(写真:marchan/PIXTA)

2024年から新NISAが始まりました。株や投資信託で利益が出ても、1800万円までの投資なら税金がかからないということで、「じゃあ、始めてみようか」と重い腰を上げた人も少なくないと思います。なかでも投資初心者の関心の中心は、投資の王道と言われる「つみたて投資」。そこで今回は書籍『新NISA対応版 いちばんカンタンつみたて投資の教科書』の中から、新NISAスタート後の長期資産運用のポイントを紹介します。

10代から80代までが投資をする時代

日本人はよく投資をする習慣がないと言われますが、実は日本でも着実に投資文化は根付いてきています。それは旧NISAの利用状況を見れば一目瞭然です。

日本証券業協会が四半期ごとに発表している『NISA 及びジュニアNISA 口座開設・利用状況調査結果について』によると、2023年9月末時点の一般NISAの口座数は約734万口座、つみたてNISAは約623万口座、ジュニアNISAは約96万口座となっており、合計で約1453万口座が開設されています。

総務省統計局によれば、2023年10月1日時点における日本の人口は1億2434万人ですから、NISA口座の合計数が1453万口座ということを考えると、まだ日本人でNISA口座を開いているのはわずか11%程度に過ぎないと思うかもしれません。

しかし、それでも日本における投資文化はこの数年で急速に成長しています。

下図はつみたて投資に特化した「つみたてNISA」の口座数を年代別に分けて、その推移をグラフ化したものです。


(画像:『新NISA対応版 いちばんカンタンつみたて投資の教科書』より)

「つみたてNISA」の非課税制度は2018年1月から始まりましたが、グラフが示すように、近年急激に利用者が増えています。また、幅広い年代で「つみたてNISA」という非課税制度を活用する人が増えてきたこともわかるでしょう。

利用者の分布は30代と40代が半数を占め、次いで20代。ただ、それ以外の50代や60代でも着実に口座数は伸びており、すべての世代において投資による資産形成の必要性が浸透してきていると言えます。

NISAiDeCoどちらを優先すべき?

ニュースなどでもすでにご存じのように、2024年から始まった新NISAは、従来のNISAよりも大幅に内容が拡充されました。

私は「絶対に新NISAを使え」と強制する気はありませんが、資産運用をして老後に備えようとするのであれば、利益が非課税になる新NISAを使わない理由はないように感じます。

長期運用を考える場合、従来からあるiDeCoの活用も視野に入ってきます。資産運用で使えるお金に余裕がある人は両方を併用して老後に備えればいいと思いますが、新たに投資をはじめようとしても、「新NISAiDeCoのどちらかしか活用できない。迷う……」という方もなかにはいることでしょう。

それでは、片方しか活用できない場合、どちらを選んだほうが得なのでしょうか。結論からいうと、どちらを選んだほうが得なのかは、人それぞれです。なぜなら年齢や運用方針は各人によってそれぞれ違うからです。当たり前のようですが、意外とこの点を見失ってしまう人は少なくありません。

そこで、あらゆる観点から2つの制度を見てみましょう。

投資期間や投資額で比較する

まず、新NISAは日本に居住する18歳以上が対象で、特に年齢の上限は決まっていません。これは旧NISAと同じです。

一方で、iDeCoは基本的に20歳から65歳まで加入ができます。これまでは60歳未満までという上限がありましたが、2022年5月1日の法改正で65歳になるまで加入できるようになりました。

ただし、iDeCoの加入条件には国民年金への加入が必須であり、60歳以降も公的年金に加入している人だけが対象となります。

次に、1年間でどれぐらいの金額を投資に充てられるかを見てみましょう。新NISAではつみたて投資枠と成長投資枠の2つの投資枠がありますが、2つの投資枠の年間可能投資額の合計は360万円となります。

iDeCoの場合は加入資格によって拠出限度額が異なりますが、最も掛け金が多い自営業者の場合だと81万6000円です。

このように見ると、圧倒的に新NISAのほうがよさそうですが、制度を用いた投資額の総額を考えてみると、新NISAは生涯投資可能額が1800万円となっているため、それ以上は投資額を増やしていくことができません。

iDeCo投資総額の上限はないため、たとえば自営業者が40年間拠出上限額で積み立てていった場合の総額は3264万円にもなります。

投資に用いることができる金融商品の種類も比較してみましょう。新NISAは長期投資に適していると判断された投資信託や、株式、ETFなど多くの商品が対象となっているのに対して、iDeCoは定期預金や保険などの元本確保型の商品か、一部の投資信託が対象となることが多くなっています。

よって、金融商品の数でいえば新NISAが圧勝ですが、iDeCoでは元本確保型の商品も選べるという安心感があると言えます。

NISAiDeCoの共通点と相違点


NISAiDeCoが共通するのは、運用益が非課税となることです。しかし、iDeCoは拠出時に掛け金が全額所得控除となり、受け取り時には退職所得控除や公的年金控除が適応されます。つまり、税制メリットだけでいえば、iDeCoのほうが有利と言えるでしょう。

また、新NISAは運用後も好きなタイミングで解約をして資金を引き出すことができますが、iDeCoは原則として60歳になるまで引き出すことができません。

iDeCoは掛け金の減額はできるが、運用を始めてしまうと基本的には止めることができない」と考えると、住宅購入や結婚など大きな金額が急に必要になる可能性が高い人は新NISAを優先したほうがいいと考えることもできます。


(画像:『新NISA対応版 いちばんカンタンつみたて投資の教科書』より)

このように、新NISAiDeCoは比較する観点によって、優劣が変化します。今は「人生100年時代」と言われる一方で、退職金も年金も30年前、40年前のようにはもらえないのが現実です。そうなると、定年のタイミングで資産運用を終えて資産を取り崩すということではなく、定年後もしばらくは運用を続けることもあり得る話です。

しっかりと両制度の内容を理解したうえで、自分の資産運用の方針を考える必要があるでしょう。

(森永 康平 : マネネCEO/経済アナリスト)