「チームのダイレクターをしていた立場から言うなら、こうした大会のスタートとしては悪くなかった」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリはそう言って、アジアカップのグループリーグ、日本がベトナムを4−2で下した試合をそう振り返っている。

 エチャリはダイレクターの立場で、長くレアル・ソシエダを支えてきた。現在のダイレクターであるロベルト・オラベ、監督であるイマノル・アルグアシルも当時は麾下選手だった。チーム全体を引き上げる役割をしてきただけに、プロフェッショナルとしての視点になるのだろう。

「失点のシーンなど、いくつかの課題は出た。しかし、しっかりと勝利を収めて、イエローカードも1枚だけで、今後に引きずるマイナス点がない。何より、主力と見られる選手以外の活躍が目立って、ポジティブな面が多かった」

 エチャリは、ベトナム戦をどう解析したのか?


ベトナム戦でトップ下に起用され、2ゴールを挙げた南野拓実 photo by VCG/AFLO

「日本は4−2−3−1で、それはオプションのひとつの布陣だったが、先発メンバーに久保建英、三笘薫、上田綺世、冨安健洋、鎌田大地(メンバー外)などは不在で、新鋭や復帰メンバーが顔を揃えていた。カタールW杯後、森保一監督は戦力的な上積みをできていたか、問われるメンバーだった。

 その答えは、『上々だった』と言える。

 遠藤航、守田英正は主力として水準の高いプレーを見せていたが、ベストプレーヤーは南野拓実だった。

 今シーズン、南野は所属するモナコでも5得点4アシストと得点に関わる仕事ができているように、先制点もしっかりポジションを取って、ひと振りでネットを揺らしていた。同点弾になる2点目も、遠藤からのラストパスを駆け引きしながら受け、完璧なシュートを流し込んでいる。

 昨年10月のカナダ戦で、私は代表に復帰した南野のプレーに高い評価を与えている。それは以下のような内容だった。

『南野の代表復帰は本当に喜ばしい。彼はトップ下に近いポジションで、あらためて攻撃能力の高さを示した。鎌田に近いポジションだが、よりゴールに対する意識が強い。必ずポジションに入れるし、攻撃にインテンシティを与えられる。

 前半39分、浅野拓磨のクロスに飛び込み、触ることはできなかったが、その動きが相手を惑わせ、オウンゴールを誘発。シュートを外すシーンも目立ったが、今回はゴールを狙うポジションを取れていたことと、周りとの連携ができていたことを収穫とすべきだ』

【修正すべき課題】

 試合を重ねるなかで、南野はこの時の印象が当たっていたことを証明してくれている。ダブルボランチを組んだ守田、遠藤とのコンビネーションも抜群。コンビネーションの渦を作り出すような鎌田とは違ったタイプのトップ下として、もしくはセカンドストライカーとして、もうひとつのオプションになるだろう」

 エチャリは、そう言って南野のプレークオリティの高さを称賛している。カナダ戦の当時、「シュートを外しすぎだ」と批判さえ受けていた南野を擁護したのは、慧眼だったと言えるだろう。"ゴールが決まったかどうか"だけではなく、"その後にどうなるか"を見極めながら起用することも重要だと言う。

「カタールW杯後の日本は、そういう視点で見た場合、確実にチーム力はアップしている。

 右サイドバックに抜擢された菅原由勢はひとつの収穫であり、効率の高いプレーを見せている。また、左サイドバックの伊藤洋輝は、まだまだパスが合わないところはあるが、確実に成長の跡が見える。そして逆転弾を決めた中村敬斗は、完全に個人技でゴールを決めた形で、楽しみな逸材である。

 一方で前半、ふたつのセットプレーから失点したのは、修正すべき課題と言えるだろう。

 ひとつ目のCK。ゾーンで守るのは悪くないし、相手のラッキーパンチだったとも言える。しかし、遠藤は前を取られており、戦術上のミスだったのも間違いない。相手のサインプレー、フリックの技術でしてやられる形だっただけに、修正が求められる。

 もうひとつ、FKから決められたシーンは、まずFKを与えたところで後手に回っていた。そして気になったのは、ほとんど全員が下がって守備をしていたのだが、人が余ってしまっていることで、それぞれが責任をお互いに預けてしまい、局面で後手に回っていた点だろう。ふたりの選手が重なって相手に競り負けてしまい、GK鈴木彩艶もボールを大きく弾き出すことができずに前へこぼし、そのボールに対しての反応もベトナムの選手よりも遅れていた」

 エチャリはそう言って厳しい指摘も加えながら、次のイラク戦に向けてのエールを送っている。

「課題は出たが、真摯に改善に取り組むことで、チームを強化できる。悲観することではない。

 終盤は上田、堂安律、久保などを投入。遠藤からのパスを堂安、久保とライン間でつなぎ、上田に通し、ブロックを抜いて打ち込んだ4点目のゴールなどはすばらしかった。日本の戦力の分厚さを見せつけたと言える。

 次のイラク戦も、成長するチームに期待する」