「残念ながら、日本が本来の価値を出せなかったゲームと言えるだろう」

 スペインの名伯楽、ミケル・エチャリはそう言って、アジアカップ、グループリーグで日本がイラクに1−2と敗れた試合を振り返っている。

「日本がイラクより実力が上のチームであることは間違いない。しかし、こうした短期決戦の大会では、ちょっとしたメンタルの違い、集中力の違いで、試合の流れは大きく変わる。その証拠に、ベトナム戦も含めて、前半・後半の立ち上がりや終了間際のゴールがやたら多くなっている。その点、日本は今後も過信は禁物だろう」

 エチャリはクラブのダイレクターや監督養成学校の教授を歴任し、言わば指導者という職業をマネジメントする立場だった。レアル・ソシエダのコーチ陣のなかにも、エチャリの直系の教え子も少なくない。オサスナを率いるハゴバ・アラサテ監督などもそのひとりだ。

 多くの指導者から敬愛されるエチャリは、スペイン人監督が率いたイラク戦の敗北をどう分析したのか。


イラクの選手にハイボールの競り合いで敗れるシーンが目立った日本代表 AP/AFLO

「日本は立ち上がりから、相手がロングボールを入れてくる展開に戸惑いが見えた。センターバックのふたり(板倉滉、谷口彰悟)は、ハイボールをイラクのFWアイメン・フセインと競るのを避けているようだった。これにより簡単に後手に回ってしまう。

 そして4分、ハイボールをほとんど競れずにアイメン・フセインにつなげられ、右サイドから攻め込まれると、そこから呆気なくクロスを入れられる。GK鈴木彩艶は不安定なゴールキーピングで、ベトナム戦に続いてパンチングの強度があまりに弱い。こぼれ球をアイメン・フセインにヘディングで叩き込まれた。

 リードされた日本は立て直したかったが、攻守はちぐはぐなままだった。自陣からしっかりとビルドアップからボールをつなげようとするが、プレッシングを浴びてもたついてしまう。イラク人選手は体格がよく、走力もあって、日本はアドバンテージを消されていた。

 トップ下に抜擢された久保建英だが、やや前へつっかけすぎていたし、ボランチの守田英正も久保に合わせて前にのめり込みすぎていた。結果的に戦線が伸びてしまい、カウンターを浴びやすくなった。焦りからか、攻撃が中央に偏りすぎ、単調だったのもあって、奥深くまで侵攻できていない。久保を起点にカウンターで狙うシーンなどはあったが、単発に終わったと言えるだろう。

【後半、戦術的エラーは改善されたが...】

 悪手だったのは、南野拓実の左サイドでの起用だ。

 ベトナム戦、私は南野をベストプレーヤーに名前を挙げたが、ゴールに近いところで仕事をさせるべき選手である。過去の代表戦でも、サイドで使った南野は躍動していない。監督側から見た場合、サイドでパワーを出して(球際で戦えるし、ボールキープできる)ほしいのはわかるが、それでは南野のゴールへの迫力は封印されてしまう。

 前半終了間際、右サイドの菅原由勢が簡単に入れ替わられてしまい、カウンターから折り返しを再びアイメン・フセインに決められたシーンは、前半のちぐはぐさの象徴だったと言えるだろう。アイメン・フセインは完全なフリーで、伊藤洋輝は前を取られて何もできなかった。菅原、伊藤というふたりのサイドバックは、イラクのアタッカーとの対峙で問題を抱えていた。

 後半に向けて、戦術的修正が必要な状況だったのは間違いない」

 エチャリはそう言って、不利に立った前半を振り返っている。

「後半、森保監督は論理的な手を打った。南野をトップ下気味に戻し、久保を右、伊東を左に配置。さらに谷口を下げ、冨安健洋を入れることで高さにも対応させた。

 これで戦術的なエラーは改善されている。

 菅原、伊藤のサイドバックも、攻め込む回数が増えた。南野はトップ下から右へ流れてクロスを折り返すなど、自由に攻撃を展開することで彼らしさが戻った。全体的に攻撃スピードが上がって、押し込めるようになっていたし、1点でも早い時間帯で奪い取っていたら、状況は劇的に変わっていた可能性もあるだろう。

 ただ、ここでノッキングが起こった。

 後半途中、森保監督は久保を下げ、堂安律を入れている。大会を通じた体力配分かもしれないが、堂安を入れるにしても、久保は残してプレーを続けさせ、同点に持ち込みたかった。堂安は果敢にゴールに迫ったが、コンビネーションの点で優位に立てず、しばしばボールを失って孤立していた。もし久保が近くにいたら、相手が守りを固めても脅威になっていたはずだ。

 後半アディショナルタイム、日本は一矢を報いた。CKから遠藤航が相手GKのミスを突いてヘディングで決め、1点差に詰め寄っている。しかし時、すでに遅く......」

 エチャリは試合展開を好転させたことについては高い評価を与えたが、十分ではなかったことも指摘した。

「特に前半は、打つ手が裏目に出た試合と言えるだろう。単純に、イラクのセンターフォワードがよかったこともある。次のインドネシア戦では、本来の日本の姿が見られるのを楽しみにしたい」