F1新シーズン注目ポイント10(中編)

◆前編>>「ドライバーのシート争奪戦は今季前半戦が勝負」

 2024シーズンで75回目を迎えるF1世界選手権は、3月2日にバーレーンで幕を開ける。今年のスケジュールは世界各国を9カ月かけて転戦し、12月8日のアブダビで閉幕する。

 今年はどんなドラマが待っているのか。2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に「2024シーズンの焦点」を10点、ピックアップしてもらった。

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角田裕毅の自己最高位は2021年アブダビGPでの4位 photo by BOOZY

【4】角田裕毅も4シーズン目。初の表彰台なるか?

 4年目のシーズンを迎える角田裕毅は、さらに成長して自身の完成形を見せると宣言しています。

 昨年はドライビングのみならず、レース運びやF1そのものに対する姿勢など随所で成熟ぶりを見せました。ただ、メキシコシティGP(第20戦)などミスがいくつかあったのも事実。

 しかし、角田はそういった犯したミスを理解し、さらにはその原因がレース中のメンタルコントロールにあるということも自覚し、その改善に取り組んでいます。特にメキシコでのミスは、彼にとって「大きな薬」になったように感じられました。

 その教訓をはじめ、1年間の学びを生かしたのが最終戦アブダビGPの走りです。予選・決勝ともに、ドライバーとしては最大限のことをやりきったと思います。2024年は全レースでそれを実行できれば、まさに「角田裕毅の完成形」を見せることができるはずです。

 チームとしても2024年型コンセプトのフロアを実戦投入し、それまでと大きく異なる特性になったマシンをうまく手懐(てなず)けていました。またそれだけでなく、実戦とレース後のテストで膨大な実走データを収集できたのは、2024年型マシンの開発に対して大きな意義があったはずです。

 そのフロアからわかるのは、コンセプトの根底からレッドブルRB19の手法を踏襲しているということで、2024年はレッドブルとの技術提携を強化して、よりよいマシンを作るということです。事実、アブダビGPでは角田が予選6位に入り、アストンマーティンを上回る速さを見せています。

 チーム体制の強化も図られており、チームCEOとチーム代表、スポーティングディレクターといった運営面に関わる主要スタッフのみならず、実際のマシン作りに携わるスタッフの入れ換えも昨年から進んでいるといいます。

 もちろん、だからといって優勝や表彰台を期待するのは高望みです。前編で述べたとおり、トップ5チーム10台が上位を争っている状況では、入賞圏内に入ることすら容易なことではありません。

 しかし、その序列が大きく変わらなかったとしても、トップチームとのギャップが縮まることは間違いないはず。となれば、上位勢のワンミスやアルファタウリの好プレーで大きく順位が上がることもあります。

 昨年で言えば、マシン特性の合うモナコGP(第7戦)や天候の荒れたオランダGP(第14戦)で表彰台を獲得したアルピーヌのように、活躍が期待できる場所につけることができれば、角田裕毅の初表彰台の可能性も十分にあるのではないかと思います。

 アルファタウリがそのポジションにつけることと、そのチャンスが巡って来た時にしっかりと掴み獲る力は、今の角田にはあるはずです。

【5】日本初の快挙。小松礼雄ハース新代表の手腕は?

 1月10日にハースの小松礼雄エンジニアリングディレクターがチーム代表に就任すると発表されました。日本資本のチームを除けば、F1チームの代表に日本人が就任するのは初めてのことです。

 ハースは昨年、ランキング最下位の10位に終わりました。その原因がタイヤマネジメントにあったことは明白です。セットアップで対応できないほど極端にリアタイヤに厳しいマシンの問題を認めず、その改善を進めなかった開発陣に責任があったことは言うまでもありません。

 そうなってしまったのは、現場と開発陣のコミュニケーション不足が最大の原因でしょう。イギリス・バンベリーのレース部門、イタリア・マラネロのフェラーリ内にある空力開発部門、そしてパーツ製造がイタリアのダラーラ社と、活動拠点が分散しているために起きてしまったことです。

