F1新シーズン注目ポイント10(後編)

◆前編>>「ドライバーのシート争奪戦、今季前半戦が勝負」
◆中編>>「角田裕毅、4シーズン目で初の表彰台を掴めるか」

 2024シーズンで75回目を迎えるF1世界選手権は、3月2日にバーレーンで幕を開ける。今年のスケジュールは世界各国を9カ月かけて転戦し、12月8日のアブダビで閉幕する。

 今年はどんなドラマが待っているのか。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に「2024シーズンの焦点」を10点、ピックアップしてもらった。

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宮田莉朋は神奈川県出身の24歳 photo by Yoshida Shigenobu

【7】日本GPは初の4月開催。前代未聞の史上最多24戦

 2024年は史上最多の24戦が予定されています。現行レギュレーションで許される最大の開催数であり、前代未聞のレース数です(これまでの最多は22戦)。

 スケジュールも過密となっており、2週連続開催が5回、3週連続開催が3回もあります。実質的には開幕前テストから第2戦サウジアラビアGPまでも3週連続開催であり、特にシーズン最後のラスベガス〜カタール〜アブダビの3連戦は移動距離の長さもあって、関係者から問題視されています。

 連戦であっても自宅に帰ることができるF1ドライバーや上級スタッフたちはまだしも、そのまま次の現場に移動してマシンの準備をしなければならない多くのスタッフたちにとっては、肉体的にも精神的にも厳しいシーズンになることは明らかです。チームによってはすでに複数のスタッフでシーズンをカバーするローテーション制を採っているところもありますが、2024年はさらにこうしたチームが増えてくるはずです。

 しかし、ドライバーとのコンビネーションが重要なレースエンジニアなど替えがきかないスタッフは全戦カバーすることになるでしょう。また、予算や人員が十分でないチームはローテーション制を採ることができなかったりもします。

 23戦が予定されていたものの結果的に22戦になった2023年も、すでにチーム関係者の疲労はピークに達していました。果たして2024年は無事にシーズンを終えられるのでしょうか? 特に2023年は1回しかなかった3連戦が多い点が気になります。

 そして鈴鹿の日本GPの開催時期が変わり、初めて春(決勝=4月7日)に行なわれることになります。

 これまでシーズン終盤に行なわれてきただけに、開幕直後の開催は多少の違和感もあるでしょう。ただ。2022年に現地観戦された方なら「台風の心配をしなくていい」というのは、かなりプラスに感じるのではないでしょうか。

 シーズン序盤の開催というのも、違った楽しみ方があります。走り始めたばかりの2024年型マシンが見られることや、勢力図が固まりきっていないなかで様々な展開が期待できることなど、開幕直後ならではのワクワク感があって、楽しいレース観戦になるはずです。

 日本GPが終わると興味が下がるのではないか、という心配もありそうですが、逆に鈴鹿で見たF1をテレビで見ることで見え方も違ってくるでしょう。残りのレースが多いだけに「鈴鹿以外のサーキットにも観戦に行ってみたい」という人も増えてくるはずで、F1全体にとってはいいことなのではないかと思います。

【8】評判はイマイチ。スプリントレースは改善される?

 今年も計6レース(第5戦中国GP、第6戦マイアミGP、第11戦オーストリアGP、第19戦アメリカGP、第21戦サンパウロGP、第23戦カタールGP)でスプリントレースが開催される予定です。金曜の視聴率や観客増のためにF1はスプリントの開催に積極的であるものの、これまでのところファンの評判は決してよろしくありません。

 問題はふたつ。スプリントレースはバトルがほとんどなく単調な展開になりがちだということと、決勝の展開が読めてしまうということです。

 その理由は、どのチームも30分間のスプリントを「決勝のためのロングランタイヤテスト」に使うからです。特にポイント圏内の8位に入るチャンスが乏しい中団チームにとっては、スプリントでがんばる意義が薄く、決勝に向けた準備に専念するほうが得るものが大きくなってしまっているのです。

 また、スプリントの内容を見ればロングランペースがかなりはっきりとわかってしまうため、予選結果に関係なく決勝の展開が読めてしまうという弊害が大きすぎました。

 それだけでなく、金曜午後に予選を行なう従来のフォーマットも問題です。たった60分のフリー走行1回だけで予選に突入し、それ以降のセットアップが変更できなくなるため、チームにとっては負担が大きい。そのうえ、レース週末を通しての逆転が起きづらく、さらには車高セッティングの不備で失格といったデメリットも噴出しています。

 レースで最も盛り上がるポイントのひとつであるスタートとオープニングラップのバトルが見られるのはいいのですが、2周目以降はバトルが落ち着き、あとは淡々とロングランテストを走るだけのセッションになってしまっており、こうした様々な問題を解決するための方策を見つけ出す必要があります。

 スプリント週末をどのようなフォーマットで争うのかは、まだ決まっていません。昨年もスプリント初戦のアゼルバイジャンGP(第4戦)の現場でようやくフォーマットが確定したくらいなので、今年も中国GPの直前まで決まらない可能性もありそうです。

 いずれにしても、全員が満足するルールを見つけるのは難しいでしょうが、F1ファンを置き去りにしたルールにはしないでほしいなと思います。

【9】アメリカの名門「アンドレッティ」の参戦はいかに?

