつかあるので同研究をもとに紹介したい。

1、ヒグマなどの大型肉食動物は、人間の活動やインフラが近い地域で死亡率が高い。

2、ヒグマの生息地周辺での廃棄物管理やヒグマを避ける方法についての教育を強化することで、ヒグマの人間への慣れや食べ物への依存を減らし、人間とヒグマの衝突やヒグマの死亡率を下げることができる。

3、ヒグマの生息地の連結性を保護・復元し、遺伝子の多様性と流動性を支えることが、将来の管理努力の目標となるべき。

4、経済への負の影響を減らすためには、アクセス制限や不要な道路を無くしてしまうなどの対策が有効だ。

 特に、<2>は大事なものではないだろうか。人間のゴミなどをあさったり、食料をクマがはいれるところにおいてしまっていることで、クマに人間の近くには食料があると認識させてしまうということだ。特に人間に慣れやすいとされる子どものクマには注意が必要だろう。

 結局のところ、クマとの共生とは、クマのプーさんと親友クリストファー・ロビンのような関係性では決してないということである。人間とクマは完全に隔絶して、お互いに関心を持たなくて済むような「共生」を目指すということだ。クマの住環境を悪化させ続けている人間は、せめてもの環境整備を続けていく必要があろう。

スウェーデンでクマに人を噛まれた男性が、そのクマを殺した後で肉をタコスにして食べた「究極の復讐だ」

 スウェーデン(瑞典)の日刊紙『Aftonbladet』(2023年8月30日)において、クマに襲われた親子についてこんな報道があった。

 ペール・サンドストレム(42歳)と14歳の息子エバートは、クマ狩りの初日の午後4時半から任務に就いていた。午前10時少し前、彼らは中断せざるを得なかったという。森の中の道で突然、熊が自分たちに向かってきたのだ。銃を打つチャンスはあったのだが、一緒に連れてきた犬がいて打てなかったという。メス熊はペールに狙いを定めて全速力で走ってきた。後ろに下がって距離をとり、熊の頭を撃とうとしたが、クマの方が速かった。クマはペールの頬をつかみ、ペールはクマが体の上に襲いかかっているときに撃つことを余儀なくされた。銃弾はクマの体を貫通したが、攻撃を止めることはできなかった。

 息子のエバートは、父をなんとか助けようと父に襲いかかるクマの頭に空手チョップをお見舞いしたという。クマはエバートの空手チョップを受けると、エバートの腕をつかんで引っ張り回した。父・ペールは、クマに噛まれ、顔面の半分を損傷し、足もクマの爪によって痛めつけられ動けなくなっていた。なんとかエバートに当たらないように銃の照準を定め、近距離からクマを撃ち抜いた。そこでやっとクマは絶命し、親子は助かったのである。ペールは13時間、クマに食いちぎられた顔の一部をくっつける手術を受けた。

 この報道の後日談を、今度は英紙「mail」が報じている。

「仲間の猟師たちは森に残って、親子を襲ったクマを捌き、冷凍庫に入れた。その後、何か月にもわたって、ケバブやタコス、グーラッシュを作るのに十分な量の材料となった。ペールは、『私の顔を噛んだクマの肉をタコスに詰めるのは、私にとっての究極の復讐だった』と嬉しそうに語った」

 スウェーデンには約3000頭のヒグマが生息していると推定されており、ヨーロッパで最もクマの生息密度が高い国のひとつである。クマは人間にはほとんど近づかないが、スウェーデンでは、主に子グマの安全を心配したメスグマが人を襲う事件が何度か起きている。

 スウェーデンのような北欧諸国では、クマ狩りは民間伝承や文化的慣習に深く根ざした人気のある伝統であり、クマの個体数を管理することは生態系を保護する上で重要な役割を担っている。

 日本においても、クマとの共存がシステムとして確立してくれることを願ってやまない。