 そのため、小松新代表は就任後さっそくチーム内のあらゆる人たちとの対話を始めました。マラネロにも飛んでこれまで直接話すことができなかった空力部門のスタッフ各個人とコミュニケーションを取り、どこに問題があったのかを把握することに努め、チームの方向性をひとつにまとめるように動いています。

 小松さん自身はとにかくレースが好きで、クルマを1000分の1秒でも速く走らせることが最優先、という人です。自分のメンツや権力闘争などはどうでもいいし、そういった阻害要因はチームから排除し、チームの全スタッフが小松さんと同じく「1000分の1秒でも速く走らせる」ということを最優先に動ける組織づくりを進めていくでしょう。

 小松さんは非常に頭がよく、論理的な考え方をする人。自分がやるべきはエンジニアとしての技術的な知見を使った組織づくりであり、専門外のスポンサー活動や他チームとの交渉ごとなどはそれを専門とする人に任せる、という意向もすでに明確にしています。

 そういう意味では、チーム代表になったからといって小松さんの立ち位置が大きく変わるわけではないと思います。むしろ、現場の技術トップというこれまでの立場からチーム全体の技術トップへと権限が拡大したと見るべきで、実質的にはテクニカルディレクターという立場です。

 ここまで述べてきたようなハース特有の環境や、予算の少なさといった難しさもあるとは思います。とはいえ、純粋に勝つことだけを最優先にレースをするというのは、レッドブルやメルセデスAMGなどが成功を収めトップチームに成長するうえで根幹となったフィロソフィであるので、小松新代表の手腕に期待したいところです。

【6】初優勝は生まれるか。新たなスター誕生に期待大

 2022年はカルロス・サインツ(フェラーリ)とジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)が初優勝(サインツ=第10戦イギリスGP、ラッセル=第21戦サンパウロGP)を挙げたものの、2023年は初優勝が生まれず、"初モノ"はオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の初表彰台獲得(第16戦日本GP)のみでした。

 新たなスターの誕生がF1を盛り上げるのは確かなことなので、2024年は初優勝や初表彰台が多数生まれることを期待したいところです。

 初優勝候補の筆頭は、ランド・ノリスとピアストリでしょう。マクラーレンが昨年後半に見せた勢いを維持して上位に加われば、初優勝のチャンスは十分にありそうです。

 ノリスはピアストリの勢いに押されて予選でのミスが目立ち、昨年後半戦は5勝5敗という結果でした。カタールGP(第18戦)やアブダビGP(第23戦)など、予選のミスがなければ優勝争いができたのではないかというレースもいくつかありました。

 一方、ピアストリは一発の速さはノリスと同等レベルまで成長しました。しかしながら、経験がモノを言うタイヤマネジメントに関してはまだまだで、レースペースが課題になりそうです。

 初ではありませんが、アストンマーティンの躍進次第では2013年以来11年ぶりとなるフェルナンド・アロンソの優勝も有り得るでしょう。アロンソが勝てば盛り上がることは間違いありません。地元スペインのファンたちはアロンソの「33勝目」を心待ちにしています。

 表彰台経験がまだないのは20人中4人だけで(ローガン・サージェント、角田裕毅、周冠宇、ニコ・ヒュルケンベルグ)、このなかで最も初表彰台に近いのは角田裕毅です。マシンに実力さえあれば、ドライバーとしては表彰台に立つ力はすでに十分あると言えます。

 もちろん、マシンの実力として常に表彰台を争える位置につけるというのは現実的ではありません。ですから課題はそういったチャンスが巡って来た時、しっかりと掴み獲ることができるかどうかでしょう。

(後編につづく)

◆後編>>「国内2冠の宮田莉朋はF2からステップアップの可能性」