 2026年からのF1参戦を目指しているアメリカのレーシングチーム「アンドレッティ・オートスポーツ」。今年中には何らかの結論に達する見込みです。

 なぜなら、2026年に参戦するならば2025年にはマシン開発をスタートさせなければ間に合いませんし、そのための人員が揃っていなければ開発を進めることもできないからです。オーナーのマイケル・アンドレッティは2025年からの参戦も視野に入れていましたが、今年の春までに参戦が承認されなければ、少なくともそれは不可能になります。

 FIAは審査の結果、「アンドレッティにはF1参戦の技術・財務能力がある」とお墨つきを与えました。しかし、参戦に必要なのはあくまでF1との契約であり、今はその交渉が滞っている状態です。

 既存のチームは、F1が財務的に苦しかった2010年代中盤から身銭を切るかたちで人気向上のために投資を続けてきました。コロナ明けからようやく実を結び、これから投資に対する回収のフェイズに入ったところです。

 そこに投資もしていないアンドレッティが「F1人気だから」と参入して見返りだけを求めてくれば、投資をしてきた既存チームが反発するのも当然です。アンドレッティが本当にF1へ参戦したいのなら、目先の利益目的ではないことをきちんと説明し、既存チームがしてきた投資と同等以上の見返りを用意して納得してもらうことが必要でしょう。

 アンドレッティやGMといったビッグネームがF1に参入することでF1人気がさらに拡大して利益が見込めるといった漠然とした計画ではなく、目に見える利益をもたらすことが突破口になるはずです。ただ問題は、今のアンドレッティにそれができるかどうか。いずれにしても、残された時間はそう長くありません。

【10】国内2冠・宮田莉朋。F2挑戦でF1への道は?

 今年はF1直下のFIA F2に宮田莉朋(りとも)が参戦します。国内トップカテゴリーをダブル制覇(スーパーフォーミュラ&スーパーGT)した宮田の能力に疑問はないでしょう。

 F2はちょうど新車『F2 2024』が導入されるため、既存ドライバーたちとの経験値の差は小さくなり、新たに参戦するタイミングとしては最適でしょう。所属するロダンも昨年までの名門カーリンをそのまま引き継いでおり、ランキング3位の実力チームです。

 ただし、宮田にとっては初めてのヨーロッパで、なおかつ初めてのピレリタイヤ。下位カテゴリーからヨーロッパで戦ってきているドライバーたちとは、そういった経験値の差はあります。

 F2はフライアウェー戦も多く、ふだんはなかなか走ることのできないジェッダ(サウジアラビア)やアルバートパーク(オーストラリア)、モナコ、バクー(アゼルバイジャン)といった舞台も経験することになります。

 レース週末はわずか45分のフリー走行だけで予選に臨み、しかも予選で初めて履くソフトタイヤでアタックをしなければならないという難しい条件。予選ではタイヤのウォームアップがカギになり、決勝ではタイヤマネジメントが勝負を分けるので、そのためのセットアップとドライビングを煮詰めることも重要です。

 とにかく、ただ速いだけでは勝てないのがF2です。

 しかし、トヨタとしては1年目で結果を出すことを求めるのではなく、2年といった長い目で宮田のF2参戦をサポートする意向のようなので、それを最大限に活用して焦ることなくタイトルを獲る実力を身につけていけばいいと思います。むしろ1年目は、周りをあっと言わせるような速さを見せることを最優先に置いてもいいかもしれません。

 スーパーフォーミュラに対する世界からの注目度が上がっているとはいえ、現状ではスーパーフォーミュラからF1に直接行くルートはありません。F1にステップアップできるのは、F2で実績を残したドライバーに限られています。

 これまでルートは、F2で実績を残してからスーパーフォーミュラでさらに実力を示してF1に──というのが定石でした。宮田はスーパーフォーミュラでの実績が認められてF2に参戦し、そこでさらに実力を示してF1への道が拓ければ、これは日本国内のドライバーにとって非常に大きな変革になります。スーパーフォーミュラの価値を高めることにもなります。

 そういう意味でも、宮田にはぜひともF2で活躍してもらいたいと期待します。

<了>