実写版【推しの子】に、SNSでは賛否両論(写真:公式サイトより引用)

社会現象的ヒットを巻き起こした漫画『【推しの子】』の実写化が発表された。すでに実写版キャストビジュアルへの賛否などのさまざまなニュースがあふれ、SNSも盛り上がっている。

一方、今回の大きなポイントになるのは、グローバルプラットフォームであるアマゾンのプライム・ビデオによる実写ドラマ化であり、東映による映画化も連動したプロジェクトになる点だろう。

グローバルプラットフォーム手掛けるドラマ化

ここ数年は人気漫画を原作にした実写化トピックは、東宝やワーナー映画(日本)による映画化が多かった。しかし、最近ではNetflixによる『ONE PIECE』や『幽☆遊☆白書』、ディズニープラスによる『ガンニバル』や『七夕の国』のようにグローバルプラットフォームによるドラマ化という流れに変わってきている。

その背景にあるのは、権利者側の意識が世界市場へ移っていることだ。原作者が海外発信を望むのであれば、世界を市場にするグローバルプラットフォームとの契約は、ワンストップで世界中にアプローチでき、配信までのスピードも早い。さらに、市場規模が大きいぶん、制作予算も潤沢になり、かけられる予算が大きくなれば作品クオリティも上がる。

そして、映画ではなくドラマ化であることも重要な点だ。プラットフォーム側は話数ぶんの視聴をユーザーに促すことができ、原作者側はもともと長い作品を無理やり短縮するような改編がなく、作品化しやすい。そのため双方にメリットがあるのだ。

今回の『【推しの子】』の場合、コミックは累計1500万部の売上を超えているほか、アニメは日本だけでなく複数グローバルプラットフォームで世界配信されヒットしており、すでに実写版の世界的ヒットの素地がある。実写化権利の争奪戦があったことが予想されるが、そこで国内メディア単独での勝ち筋はなかっただろう。

これからはグローバルプラットフォームと国内メディアのタッグによる配信ドラマ&映画、ステージなど複合的な実写化プロジェクトが一般的になっていくに違いない。

アマゾンのプライム・ビデオと東映によるタッグでは、西島秀俊が主演し、白石和彌監督が演出を手がけ、成人向け18+指定で世界配信されたドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』(2022年)が記憶に新しい。子ども向けだった1987年のテレビシリーズに、政治ドラマの要素を交え、凄惨なシーンも含むマイノリティの視点からの大人向け人間ドラマに昇華させて、高い評価を得た。

そんなタッグによる実写化プロジェクトであることも、今回の『【推しの子】』への期待が高まる理由のひとつだ。

配信ドラマと映画のアウトプット戦略

もう1つ気になるのは配信ドラマと映画のアウトプット戦略だ。

オーソドックスなパターンとしては、アニメでインパクトがあった1時間20分の第1話を映画にし、続きをドラマで配信することが考えられる。しかし、それでは映画が配信ドラマと連動するメリットが薄い。

そうなると、アニメ『鬼滅の刃』のパターンのほうが有力だろう。ドラマ先行で話題を広げ、配信終了直後に映画版を公開し、ユーザーの関心を劇場へつなげる。または、配信ドラマを2部または3部に分け、その合間に映画版を挟み込む。1本のストーリーを両メディアでクロスさせながら進行させ、映画版の導入にフックを設ければ、ユーザーが遷移しやすくなるだろう。

同時に、映画で見ることの必要性をしっかり示す必要がある。ユーザーに配信で全部見たかったと思われたら意味はない。映画館の大スクリーンで上映すべき映像的迫力や音響を楽しめるシーンを映画版でやるといった戦略も必要になるだろう。

いずれにしても、アニメ版とは異なる配信ドラマ&映画ならではの【推しの子】体験を打ち出してくることは間違いない。ファンはいま、どんなものを見せてくれるのか、満足させてくれるのか、という期待と不安が入り混じっているだろう。

アマゾンのプライム・ビデオと東映のタッグには、期待値を大きく上回る作品を作り上げるポテンシャルがある。まずは映像第1弾を楽しみに待ちたい。

人気漫画やアニメの実写化の成否は、実写キャラクターのオリジナル再現度による部分は大きい。思い入れのあるキャライメージと違えば、ファンは反感を抱く。

今回の実写ビジュアル第1報とともにSNSにあふれた賛否コメントでは、否のほうが多かったように感じる。


【推しの子】ビジュアルカット(写真:公式サイトより引用)

しかし、今回の第1弾ビジュアルはまさにイメージカットだ。今後、反響を踏まえた調整が入るかもしれないし、人が演じるときには雰囲気や立ち居振る舞い、所作など醸し出すオーラによって、その印象は大きく変わる。メイクや衣装の装飾プラス、役者の力量によって体現されるキャラクター造形の評価は、これからでいいだろう。

高い評価を受けている実写版も

これまでの実写化で振り返ると、連載中の人気漫画を映画版オリジナル脚本による2部作での実写化を掲げ、監督交代など紆余曲折を経て完成させたものの、キャラクター設定も独自ラストもあまりにもひどく大惨事となった大作も過去にはあった一方、近年は『るろうに剣心』や『キングダム』『東京リベンジャーズ』など、キャラクター再現度のほか、ストーリーや映像演出も高く評価され、シリーズ化されている作品も多い。

また、Netflixのハリウッド実写版『ONE PIECE』は日本人が演じていないが、日本を含め世界的に高い評価を受けている。

『【推しの子】』も日本で受け入れられることが大前提だが、その先の海外での評価も視野に入れれば、見た目のビジュアルはキャラクター造形の一部であり、人間像としていかにキャラクターに近づけるかが重要になってくる。

そして、まだスタッフが公表されていないが、実写化の大きなカギを握るのは脚本家だ。生まれ変わりのファンタジーがベースにありながら、アイドル界のリアルな裏側のドロドロした人間関係の猥雑な醜さとおもしろさにあふれる、母の死の真相に迫るサスペンスフルな骨太の物語を、実写ならではの演出を交えてどうまとめ上げるか。

監督も含めたメインスタッフの発表もまた話題になりそうだ。

(武井 保之 : ライター)