子どもたちが野球に打ち込むことで家族にも変化が(写真はイメージ)【写真:荒川祐史】

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2人の息子を持つ母親が答える、少年野球を経験しての“新発見”

「少年野球は大変そう」とは、よく耳にする声だ。

 働くママで、中学生の長男は硬式野球チームに、小学生の次男は地域の学童野球チームに参加している宮崎さんも、「野球をやりたいと最初に子どもから言われた時、少年野球は大変、面倒という刷り込みがあったから、ためらいを感じた」そうだ。

 でも、やってみないとわからないことも多い。宮崎家は、今では父親もすっかり野球好きになり、「みんなで外食しても、やはり野球の話ばかり」だと言う。

「それまで夫は父親として、それほど子どもと深く関わったことがなかった。でも少年野球を始めたらキャッチボールの相手をしたり練習についていったりするようになって、すごく父子のコミュニケーションが密になったなと感じる」と宮崎さんは続けた。

 学童野球に参加し、父親同士のつながりもできた。それが面倒という考え方もあるだろうけど、「個人的には子どもを通して広がる関係性というのは良い面だと思っている」と宮崎さんは語る。

 と、同時に、ほぼボランティア活動に近い学童野球の難しさも実感はしている。

 監督やコーチもボランティアで、卒業生の親だったり、地域の野球経験者だったりする。手が足りないから、お父さんたちが集まって手伝いをする。それぞれ違う仕事をして、違う肩書があって、年代だってバラバラだから、時には揉める。

 野球への熱意、温度差も激しいはずだ。「けっこうカオス?」と失礼ながら聞いてみたら、ちょっと上を見上げて首をかしげた。

「確かにそうだけど、異なる意見が出たり、揉めたり、それも悪いことばかりではないと最近は思います。大人になると、どうしても同じカテゴリーの人としか集まらなくなる。でも、まったく違う人たちが集まるコミュニティに参加することで新たな発見もあります」

 さらにこう続ける。「小さな問題はあるわけですが、どうにかこうにか解決していく。今まで接したことのないタイプの人もいる中で、フラットな感覚が身につくといったら大げさかもしれないけど……。この“ボランティア組織”を経験したら、他のどんなところでもうまくやっていける力がつくよね、と、夫と冗談まじりに話しています」。

グラブ1つも高い…硬式リーグで受けたカルチャーショック

 一方で中学生になって所属するチームには、一定の秩序があると言う。月謝制だから、ボランティア的な学童野球よりもわかりやすい。

「とはいえ、中学硬式野球ともなると、学童野球とは違う軽いカルチャーショックはありました。まず硬式になったら、グラブひとつでも軟式用と比べて値段が高い。それなりにお金もかかります。何より、親の熱意も全然違う。進路もスポーツ推薦とか、高校野球を前提に考えている子が多い。夫も私も、部活程度のスポーツしかやってこなかったので、こういう世界もあるのかという驚きはありました」

 たとえば、塾に置き換えて考えてみよう。学校の成績がもうちょっと上がればいいなと近所の小さな塾に通う場合と、難関校受験をするためにハイレベルな進学塾では、指導方法も違うだろうし、親の力の入れようだって違うだろう。それと似ていると宮崎さんは語る。

 両方を体験している宮崎さんは、結局、各家庭それぞれのスタンスでチームを選び、野球に取り組めばいいのではと考えている。

体験会のたびに聞かれるのは…やはり「当番について」

 少年野球人口は減っていると言われているが、宮崎さんの次男が所属するチームでは、小学校の授業でのティーボールの経験や、WBC効果で野球に興味を持つ子が増え、新入部員が増加しているそうだ。学童野球ではマネジャー役を担っている宮崎さんは、体験会のたびに「当番について」聞かれると言う。

「うちの学童野球も当番はありますが、そこまで頻繁には回ってきません。試合の応援も自由参加です。家庭環境はみんな違うわけですから、それぞれのスタンスでいいと思っています」

 最低限のことはやって、あとは関与しないタイプもいる。毎回、グラウンドに行くとか、試合は欠かさず来るとか、人それぞれだ。

 最低限というのも、チームによって度合いが違うから「体験会では親の役割についてきちんと聞き、あとは全体的な雰囲気を見るのも大事ですね」と宮崎さん。さらに「チームによっては今の時代には合わない伝統が残っている場合もあるかもしれません。親としてはチームのスタンスを見極めつつも、チーム側も時代に応じて変えていく必要があるかもしれません」と続けた。

「わたしが興味深く思ったのは、夫の変化です。長男の時は、いざ一緒にやってみたら熱量がすごくて、ふたりで朝練もしていました。でも、しょっちゅう親子喧嘩になるわけです。『オレは土日もお前のために』的なことを言って、“いやいや、あなたが好んで積極的に関わっているわけでしょ”とこちらは思うわけですが(笑)。でも、最初はそんなものですよね、次男にはあれこれ言わなくなりました」

 宮崎さん自身も、子どもと一緒にプロ野球観戦に行くようにもなった。家族の形は子どもの成長によって、少しずつ変化していく。親も子も、迷いながら悩みながら、気づけばきちんと足跡を残して進んでいる。少年野球が中心となって回る家庭があったっていい。どこかで子どもの興味や関心が変わるかもしれないけれど、今、夢中になるものがあるのなら、家族みんなでひとかたまりになって応援するのも素敵なことだ。

 宮崎さんは年がら年中「ハワイ帰り」みたいに日焼けしている。「今、カメラ担当もしているから日傘もさせないし、日焼け止めつけてても気づくと真っ黒になっているのよね」と笑う。少年野球の母を満喫している笑顔がいい。

 すべての少年野球ママの皆さん、いろいろあるかもしれないけれど、子どもと一緒に泣いたり怒ったり笑ったりしながら過ごしましょう。「少年」野球の日々は実はとても短い。後できっと、密度の濃い親子の時間を懐かしく思う時がくるから。(大橋礼 / Rei Ohashi)